yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百七十九話 現実を疑え! 自分を疑え! -作家 フィリップ・K・ディック-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百七十九話現実を疑え! 自分を疑え!

主演、ハリソン・フォード。監督、リドリー・スコット。
1982年に公開されたSF映画『ブレードランナー』は、多くのファンを魅了し、いまなお伝説の映画として愛されています。
その『ブレードランナー』が近未来として描いていたのが、今年。すなわち、2019年の世界でした。
20世紀初頭、遺伝子工学を突き進めた企業・タイレル社は、レプリカントと呼ばれる人造人間を開発。
彼らは宇宙開拓の過酷な労働を担っていました。
しかし、やがて高い知能を持つレプリカントは反乱を起こし、人間に反旗を翻します。
人間社会にまぎれこんだ、脱走したレプリカント。
彼らを始末する専任捜査官は、「ブレードランナー」と呼ばれました。
2019年11月のロサンゼルス。
地球に降り続ける酸性雨の中、レプリカントと人間の戦いが最終章を迎えます…。
『ブレードランナー』の原作は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。
作者の名前は、フィリップ・K・ディック。
ディックは、映画化についてはずっと懐疑的でした。
最初に映画化権を得たマーティン・スコセッシは、断念。
そのあとも、映画の脚本にディックが異論を唱え、何度も改稿を重ねるうちに、撮影にはこぎ着けず、座礁。
そんな中、リドリー・スコットは、ディックと粘り強く話し合い、脚本家も変え、映画化を実現させたのです。
2019年のロサンゼルスのVFXシーンをラッシュプリントで観たディックは、こう言いました。
「ああ、素晴らしい! これこそ、まさに私が想像していた近未来だ!」
彼は、映画会社に賛辞の手紙を書きました。
「この映画は、SFの概念そのものを変える革命的な作品になるに違いない」
しかし、映画の完成を見届ける直前、53歳の若さで彼はこの世を去りました。
ディックの作品は、いつもアイデンティティを疑うことから始まります。
そして、現実をあざ笑うかのような描写の数々。
メッセージは、おそらくこうです。
君が見ている世界をただ受け入れていいのかい?
疑う心を持とう、現実を、そして自分を。
奇才フィリップ・K・ディックが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

映画『ブレードランナー』の原作者、フィリップ・K・ディックは、1928年12月16日、イリノイ州シカゴで生まれた。
二卵性双生児として20分遅れて生まれた妹は、1ヶ月あまりでこの世を去る。
物心ついてそれを知らされたとき、フィリップは、絶望的な喪失感を抱く。
会えなかった自分の片割れ。
失ったからこそ、その存在は永遠に心に刻まれることになった。
と同時に、いつも妹が見ているような不思議な感覚も味わう。
現実で会えないのであれば、想像の世界で会おう。
そんな心の流れが、フィリップを作家にしていったのかもしれない。
フィリップの父は、1929年の世界的な大恐慌のあおりを受けて、職を失う。
ネバダで精肉業を管理する仕事を得るが、母は、父と一緒に行くのを嫌がった。
母は、労働省の児童福祉局で編集の仕事をしていた。
結局、フィリップが5歳のとき、離婚。
彼は母に引き取られ、母の転勤先、ワシントンD.C.に移り住んだ。
彼は幼くして、さまざまな病に悩まされた。
喘息、不安神経症、激しいめまい。
学校に行こうとしても、起き上がれない。
まわりからは、ずる休みだと思われ、叱られた。
人混みが苦手。広場恐怖症で、閉所恐怖症だった。
そんなフィリップの唯一の救いは、漫画やSF小説だった。
読んでいると、自分の想像が物語を追い越していく。
気がつくと、自分でストーリーを紡いでいた。
世界は、自らの手の中にあった。

SF界の奇才、フィリップ・K・ディックは、小説と同じくらい音楽が好きだった。
15歳の時、ラジオ局で働く。レコード店にも勤めた。
でも、不安神経症が再発。外に出られなくなった。
小説を書く。
現実を笑うような、壊すようなフィクションを書くと、心がスッとした。
亡くなった双子の妹に会えるような気がした。
以来、彼は、53歳で亡くなるまで、ひたすら書き続ける人生だった。
毎日休まず、書く。
小説を書かないときは、日記を書いた。
日記では、自分自身にインタビューする。
おまえは、何者だ? なんのために生まれてきたんだ?
なぜ、妹は死に、自分は生き残ったのか…。
あるとき、母に問い詰めた。
「母さん、なんで妹は死んでしまったの?」
母は、正直に話してくれた。
当時、あまりに貧しくて、生まれた双子を放置したと。
妹は栄養失調で亡くなった。
たまたま見回りにきた巡回保健婦が彼を見つけなければ、彼もこの世にいなかった。
両親への激しい怒りが全身を震わせた。
と同時に妹が不憫でたまらなかった。
「これが、現実か…こういうのが現実なら、僕はもういらない」

フィリップ・K・ディックは、なんとか高校に行き、カリフォルニア大学バークレー校に入学するが、結局、中退。
執筆だけで食べていく道を選択した。
マニアックなSF小説誌には掲載されるが、原稿料は微々たるもの。
再びレコード店で働くが、すぐに病気が出て、外に出られなくなった。
彼の小説は、暴力描写や過激な設定が多く、出版社から拒否された。
そのたびに、落ち込む。
自分を否定されたようで、哀しかった。
それでも書くことは辞めなかった。
書くことは、生きること。
そして唯一、妹と会話できる行為だったから。

フィリップは終生、経済的には苦しいままだった。
彼が亡くなったのちに、さまざまな彼の作品が映画化された。
『トータル・リコール』、『マイノリティ・リポート』。
映画は大ヒットを記録し、彼の名は全世界に知れ渡った。
生前、あまりに貧しいフィリップを見かねて、SF小説の巨匠、ロバート・A・ハインラインが、彼にこんな電話をかけた。
「ディック君、君は素晴らしい才能を持っている。その才能を生かして、もっと小説を書いてほしい。何か私にできることがあったら、遠慮なく言ってくれたまえ」
うれしかった。
素直にお金を借りた。
初めて大人に誉めてもらったような気がした。

現実が辛いなら、それを壊せばいい。
壊す方法は、自分で考える。
大切なのは、自分とは何かを知ることだ。
自分がわかれば、生き方が見える。
フィリップ・K・ディックは、不敵に笑ってこう続けるだろう。
「どうやったら自分がわかるかって? そんなのは、簡単さ。まずは、疑ってみるんだ。自分ってやつを信用しすぎちゃ、ダメだ。俺はずっと聞いてきた、妹に。俺はこれでいいのか? 間違ってないのか? ってね」

【ON AIR LIST】
DARK STAR / Grateful Dead
ワルツ「我が人生は愛と喜び」作品263 / Jo.シュトラウス(作曲)、ズービン・メータ(指揮)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
MAIN TITLES (映画『ブレードランナー』) / Vangelis
WHO I AM / Victory

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの和風グラタン

今回は、寒い季節にぴったりのこちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの和風グラタン
カロリー
431kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 里芋
  • 6個(200g)
  • ほうれん草
  • 1/3束
  • 長ねぎ
  • 1/2本
  • ベーコン
  • 4枚
  • ホワイトソース
  • 200g
  • 味噌
  • 大さじ1・1/2
  • とろけるチーズ
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、里芋は皮をむいて食べやすい大きさに切り、500Wのレンジで1分加熱する。
  • 2.
  • ほうれん草はさっと茹で、食べやすい大きさに切る。
  • 3.
  • グラタン皿に輪切りの長ねぎ、1cm幅に切ったベーコン、里芋を並べ、ホワイトソースと味噌を合わせ、上からかける。
  • 4.
  • ほうれん草、霜降りひらたけを盛り、とろけるチーズを上にのせ、200℃のオーブンで10分焼く。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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