yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第五十話 ポジティブであること -【山口篇】 写真家 林忠彦-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第五十話ポジティブであること

山口県の東南部に位置する、周南市。
その街中にある周南市美術博物館には、ある写真家の記念室が設けられています。
林忠彦。
戦後の焼け跡にたくましく生きる子供たちをとらえた写真や、太宰治や坂口安吾など文豪の写真でもその名をとどろかせた、名写真家です。
彼は我が国の写真文化発展のためにも、尽くしました。
日本写真家協会設立に加わり、昭和28年には二科会に写真部を創設。
全国のアマチュア写真家の資質向上に、尽力しました。
その功績をたたえ、遺志を継ぎ、周南市は未来を切り開く写真家の発掘のために、林忠彦賞をつくりました。
この賞により、数多くの新人写真家が見出されています。
ここに一枚のモノクロ写真があります。
タイトル『犬を背負う子供たち』。
1946年、戦後の焼け跡がまだ生々しく残る町。
三宅坂の参謀本部跡。坊主頭の子供が二人写っています。
一人は座ってこちらを見ていて、もう一人は、立ってどこかに歩き出そうとしています。
立っている少年の背中には、野良犬がいます。
子供をすっかり信用している様子。
手をちゃんと肩にかけています。
子供たちの表情は、決して暗くない。
それどころか、瞳の輝きがわかる。
自分たちの食べるものもままならない時に、犬に餌をあげ、共に生きる子供たち。
写真家、林忠彦は、この写真にこんなコメントを寄せました。
「こんなに優しい少年たちがいるのであれば、戦後の日本の将来は、明るいに違いない」
どんな状況でも生きようとする心、前に進もうとする意志、ポジティブな思いを写真におさめた、林忠彦にとっての明日へのyesとは?

写真家・林忠彦は、1918年、大正7年に、山口県の徳山、今の周南市に生まれた。
実家は、写真館。幼い頃から、カメラに囲まれた。
徳山は、瀬戸内海に面した港町。早くから工業の起点として栄えた。
風光明媚な自然と、工場群。その一見相反するような風景が、幼い林の眼に刻まれた。
人間の暮らしを支える二つのもの。現実と夢。挫折と希望。
風土が培った種は、やがて彼を大海原へと追い立てる。
高校を出ると、大阪の写真館に修行に出される。
肺結核を病み、すぐに地元に戻る。
写真学校に入り、いつもカメラを携えていた。
彼は被写体を探していた。ここではないどこかを、求めていた。
東京に出て東京光芸社に就職。1942年には中国に渡った。
「華北弘報写真協会」をつくり、日本の宣伝写真を撮影した。
北京で敗戦を迎え、引揚者となる。
なんとか帰国して故郷に帰っても、落ち着かない。
心の飢えをどうすることもできない。彼は再び、上京。
焼け跡をさまよい、帰還兵、孤児、食べ物や仕事を求める人たちにカメラを向けた。
レンズを通して、彼はある熱量に気づく。
「このエネルギーは、いったいなんだ?どんなに空腹でも、ボロボロでも、生きようとするひとの力は凄い」
彼は思った。
「ポジティブであること、それが生きる基本ではないか」

写真家・林忠彦が、戦後の焼け跡を撮り続けた、その写真集の名前は、「カストリ時代」。
カストリとは、メチルアルコールを加えたような密造の焼酎。
もともとは酒粕をしぼりとってつくるので、カス、トリと名付けられた。
質が悪く、飲み過ぎると、失明したり、命を失うひともいた。
それでも新宿や新橋のガード下では、カストリを飲ませる店が軒を連ねていた。
この横丁で、林は作家たちと飲み仲間になった。
文士たちの眼の奥の光が彼を魅了した。
貪欲で、何かに媚びない目。
銀座のルパンというBARにもよく顔を出した。
1946年。そのBARに三人の作家がいた。
坂口安吾、織田作之助、そして太宰治。
酔った太宰が、大きな声で林に言った。
「おい、そこの写真家、織田作ばっかり撮ってんじゃないよ。オレを撮れよ、オレを!」
背の高い椅子に足を持ち上げる太宰を撮った。
全身を収めたかったので、BARのトイレの便器をまたいでシャッターを切った。
太宰はいい顔をしていた。綺麗な瞳をしていた。
林は、気持ちよさそうな太宰を撮った。
この撮影からおよそ一年半後、太宰はこの世を去る。
のちに、この写真が林忠彦の代表作になった。
それは、もうすぐ亡くなる太宰を撮ったからではない。
生きることを楽しんでいる太宰を撮ったからだ。

写真家・林忠彦の飲み友達に、作家、坂口安吾がいた。
安吾の自宅の床の間には、カストリが入った大きなドラム缶が置いてあったという。
友人たちは、それを薄めて飲んだ。
安吾は、友人たちと酒を酌み交わすことを何より好んだ。
ただ、自分の執筆部屋には、誰も入れなかった。
妻さえも、見たことがない。
ある日、林は、安吾に言った。
「なあ、見せてくれないか、どんな部屋であなたが書いているか、見たいんだ」
あまりに何度も頼まれて、仕方なく、安吾は同意した。
「こりゃまたひどい部屋だ。はははは」
掃き溜めだった。
ゴミくず、丸められた原稿、壮絶な戦いの場所だった。
テーブルに広げられた原稿用紙、丸メガネに白いシャツ姿の安吾。
こちらをキッと睨むように見る。いい顔だった。
サンクチュアリ。誰にも侵すことのできない聖域だった。
林は思った。
これが生きるってことだ。これが戦うっていうことだ。
安吾の眼は、ポジティブに、貪欲に生きようとする、エネルギーにあふれていた。
生きることは、汚い。
生きることは、格好悪い。
でも、どんなに泥に足を突っ込んでも前に進む心、生きようとする姿は、清らかで美しい。
写真家・林忠彦は、ただそれを、フィルムに焼き付けた。
ひとは、どんなときにも、前に進む心を持っている。

【ON AIR LIST】
Photograph / Ringo Starr
Piece Of My Heart / Janis Joplin
What A Wonderful World / Halie Loren

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと厚揚げの蒸し物香港醤油ソース

今回は、写真家・林忠彦が生まれ育った街、山口県周南市の特産品である、里芋を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと厚揚げの蒸し物香港醤油ソース
カロリー
325kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 厚揚げ
  • 1/2枚
  • 里芋
  • 1個
  • 万能ねぎ
  • 1/5束
  • サラダ油
  • 大さじ4
  • 【ソース】
  • 大さじ2
  • ナンプラー
  • 大さじ1/2
  • オイスターソース
  • 小さじ1/2
  • しょうゆ
  • 大さじ1/2
  • 砂糖
  • 小さじ1/2
  • 鶏がらスープの素
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。厚揚げは8等分に切り、さっと湯掻く。
  • 2.
  • 里芋は皮をむき輪切りにする。
  • 3.
  • 蒸し器で(1)は5分間、(2)は10分間蒸す。
  • 4.
  • 蒸しあがった(3)を皿に盛り付け、中央に小口切りにした万能ねぎを乗せ、熱したサラダ油をかける。仕上げに、混ぜ合わせた【ソース】を回しかける。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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