第二百十六話自分の力をひとのために使う
平賀源内(ひらが・げんない)。
高松藩士の家に生まれた彼は、発想の奇抜さ、行動力の迅速さ、好奇心の豊かさ、どれをとっても規格外。
「人生は発明・発見の連続である!」を生涯の信条としました。
彼が発明したとされる最も有名なものが、エレキテル。
摩擦静電気装置の完成を実現させたことです。
そのほかにも、発明品は100を下りません。
夏の売り上げ不振を嘆くうなぎ屋から相談を受けると、彼はこう助言しました。
「店の入り口に、今日は土用の丑の日って書けばいい。暑いときにうなぎを食べれば元気になること間違いなしって付け加えておけばきっと大丈夫」
また、初詣のとき、神社で見かける「破魔矢」を考案したのも、源内だと言われています。
彼の生まれ故郷、香川県さぬき市にある「平賀源内記念館」には、そんな稀代の発明家の足跡が展示されています。
エンジニアとしての才能だけではなく、薬に精通した薬草学者、医者であり、建築家、俳句や詩をたしなむ芸術家としても知られている彼は、生まれながらの天才だったのでしょうか?
決して器用には生きられない彼を唯一無二にしたのは、自分の好奇心に忠実であったことです。
源内は、こんな言葉を残しています。
「良薬は口に苦く、出る杭は打たれる習ひ」。
ひとを間違って殺め、獄中で非業の死を遂げた日本のエジソン、平賀源内が人生でつかんだ明日へのyes!とは?
江戸時代の発明家、平賀源内は、1728年讃岐国、現在の香川県、志度町に生まれた。
海辺の田舎町。豊かな自然に育まれ、子どもたちは浜辺や野山を駆け回った。
でも、源内は違った。
他の子どもたちと遊ばない。
海をひたすら眺めたり、鍛冶場で刀が作られていくのをじっと見たり、米をひく様子を見つめたりしている。
母親は心配した。
「どうしたんだい、みんなと遊んでおいでよ」
源内は、答えた。
「みんなと遊ぶより、見ていたほうが楽しいんだ」
特に野に咲く草花に興味を持った。
よく観察すると、ただ緑色に見える草にもたくさんの種類がある。
源内は、それをひとつひとつ絵に画いた。
丁寧に見て、まるで草と会話するように描いていった。
さすがに父も心配して、武術を教えようとしたが、「誰かと闘って勝った負けたなど、興味が持てません」と竹刀を手にしない。
そんな源内をニコニコと見つめる人物がいた。
植物から医学を考える本草学の権威、三好喜右衛門。
三好は、源内の両親に言った。
「いやあ、息子さんはいいですよ。面白い。ひとと同じことをしなきゃならないなんて誰が決めたんですか? どうでしょう、私におまかせいただけませんか?」
こうして源内は、ひたすら草の絵を画いては三好に見せるというのが日課になった。
三好を驚かせたい、三好にほめられたい、それが彼を突き動かした。
誰一人友達はいなかったが、平気だった。
草に語りかけると、応えてくれたから。
日本のエジソン、日本のダ・ヴィンチと言われる平賀源内は、本草学の三好のもとに通い続けた。
三好は、源内の好奇心、探求心の強さをほめ、さらに伸ばした。
「私の父も本草学をやっているんだが、実家には珍しい草がいっぱいある、来てみるかい?」
三好の実家に行くと、中国からやってきた見たことのない草がたくさんあった。
興奮する源内。
しかし彼が最も心惹かれたのは、陶芸だった。
三好の父は陶器を作っていて、粘土の見分け方、地質学にも長けていた。
さらに源内少年の心をつかんだのは、ろくろ。
台を回しながら粘土を整えていく装置が面白くて仕方ない。
どうやったら、回るのか、何度も何度も繰り返し試した。
そのうち、「からくり」というものを知った。
仕掛けを作ると、物体は不思議な動きをする。
それを自分で作りたくなった。
ある日、みんなを天神様のお社に集める。
掛け軸に描かれた天神様。
その前にお神酒を捧げたとき、見ていた子どもたち、大人たちから歓声が起きた。
天神様の顔が白から赤に変わったのだ。
「て、天神様が、お酒を召し上がって、お酔いになった!」
実は、紐をひいて顔色を変える、特別製の掛け軸だった。
仕掛けを教えると、みんなから「すごいねえ」と褒められた。
それまで奇異の目で見られ、仲間からはずれていた自分を、まわりが認めてくれる。
源内は、思った。
「そうか…自分からみんなに合わせる必要はないんだ。ボクはボクの好きなことをとことんやっていればいいんだ」
こうして、発明家の小さな火が、彼の心に灯った。
平賀源内は、幼くして俳句も詠んだ。
大人顔負けの句を披露。
自慢気な表情を見せる。
からくりを作っては、周りを驚かせて、得意気になる。
当初は、自らの好奇心に従い、探求した先に喜びを見出していたが、そのうち、ひとを驚かせること、褒められることが第一義になってしまった。
「どう? すごいでしょう、ボク」
そんな気持ちが透けてみえる。
周りのひとが辟易(へきえき)していることにも気づかない。
そんな様子を見ていた源内の父は思った。
「このままでは、この子はひとに憎まれる子どもになってしまう」
父は、思い切って、源内を医師の久保桑閑(くぼ・そうかん)に預けることにした。
「ひとさまに厳しく叱っていただいたほうがいいに違いない」
大人ばかりの環境。
しかし、ここでも傍若無人にふるまう。
久保桑閑は、ついに怒った。
「自分の力をひとさまのために使わない人間は、生きている資格なんてないんだ! 好奇心は自分を成長させる大切なもの、でも、その先にあるのがただの自慢では哀しすぎる! 源内、おまえは、おまえの才能を世のため人のために使いなさい!!」
ふだんは温厚な恩師の言葉が胸に刺さった。
平賀源内は、心に誓う。
「もっともっと勉強して、知らない世界を知って、いつか誰かの役に立つ人間になろう」
【ON AIR LIST】
Te Lo Dije Feat. Miguel / Flor De Toloache
DANCE WITH ME / Orleans
MY BABY GIRL / Mestizo L.A.
I CAN SEE CLEARLY NOW / Johnny Nash
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