yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百七十四話 ほんとうを追い求める -【日本の文豪篇】宮沢賢治-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百七十四話ほんとうを追い求める

来年、没後90年を迎える、岩手県出身の文豪がいます。
宮沢賢治(みやざわ・けんじ)。
37年の短い生涯で産み出した作品は多く、詩編およそ800、童話およそ100と言われています。
さらに驚くべきは、詩作だけに時間を費やしたわけではなく、農業、学校の教師、砕石工場の技師など、さまざまな仕事に従事、その合間を縫って、エスペラント語の習得や、オルガンやチェロなどの楽器の練習を続けたのです。
その姿は、名作『セロ弾きのゴーシュ』に投影されています。
セロがうまく弾けずに、楽団長にいつも怒られているゴーシュ。
ヘトヘトで自宅に帰ると、猫や鳥、タヌキが次々やってきて、音階やリズム、音の奏で方を伝授していきます。
ゴーシュは、毎晩、満足に眠ることができません。
それでも、動物たちのおかげで、少しずつ少しずつ上達していくのです。
賢治は、全国どこに旅するときも、大きなトランクを抱えていました。
そのトランクの中には、書き溜めた、あるいは書いたばかりの原稿が、びっしり詰まっていたのです。
最初にトランクいっぱいに原稿を書いたのは、東京・本郷菊坂町でのことでした。
宮沢賢治、25歳にして初めての本格的な上京は、父と信じる宗教の違いによる、家出同然の逃避行。
父からの仕送りは送り返し、昼間は活版の印刷所で働きながら、夜は童話や詩を書き綴りました。
8か月足らずで、妹の病の報を受け、岩手に戻りますが、トランクの中は作品でいっぱいでした。
手紙に、こんなふうに書き記しています。
「私は書いたものを売ろうと折角しています。
それは不真面目だとか真面目だとか云って下さるな。
愉快な愉快な人生です」
生前、賢治が作品で原稿料をもらったものは、童話『雪渡り』ただひとつだけと言われていますが、彼はいつもトランクに詰めた「希望」を抱え、彼なりの「ほんとう」を探す旅を続けました。
生涯、「ほんとう」を追い求めた唯一無二の作家・宮沢賢治が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

宮沢賢治は、1896年、明治29年8月27日、岩手県の花巻に生まれた。
父は、質店や古着屋を営む財産家。裕福だった。
同級生には貧しい農家の子どもが多く、その農民からお金を得ている自分の家が、複雑に映る。
特に小学3年生のときには、岩手は冷害による大凶作。
農民たちは、今日食べるものを手に入れるために、質に家族の衣類を入れた。
苦しんでいる農民から、まるでお金を搾取しているような心持ちになって、賢治は落ち込み、そして、父を憎んだ。
でも同時に、そのお金で衣服を整え、食事に困らない生活をしている自分もいた。
「どっちが、ほんとうなんだろう…。
みんなが幸せに暮らす世の中というのは、ないものだろうか…」
幼くして感じた違和感は、一生、賢治の心に刻まれることになる。
人一倍、傷つきやすい心を持った賢治は、本を読み、石を集め、昆虫に話しかけることで、バランスを保つ。
担任の八木先生が語る童話に夢中になった。
物語の中では、世界は平和で、ひとはみな幸せだった。
「いつか、こんな物語を書いてみたいな…」
現実からの逃避。彼は物語に「ほんとう」を探した。

宮沢賢治は、同じく東北出身の太宰治と、どこか似ているかもしれない。
裕福な実家に対する恥ずかしさと憎しみ。
と同時に、そのおかげで生きている自分、という矛盾。
外面は、快活で陽気だが、実はひどく内向的で、ひとと心を打ち溶け合うまでに時間を要する。
さらに幼少期から体が弱く、病に苦しめられる…。
どちらも、四十を待たずして亡くなるが、多作だった。
ただ、大きく違うのは、賢治が、物語の中だけに「ほんとう」を求めなかったこと、なのかもしれない。
16歳で石川啄木を知り、短歌に傾倒する一方で、現在の岩手大学農学部、盛岡高等農林学校農学科に、首席で入学。
全国の農事試験場などに興味を持ち、地質調査に出向く。
農民が、いかにして効率的、平均的に収益をあげることができるか、そのために、土を触り、風土を調べた。
「土壌を改良すれば、肥料を変えれば、悪天候に負けない農業が実現するかもしれない」
農民たちの意識変革には、教育が大事だと悟り、教師になる。
農学校で、化学、数学、英語、土壌学を教える傍ら、童話や詩を書き続けた。
しかし、書いても書いても、童話はひとつも売れなかった。

宮沢賢治の現実との格闘は、さらに続く。
30歳の時に、農学校の教師を辞め、花巻郊外で独居自炊の生活を始める。
畑を耕し、野菜や花をつくり、近くの若者たちと共同生活をおくった。
羅須地人協会、設立。
農村に理想郷を打ち立てる。
無料で講演会や肥料の相談を請け負い、新しい農業の普及に努めた。
しかし、年配の保守的な農家の意識を変えることはできない。
追い打ちをかけるように、社会主義の一派ではないかと警察から取り調べを受ける。
やがて、活動は休止。
現実に「ほんとう」を求めた賢治は、挫折する。
「ちっぽけなボクがやれることなんて、もう何もないのかな」
病に倒れる。
だが、賢治は諦めない。
東北砕石工場の技師になって、肥料の改善、製品の営業を受け持つ。
大きなトランクを抱え、秋田、宮城に出張し、合成肥料を売り歩く。
汽車の中、あるいは宿の布団の中で、童話を書いた。
現実と物語、どちらの「ほんとう」も捨てたりはしない。
トランクの中は、宮沢賢治が心血を注いで集めた「ほんとう」でいっぱいだった。
彼は晩年、弟に語った。
「あのさ、びっくりするんだけど、夜、寝ているとね、トランクの中から言葉があふれ出てきて、宙に舞うんだ。
ひらひら、ひらひらとね」

【ON AIR LIST】
星めぐりの歌 / 宮沢賢治(作詞・作曲)、坂本美雨 with CANTUS
イーハトーボの劇列車 M-3 / 井上ひさし(作詞)、宇野誠一郎(作曲)
セロ弾きのゴーシュ / さだまさし

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとひき肉のごま味噌炒め

今回は、花巻市で盛んに生産されている野菜、ピーマンを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとひき肉のごま味噌炒め
カロリー
273kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2個
  • ピーマン
  • 2個
  • にんにく
  • 1片
  • サラダ油
  • 大さじ2
  • 【A】豚ひき肉
  • 80g
  • 【A】味噌
  • 大さじ2
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 小さじ1/4
  • 【A】白ごま
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。なすは乱切りに、ピーマンはヘタと種をとり、2cm角に切る。にんにくはすりおろし、【A】と混ぜ合わせる。
  • 2.
  • フライパンに油を熱し、食材全てを炒める。全体がしんなりしたら【A】を加え、ひき肉に火が通るまで炒める。
  • recipe LIST

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ARCHIVE

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RECIPE LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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