yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第七十七話 日常から逃げない -【函館篇】 脚本家 野田高梧-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第七十七話日常から逃げない

日本を代表する映画監督、小津安二郎。
その作品の多くの脚本を書いたシナリオ界、伝説のひとがいます。
野田高梧(のだ・こうご)。
彼は、北海道・函館に生まれました。
父親は、函館税関に勤めている役人でした。
野田が、今から65年前の1952年に書いた『シナリオ構造論』は、のちの脚本家たちに多大な影響を及ぼしました。
彼が紐解いた脚本の構成、セリフ、プロットの組み立て方は、時代に色あせることはありません。
その証拠に昨年、復刊されました。
彼は本の中で言っています。
作家がある出来事に感動したのであれば、その原因がどこにあるか探求し、真実としての普遍性を見いだせ、と。
彼自身の言葉をもってすれば、こうです。
「事実から真実へ、真実から空想へ、空想からさらにそれの具象へと。この心的経過が遺漏なく成し遂げられていないかぎり、すぐれた作品とはなり得ないであろう」。
野田は、物語の種になる、事実を大切にしました。
日常を丁寧に見ました。
毎日、判で押したような日々を送る役人の父親の行動に、ささいな変化を見出していたのかもしれません。
日本人の平凡な日常の中の、悲哀や愛情を繊細に描いた小津作品の根幹を担ったのは、野田高梧という脚本家だったと言っても過言ではないでしょう。
小津と野田は、いつも二人で脚本をつくりました。
蓼科の山荘で、酒を酌み交わしながら、脚本づくりに熱中した二人の男。
彼らが格闘した相手は、「日常」でした。
大きな事件は起きない。大それたアクションもない。
でも静かな反乱や革命、出会いや別れは、日常に潜んでいることを知っていたからです。
脚本家・野田高梧が、生涯を通じてつかんだ日常の凄み、そして、人生のyes!とは?

映画監督・小津安二郎が生涯を通じて、全幅の信頼を置いた映画づくりのパートナー、脚本家・野田高梧は、1893年、函館に生まれた。
父は函館の税関長だったが、野田が3歳のとき、長崎に転勤。
そこで彼は初めての活動写真『月世界旅行』を観た。
面白かった。絵が動く、それを観て人々が驚き、笑う。
隣の父親が視線はスクリーンに残したまま、言った。
「活動は、いいなあ」。
10歳のとき、名古屋に引っ越す。
母親は、芝居好きだった。
家では、映画、芝居は公認。
いつも連れられていたが、しまいには、授業をさぼって、自分ひとりで行くようになった。
それが学校にばれて、停学処分をくらう。
それでも、映画や芝居はやめられない。
「こんなに面白いお話を、いちばん最初に考えたひとは、誰なんだろう」。
そんな素朴な疑問が、脚本家・野田高梧の始まりだった。
小学5年生になる頃には、仲間と同人誌をつくった。
「文章世界」という文芸誌に作品を応募して入選もした。
大学は迷わず、文学部。早稲田にすすんだ。
最初は映画より、芝居にのめり込む。
少ないセットの中、限られた役者で演じる舞台が好きだった。
たったひとつのセリフで、観客の想像力をかきたてる魔法。
それを手に入れたいと思った。
派手なもの、奇想天外な作風ではなく、淡々とした日常を描く作品に魅かれた。
「日常にこそ、絶望と希望がある。毎日どう生きるか、それは人生も舞台もおんなじだ!」

脚本家・野田高梧は、大学を卒業後、雑誌の記者になった。
ペンネームで映画批評も書いたが、収入は安定しない。
それを見かねた義理の兄が、役人になることを勧めた。
東京市役所に就職。
しばらく、父と同じような役人暮らしを体験して、結婚。
このまま、つつがなく生きていくのかと思われた。
そんなとき、1923年9月。関東大震災が起きた。
なんとなくこのまま続くと思われた日常は、もろくも壊れた。
人生に何の保証もない。日常に何の約束もない。
たった一日、いやたった一瞬で、フィクションのようなありえない現実が押し寄せてくる。
野田は、思った。
「どうせ一度の人生だ。悔いのないように、生きよう。それには、好きなことのそばにいるのが、いちばんだ」。
松竹蒲田脚本部に、小学時代の同級生がいた。
見よう見まねで、脚本を書いた。タイトルは『櫛(くし)』。
脚本部に正式に採用された。
野田は、30歳になっていた。
33歳のとき、運命的な出会いがあった。
のちに日本を代表する映画監督になる、小津安二郎の監督第一作の脚本を書いた。
以来、小津の作品は、ほとんど野田が書いた。
小津もまた、日常にフォーカスしていた。
小津と野田。二人は車の両輪のように、御互い、なくてはならぬ存在になった。

脚本家・野田高梧について、小津安二郎は、こんなふうに語った。
「僕と野田さんの共同シナリオというのは、もちろん、セリフひとつまで二人して考えるんだ。セットのディテールや衣装まで二人の頭の中のイメージがピッタリ合うというのかな、話が絶対にチグハグにならないんだ。セリフの言葉尻を『わ』にするか『よ』にするかまで、合うんだね。これは、不思議だね」。
蓼科の山荘での二人だけの合宿。
ときには、意見が合わないこともあった。
そんなときは、二日も三日も口をきかない。
話すことといえば、
「野田さん、白樺の葉が散り始めましたね」とか、
「小津さん、ゆうべは夜半に谷間のほうで、クイナが鳴いていましたね」
とあたりさわりのないことをしゃべった。
でも、どんなときも二人には、ブレない共通項があった。
それは、日常から逃げない。真実は日常の細部に宿る。
だから、日々、感じるもの、見たものをおろそかにせず、丁寧に生きる。
そうすれば、ほんのささやかな所作で、哀しみが見える。
喜びが表現できる。
野田は思い出していた。
毎日、判で押したような日々を送る、役人だった父のひとこと。
「活動は、いいなあ」。
ふつうに暮らしているひとに届くものを創りたい。
脚本家・野田高梧は、日常から終生、逃げなかった。

【ON AIR LIST】
Turn Turn Turn / 山本精一
普通の日々 / エレファントカシマシ
Two of Us / The Beatles

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと鶏ひき肉のごまみそ炒め

映画監督・小津安二郎と脚本家・野田高梧は、蓼科の山荘で酒を酌み交わしながら、二人で脚本をつくっていました。そんなエピソードにちなみ、蓼科高原がある長野県茅野市の特産、みそを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鶏ひき肉のごまみそ炒め
カロリー
273kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2個
  • ピーマン
  • 2個
  • サラダ油
  • 大さじ2
  • 【A】長ねぎ
  • 5g
  • 【A】生姜
  • 5g
  • 【A】鶏ひき肉
  • 80g
  • 【A】みそ
  • 大さじ2
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 小さじ1/4
  • 【A】ごま
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • なすは乱切りにする。
  • 3.
  • ピーマンはヘタと種をとり、2cm角に切る。
  • 4.
  • 【A】を混ぜ合わせておく。
  • 5.
  • フライパンに油を温め、(1)~(3)を炒める。全体がしんなりしたら【A】を加え、鶏肉に火が通るまで炒める。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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