yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第八十一話 幸せは好きの傍にある -【仙台篇】 小説家・精神科医 北杜夫-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第八十一話幸せは好きの傍にある

小説家にして精神科医の北杜夫は、東北大学の医学部を卒業しました。
彼が4年間過ごした仙台。
当時の仙台は、戦後間もない頃で、綺麗な並木道も、ひとびとが集うデパートもありません。
彼は『どくとるマンボウ青春記』にこうしるしています。
「いざやってきた仙台は、空爆で中心部があらかたやられていて、砂埃の多い、殺風景な、木の香りなどほとんどない、都会とも、田舎ともつかぬ場所であった」。
でも、北は、ここでの暮らしを満喫します。
大学の講義にはほとんど出ずに、昼は卓球をして、夜は仙台銀座で飲み歩きました。
街中には市電が走っていて、最初は乗り方にとまどったそうです。
仙台市電保存館には、今も、当時の市電が展示されています。
ケヤキ並木が美しい定禅寺通りも、北が大学に通っていた頃は、何もない、ただの広い道でした。
そんな風景も、やがて愛おしく思えてくるほど、彼にとって仙台という町は、決して忘れることができない大切な心のふるさとになったのです。
北杜夫は、躁うつ病を抱えていました。
それを隠さず、むしろその病状をユーモラスに描くことで、世間のイメージを変えたと言われています。
気性の激しい、歌人で医師の斎藤茂吉を父に持ち、船の医者として世界中をめぐるなど、ひとが容易に体験できないことをやってのけて、それを文章にしてきた、北杜夫。
彼が抱えた光と闇、そして明日へのyes!とは?

小説家にして精神科医・北杜夫は、1927年5月1日、東京・青山に生まれた。
父は、歌人として名をなした斎藤茂吉。父のもうひとつの顔は、青山脳病院の院長だった。
小学生時代の北は、病弱だった。性格も内向的で、運動が苦手。
5年生のときに、急性腎炎で3学期をまるまる休んだ。
勉強はなんとか追いついたが、体力は低下した。
彼自身、この休みでさらに性格がひねくれてしまったと振り返っている。
自分の存在に自信が持てない。その劣等感こそが彼に弱者に寄り添う心を育てた。
病の床で彼を慰めたのが、一冊の昆虫図鑑だった。
色鮮やかな虫たち。どうしてこんなにも多くの種類が必要なのか。
そんなことを考えているのかいないのか、彼らはひたすら自らの短い生を生き抜く。
何も言葉を発することもなく。
麻布中学に入ると、昆虫採集に熱をあげた。
青山墓地が遊び場だった。
昆虫図鑑を擦り切れるほど、読み込む。原色写真の形態は、暗記した。
名前も憶え、しまいにはラテン語名まで言えるようになった。
ファーブルのような昆虫学者になりたい。
そんな夢を抱き、長野県松本市の旧制松本高校に入学した。
そこで彼は衝撃的な出会いをする。
トーマス・マンという作家の『トニオ・クレーゲル』という作品だ。
文学に初めて触れ、初めて父の偉大さを知った。
「作家になりたい」。そう思うようになった。
たったひとことが人生を変えるときがある。たった一冊の本が、ひとの一生を左右することがある。

どくとるマンボウこと、作家の北杜夫は、父のいいつけを守り、医者になるべく宮城県仙台市の東北大学に通う。
でも、医者に興味が持てない。
ひたすら小説を読み、自分でも書いた。
さまざまな懸賞に応募する。それはことごとく落選。
やっとひとつだけ、詩が入選するが、その出版社がつぶれてしまい、日の目を見ることはなかった。
大学3年のとき、同人誌に小説が採用された。
このとき初めてペンネーム、北杜夫と名乗る。
大学を出ると、慶應義塾大学医学部神経内科教室に助手として入局。
「まあ、小説は売れそうもないし、しばらく医者をやっていようか」
軽い気持ちだった。
忙しい医局勤めの中、睡眠をけずり、執筆にあてた。
コツコツ、ただ書く。書いて書いて、書き続ける。
そのことでしか、自分が生きているという手ごたえが持てなかった。
30歳を過ぎて、ようやく芥川賞候補にまでなった。
でも、焦る。
「このままでいいのか、オレはすっかり老け込み、文学老年のような気がしてきた」。
人生の岐路。才能がないと思って、諦めるのか…。
でも彼は知っていた。
たった一度の人生を味わい尽くすには、好きなことを手放してはいけない。

北杜夫が、ようやく作家への突破口を開いたその年。
彼はなぜか、マグロ調査船「照洋丸」に、船の医者として乗り込むことを決める。
5か月にも及ぶ、航海。
アジア、アフリカ、ヨーロッパ。
熱帯の地で出会った、昆虫たちに狂喜乱舞した。
「少年時代に夢見て、穴が開くほど眺めた図鑑にのっている虫たちが、現実にそこにいる。あの色鮮やかな蝶が、目の前にいる。こんな幸せがあるだろうか!」
ドイツでは、自分の一生を変えたトーマス・マンの故郷を訪れた。
ドイツではのちに妻となる喜美子にも出会っている。
各地をめぐった体験は『どくとるマンボウ航海記』としてまとめられ、これがベストセラーになった。
ユーモア読み物の書き手という称号は彼に経済的な恩恵と、彼自身思ってもみなかった新境地を開いて見せた。
さらに戦争の悲劇を描いた『夜と霧の隅で』で、芥川賞を受賞。
軽妙なエッセイと純文学の両方で成功をおさめた。
その二つを書かせたもの、それは、彼の弱者に寄り添う心だった。
かつて病弱だった自分。劣等感にさいなまれ、しかも心の病を持っている自分。
その屈折を彼は優しさに変換した。
彼は、編集者にも「北先生」と呼ばせなかった。
「北さんと呼んでください」。そう告げた。
「先生なんて呼ばれるとね、自分が偉いって勘違いしてしまうからねえ」。
決していばらない。決してカッコつけない。
彼の文体そのものが、彼自身だった。
人生は、こちらが構えなければ、様々なメニューを用意してくれる。
あとはそれをゆっくり選び、味わい尽くせばいい。
彼のメッセージが聴こえてくる。
「焦らなくていい、何度でも、人生はやり直せる」。

【ON AIR LIST】
Northern Sky / Nick Drake
Turn Back Time / The Feelies
流動体について / 小沢健二
サルビアの花 / 早川義夫+佐久間正英+HONZI

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのポトフ

マグロ調査船に船の医者として乗り込み、自分の一生を変えたトーマス・マンの故郷であるドイツを訪れた、北杜夫。ドイツでは、のちに妻となる喜美子にも出会いました。そんなドイツの名物として有名な、ソーセージを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのポトフ
カロリー
153kcal (1人分) ※マスタード、塩、こしょうは含まず
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • にんじん
  • 中1/2本
  • 玉ねぎ
  • 1/2個(100g)
  • ソーセージ
  • 4本
  • キャベツ
  • 2枚
  • チキンコンソメ
  • 1個
  • 2カップ
  • バター
  • 小さじ1
  • マスタード、塩、こしょう
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけはたべやすくほぐす。
  • 2.
  • にんじんは大きめの乱切りにする。玉ねぎは縦に4つに切る。キャベツは食べやすく切る。
  • 3.
  • 鍋にチキンコンソメと水、(1)、にんじん、玉ねぎを入れ、火が通るまで煮る。そこにキャベツとソーセージを加えて、火が通るまで煮る。
  • 4.
  • 汁の味をみて足りなければ、塩、こしょうを加える。
  • 5.
  • 盛る直前にバターを入れて香りを出し、汁ごと器に盛る。お好みでマスタードを添える。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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