yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第十二話 闇の中の光 -小説家・石川 達三-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第十二話闇の中の光

芥川賞、第一回の受賞者、石川達三。
彼は、軽井沢をこよなく愛し、軽井沢ゴルフ倶楽部の常連でした。
スコアはシングルプレーヤー。作家仲間の中でもその実力は群を抜いていました。ハンデは、白洲次郎と同じ、3。
ある日のコンペでは、39、42の81。
それでも石川達三は悔しがっていたと言います。
ここに一葉の写真があります。
軽井沢の別荘のバルコニーでくつろぐ、石川の写真。
白いシャツに、ベージュのパンツ。
黒縁メガネの石川が照れたように笑っています。
テーブルの上には、スイーツ。まだ手をつけていません。
彼は別荘での生活をこんなふうに書きました。
「散歩道をつくって、ふろのたきぎをとったり、花をつんだりしています。鳥はうぐいす、かっこう、ほととぎす、かけす、あとはいろんな鳥がいるけど名前がわからないな。りす、きじなんかもいますよ。この家は気に入ったオルゴールの形に似せてあるんです」
作家、石川達三が見つめた、人生のyesとは?

作家、石川達三は、1905年7月2日、秋田県横手市に生まれた。父は、秋田県立横手中学の英語科の教員だった。
9歳のとき、母を亡くす。人生の理不尽、不条理に対面する。
甘えることを知らずに過ごした。
父は翌年、再婚する。いくつかの転居のち、早稲田大学に進む。
22歳のとき、大阪朝日新聞の懸賞小説に、入選した。
うれしかった。人生で初めて誰かに認められたような気がした。
大学を中退して、小説家になる夢をいだく。
いろんな出版社に原稿を持ち込んだ。でも、門前払い。あるいは、「すまんねえ、キミは、どうだろう、作家としてはねえ」
つっかえされた。
食べるために就職したが、結局、うまくいかない。
退職金をつぎこみ、ブラジルに渡ることにする。
移民船の監督官。自分を変えたかった。今いる自分を好きになりたかった。
神戸の移民収容所からは、戦前戦後を通じて、20万人のひとが南米に旅立った。
彼らは、別に日本を離れたかったわけではない。やむにやまれぬ理由があった。徴兵のがれ。貧しさからの脱却。
石川は、そんなひとびとの哀しさと、一縷(いちる)の希望を、自分の目に焼き付けた。
神戸港から旅立つ家族連れ。見送りなどない。先の保証もない。
それでも旅立たねばならぬ、ひとびとの、想い。
彼はその体験を小説にした。
船が行く海は、ほの暗い、いや、見渡す限り、海は、青々としている。
タイトルは・・・『蒼茫』。

1935年、作家、石川達三は、小説『蒼茫』で第一回芥川賞を受賞した。受賞を逃した太宰治は選考委員の川端康成に文句を言った。
石川は30歳。これからの作家人生に光が射した。
翌年、結婚。その後、社会批判をテーマにした作品を書いた。
1938年、『生きてゐる兵隊』が、新聞紙法に問われて、禁固処分を受ける。急に闇がやってきた。
「ただ、戦争の事実を書いただけだ」
石川の想いは、通じなかった。
その後も海軍報道班として、東南アジアを取材してまわった。
書くということ。作家の言葉への誇りは、失わなかった。
「私は社会派ではない。ただ、何が正しいか、あきらかにしたい
だけだ」


作家、石川達三は、『人間の壁』、『金環蝕』などの作品で、社会派作家としての地位を確立した。
軽井沢の別荘で過ごす時間が、至福のときだった。
ゴルフに熱中した。
作家、丹羽文雄と軽井沢ゴルフ倶楽部でプレーするのが好きだった。
ゴルフは、自己責任。ゴルフは、自分との闘い。そして、ゴルフには、弱い自分を見つめられる時間があった。
ひとの弱さを描くこと。そこに全てがあった。
たったひとつの出来事で堕ちていくひとを書くことで、警鐘を鳴らしたかった。
「人間は、強くない」。
だから強くありたいと願い、上にあがりたいと望む。
かつて観た神戸の港。
新天地ブラジルを目指したひとの想いを、思い出す。
彼らの目の光は、貧しさに弱かったけれど、決して、消えてはいなかった。
石川達三は、問う。
「今、自分の目は、ちゃんと光っているか」
本当の敵は、外にいるのではない。いつも、自分の中にいる。

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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