yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百五十六話 好きなものを手放さない -【奈良篇】画家 上村松園-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百五十六話好きなものを手放さない

明治、大正、昭和と、美人画を書き続けた女流日本画家がいます。
上村松園(うえむら・しょうえん)。
毛筆で繊細に描かれた、気品ある美人画は、今も人気が高く、今年開催された山種美術館での企画展には、あらゆる世代の多くのひとが訪れ、「美人画の大家」という称号が健在であることを証明しました。
奈良市にある「松伯美術館」は、上村松園、その息子の松篁(しょうこう)、孫の淳之(あつし)の三世代にわたる作品が、保管・展示されている稀有な美術館です。
現在は、「熱帯への旅―極彩色の楽園を求めて―上村松篁展」が開催されています。
上村松園が画家を志した封建的な明治時代は、女性が画家になって身を立てるというのは、かなり難しいことでした。
男性ですら、絵で成功することなど、至難の業。
保守的な画壇にあって、女性が絵で食べていくなど、到底かなうはずのない夢のまた夢だったのです。
それでも、松園は諦めませんでした。
男性の中にたったひとり混じり、どんなに陰口をたたかれ、時には罵詈雑言を受けても、絵を画くことを手放さなかったのです。
弱冠15歳の時、第3回内国勧業博覧会で一等褒状を受賞。
上野公園に集まったおよそ100万人のひとたちが絶賛、しかもその作品を、イギリス皇太子コノート殿下がお買い上げになったことで、さらに話題になりました。
松園の波瀾万丈の生涯は、多くの作家の創作欲を刺激し、宮尾登美子は、松園をモデルにしたとされる『序の舞』で、第17回吉川英治文学賞を受賞。
映画化もされ、松園ブームを加速させました。
彼女の人生の、何が私たちの心をうつのでしょうか。
「西の松園、東の鏑木清方(かぶらき・きよかた)」と称された美人画のレジェンド・上村松園が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

美人画を得意とした女流画家・上村松園は、1875年4月23日、京都市四条御幸町に生まれた。
父はすでに他界。松園は次女。
母は、女手ひとつで二人の娘を育てた。
母は、夫が生業としていた、お茶の葉を売る、葉茶屋を引き継いだ。
店の常連客は、近所のひとたち。
通りに暮らしていたのは、儒学者や能楽師、瓦版をつくる絵草子屋など、文化や芸術に関わる面々が多かった。
商いをする母の横で、いつも半紙に絵を画く女の子。
それが松園だった。
店にやってくる客は、幼いながら、集中して絵に向き合う松園を面白がった。
「お嬢、なかなか面白い絵を画くじゃないか」
「よくもまあ、そんな方向から人間を描いたねえ」
あるひとは、古くなった筆をゆずってくれ、あるひとは、余った紙を持ってきてくれる。
分厚い図案集を抱えてきて、貸してくれるひともいた。
母もまた娘のために、なけなしのお金で、錦絵や芝居絵を買った。
ふかした芋より、絵を喜ぶ松園。
「まったく、おかしな子だねえ、誰に似たんだろう」
母は、不思議な面持ちで、我が娘を見つめる。
顔中、墨だらけの松園の笑顔は、天使のように輝いていた。

美人画の大家・上村松園は、幼い頃から、絵に対する情熱を持っていた。
母は、その熱の入れ方がだんだん怖くなっていく。
茶の葉の配達を頼んでも、なかなか帰ってこない。
心配してあたりを探すと、たいてい、物語本を売る本屋の前にしゃがんでいる。
松園が見つめるのは、挿絵だった。
物語と、挿絵。
お話のいちばん盛り上がる場面を切り取る術をどうにか会得できないかと思案しているようだった。
小学校に入ると、図画の中島先生に見いだされる。
「上村の作品を、京都市の連合展に出品しておいたよ」
まさか、いきなり賞をもらうとは思わなかった。
副賞でもらった硯(すずり)が、うれしくてうれしくて、もったいなくて使えなかった。
母と姉と三人で、壁に張り出された受賞作を観に行く。
母には正直、絵の良しあしがわからない。
ただ、父もなく苦労をかける娘たちが、たった一枚の絵の前ではしゃいでいるのを見ると、涙が出るほど幸せな気持ちになれた。
「お母さん、すごいね、すごいね」
姉も妹の功績を素直に讃えている。
二人ともいい子に育ってよかった。
母は、心に誓った。
松園が望むなら、この子に、とことん絵を習わせてあげよう。

小学校を卒業した上村松園が美術学校に進むことを、親戚一同、反対した。
でも、母は、盾になった。
「この子が、どうしても絵が習いたいというんです。どうか、許してやってください! お願いします!」
親戚の家をまわっては、頭を下げた。
そんな母の姿を、松園は終生、忘れなかった。
当時、絵で身を立てることなど、夢のまた夢。
まして女性ともなると、封建制の強い時代に、不可能だと言われた。
それでも、松園は諦めなかった。
自分に得意なものは、絵を画くことしかない。
自分が寝食を忘れて没頭できるものも、絵を画くことだけ。
ならば、選択の余地はない。
どんなに茨の道でも、この道を行くしかない。
たとえ、誰も歩んだことのない道でも、この道しか見えない。
上村松園の祖父は、役人でありながら飢えに苦しむひとのために乱を起こした、大塩平八郎の血筋だという。
頑固で一徹。
言い出したらきかない松園の負けん気は、祖父ゆずりと言われた。
ただ、絵が画きたい。ただ、いい絵が画きたい。
その願いこそ、彼女のたったひとつの武器だった。
晩年、上村松園は、こう書き記した。

「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ、私の念願とするところのものである。
その絵をみていると邪念の起こらない、またよこしまな心を持っている人でも、その絵に感化されて邪念が清められる…といった絵こそ、私の願うところのものである」

【ON AIR LIST】
ユー・ガッタ・ビー / デズリー
ベスト・パート / H.E.R. Feat.ダニエル・シーザー
DREAMING GIRL / 矢野顕子

★今回の撮影は、奈良市の「松伯美術館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
松伯美術館では、2022年8月28日(日)まで【熱帯への旅―極彩色の楽園を求めて―上村松篁展】を開催中です。
開催中の企画展など、詳細は松伯美術館公式HPでご確認ください。
松伯美術館 HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのイタリア風ヘルシーサラダ

今回は、奈良で盛んに栽培されている野菜、トマトを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのイタリア風ヘルシーサラダ
カロリー
175kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • トマト
  • 1個
  • サラダ菜
  • 1個
  • アンチョビ
  • 1尾
  • 黒オリーブ
  • 4個
  • オリーブオイル
  • 大さじ2
  • レモン汁
  • 大さじ1
  • 小さじ1/4
  • こしょう
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは大きめにほぐす。トマトはくし形に、アンチョビはみじん切りにする。黒オリーブは半分に切る。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイルを熱し、アンチョビと霜降りひらたけを入れて炒め、塩、こしょう、黒オリーブを加える。
  • 3.
  • サラダ菜、サラダミックス、トマトを器に盛る。
  • 4.
  • (3)にレモンをふりかけて、(2)を上にのせる。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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