第二百五十六話苦しみは試練
大友宗麟(おおとも・そうりん)。
今年、生誕490年を迎える彼は、粗野で無慈悲な暴君という悪評がある一方で、当時では珍しい国際感覚に優れたグローバリストという評価も高い、謎の多い戦国武将です。
彼の評価を一変させたきっかけは、彼が治めた街、大分市の大規模な発掘調査。
宗麟の屋敷跡などが、1998年からおよそ20年の歳月をかけて掘り起こされました。
出てきたのは、南蛮渡来の陶磁器の数々。
広い敷地には、大きな池や教会、劇場や病院などの痕跡が残り、ここが国際文化都市であったことを物語っています。
400年以上前の世界地図では、九州には大きく、アルファベットでBUNGOと記されていました。
西洋人にとって九州とは、豊後だった時代があったのです。
宗麟は、大分に多くの日本初をもたらしました。
初めての西洋式病院の建設、初めての西洋演劇の上演、1557年のクリスマスイブに、我が国で初めて、大分市の中心部、府内で西洋音楽が演奏されましたが、それを後押ししたのも宗麟でした。
大分市の遊歩公園には、西洋音楽発祥の地の記念碑も建てられています。
宣教師フランシスコ・ザビエルとの出会いから、当時ご法度だった布教を許し、自らも洗礼を受けるまで、西洋を知ろうと努力した賢人は、日本の未来を見据えていました。
彼の信条は、この言葉に集約されています。
「人生における敗北・苦しみは試練であり不幸ではない。灼熱の炎に磨かれる黄金のように試練によってこそ人は高められる」
どんな風評や試練にも耐え、九州 六か国を治めた偉人、大友宗麟が人生でつかんだ明日へのyes!とは?
戦国武将・大友宗麟は、1530年、豊後府内、現在の大分県大分市に生まれた。
九州の名門守護、大友家を継ぐ嫡男の誕生に父も母も歓喜した。
父は、豊後、筑後、肥後半国を治める名将。
母は、北九州、博多を支配する大内義隆(おおうち・よしたか)の妹だった。
お互いの領土を侵さない和議のための結婚。
しかし、大内氏は、妹がいる豊後に攻め込む。
防戦し大内氏をなんとか退けたが、父は激怒。
「大内の領土、博多を必ずとってやる!」と復讐に燃えた。
母の立場は危うくなり、博多に返されてしまう。
宗麟2歳にして、母との別れ。
ここから、彼の試練が始まった。
父は、ほどなく再婚。
男の子が生まれ、父は大友家の家督を、宗麟ではなく、その子に渡すと宣言。
寵愛から一転。
突然、宗麟は余計者のレッテルを貼られることになる。
「父上は…ボクを、捨てようとしている…」
大分、豊後を世界に知らしめた武将、大友宗麟は、弟だけを溺愛する父を見て育つ。
自分は余計者。この世にいらないもの。
そんな思いが日に日に強くなり、宗麟は喧嘩に明け暮れる。
「どうせボクなんか…」
そんなささくれだった気持ちを持て余した。
正当な嫡男である宗麟こそ、大友家を継ぐに値するという家臣が、謀反を企てる。
結果、母親違いの弟は殺され、父も命を落とした。
その事態に最も心を痛めたのは、宗麟だった。
父を恨んだこともある。
でも、父が自分を愛してくれていた思い出も、しっかり記憶の隅にあった。
「父上…」
亡骸にすがろうとするのを、家臣にとめられる。
「あなたはもう、大友家の主なのです。主には主のふるまい方がございます」
宗麟は思った。
こんな小さな領土をめぐって争うことがおかしい。
幼い頃、父は南蛮渡来の掛け軸や陶磁器を見せてくれた。
「世界は広い、小さくまとまってはいかん、世界にはおまえが知らないことがたくさんあるんだ」
宗麟は、父の言葉を思い出し、涙を流した。
戦国武将・大友宗麟は、父の仇をとるように大内氏に攻め入り、博多を支配下に置いた。
父の領土に、豊前、筑前を加える。
さらに肥前も治め、九州六か国の王になった。
豊後の王様、豊後王として君臨。
しかし、心のどこかにいつも虚しさを抱えていた。
裏切りや謀反。
多くの血が流れることに心を痛めた。
32歳のときに、出家。
その一方で、キリシタンの活動も支援した。
早々に長男に家督を継ぎ、自身は教会に通う。
広い世界から見れば、わずかな領土を奪い合う戦国の世が、はかなく、哀しく見えた。
総代の改宗を危惧し、大友家はざわつきはじめる。
宗麟はやがて、キリシタン王国を築く夢を抱く。
世界中がひとつになり、争いがなく、文化や芸術が守られる世の中を切望。
しかし、戦国の世は、そう簡単には終わらない。
宗麟が西洋の文化を取り入れれば取り入れるほど、反発も多く、領土は混乱。
やがて南から島津が攻めてくる。
志半ばで、病に散った。
宗麟の心には、いつも父がいた。
父にいつか褒めてもらいたい。
そんな彼の強い思い。
文化が、世界をひとつにする。
戦は、新たな戦を産むだけ。
平和のためであれば、どんな試練にも耐えてみせる。
【ON AIR LIST】
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