yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第九十九話 ジョンとヨーコ、それぞれのyes!前編 -【軽井沢篇】番組100話記念スペシャル-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第九十九話ジョンとヨーコ、それぞれのyes!前編

今週と来週の2週にわたり、番組100話記念スペシャルとして、軽井沢にゆかりのある、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの物語をお届けします。
二人のインタビューや数多くの著作物をもとにフィクションでお送りするドラマ『ジョンとヨーコ、それぞれのyes!』。
オノ・ヨーコ役は女優の西田尚美さん、朗読は、私、長塚圭史です。


ジョン・レノンが亡くなってから9年後の、1989年の夏。
軽井沢の緑の小道を、ひとりの女性が歩いていた。

ヨーコ:
はるばるニューヨークから日本にやってきたのだから、やっぱり軽井沢に寄りたくなった。
あれ以来、一度も足を踏み入れていない別荘を訪ねてみようと思った。

彼女の名前は、ジョン・レノンの妻、オノ・ヨーコ。

ヨーコ:
懐かしい小道には、草が生えていた。ジョンと息子ショーンと三人で歩いた道。
ジョンがいつもジョークを言って、私たちを笑わせた。三人の笑い声が、濃い緑に吸い込まれていった。

ジョン:
ほら、早くおいでよ、ヨーコ。さあ、早く!

ヨーコ:
ジョンが振り返り、私を誘う。

ジョン:
別荘まで競争だ、行くぞ、ショーン!それ!

ヨーコ:
この道を、外国からやってきた宣教師は、こう名付けた。
「ハッピーバレー」、幸福の谷。
私たちは、幸福だった。


ヨーコ:
別荘のドアを開けると、カビ臭い匂いがした。
床にショーンのおもちゃが転がっている。ジョンが読んでいた本が、そのままテーブルに置いてある。
電話の脇には、吸いかけのジタンの箱。寝室には、ギターが埃をかぶっていた。

ジョン:
毎年、ここに来るんだからさ、これはここに置いておくよ。

ヨーコ:
ジョンはこのギターで、ディナーのあと、ショーンに歌を聴かせていた。

ジョン:
さあ、今夜は何の歌にしようかな…。

ヨーコ:
軽井沢でのジョンは、いい表情をしていた。
優しく、慈愛にあふれ、何かにおびえることもなく、ふわっと包み込むような笑顔で私とショーンを見た。
あるとき、心無い批判を受けて落ち込んでいる私に、彼は言った。

ジョン:
ひとの言うことなんて、気にしちゃダメだよ。
「こうすれば、ああ言われるだろう…」
そんなくだらない感情のせいで、どれだけ多くのひとが、やりたいこともできずに死んでいくんだろう。
ねえ、ヨーコ、いいかい、幸せになることに躊躇してはいけない。
好きに生きたらいいんだよ、だって君の人生なんだから。
僕らは、幸せになるために生まれてきたんだ。


ヨーコ:
万平ホテルに泊まった。アルプス館128号室。
和ダンスに猫足のバスタブ、桜模様がほどこされた丸い灯り、大きなガラス窓。
和洋折衷の空間が、心地よくそこにあった。
窓の下は、ホテルのエントランス。
ジョンはここから、行きかうひとを見るのが好きだった。

ジョン:
軽井沢は、いいね。この吹き抜ける風はね、どこか似ているんだ、故郷のリバプールにね。

オノ・ヨーコは、朝早く自転車に乗った。
かつてジョンと一緒に遠出をした。
緑の中を走る。鳥が飛び立ち、木々の葉が揺れた。
旧軽井沢から中軽井沢に行く少し手前の道を奥に入ったところに、その喫茶店はあった。
『離山房(りざんぼう)』。

ヨーコ:
ジョンはショーンを前に乗せた。
いつもこの喫茶店のあたりまで来ると、必ず彼はこう言った。

ジョン:
なあ、ヨーコ、のどが渇いたから珈琲を飲もうよ。

ヨーコ:
9年ぶりの軽井沢。心配したが、まだ喫茶店は健在だった。
ふと、声が聴こえた。

ジョン:ねえ、ヨーコ。

ヨーコ:なに?

ジョン:いいから、ドアを開けて中に入ってごらん。

ヨーコ:え?なに?何があるの?

中に入ると、店の主人が懐かしそうな顔で近づいてきた。
そして、おもむろにあるものを差し出した。
「これはこの前いらしたときに、御主人が忘れていかれたものです。奥様にお返しいたします」。

ヨーコ:
渡されたのは、ライターだった。ジョンが愛用した、ライター。
私は、火をつけてみた。
まるで、9年間ずっと待っていてくれたかのように、勢いよく火がついた。
ジョンは好きだった、私を驚かせること。
ジョンは優しかった、私がさみしそうにしていると、必ずジョークを言ってくれた。

ジョン:
ヨーコ、受け取ってくれたかい?

ヨーコ:
ジョン、ありがとう…。
涙がこぼれそうになるのを、必死でこらえた。
ジョンは、私に人生を肯定することを教えてもらったと言っていたけれど、私もまた、彼に教わった。

ジョン:
心を開いて「yes」って言ってごらん、全てを肯定してみると案外答えがみつかるもんだよ。

ヨーコ:
私はもう一度、ライターに火をともした。


ジョン・レノンにとっては、世界中がガラスの家みたいで、隠れるところがなかった。
でも、軽井沢だけは違った。
ここでは、ただのハウスハズバンド。
まわりのひとは、絶妙の距離感でそっとしておいてくれた。
万平ホテルのテラスで、ひとりロイヤルミルクティーを飲みながらアップルパイを食べていても、自転車でフランスベーカリーにバゲットを買いに行っても、他のひととなんら変わることのない応対だった。
軽井沢という土地が持つ、全てを受け入れる懐の深さが、彼に幸せな時間を授けた。
オノ・ヨーコは軽井沢を去るとき、もう一度、幸せの谷を歩いた。

ヨーコ:
大きく息を吸って、体中で緑の香りを感じてみた。
夏の避暑地をあとにする私に、ジョンの声が聴こえた。

ジョン:
君が独りのとき、本当に独りのときこそ、誰もができなかったことをなしとげるんだ。
だから、しっかりしろ。


【ON AIR LIST】
Beautiful Boy / John Lennon
Julia / The Beatles
(Just Like) Starting Over / John Lennon
Woman / John Lennon

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけと白菜のスープ蒸し

今回は、ジョンとヨーコの思い出の地、軽井沢でブランド野菜としても生産されている、白菜を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと白菜のスープ蒸し
カロリー
29kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 白菜
  • 2枚
  • コンソメスープ
  • 400cc
    (400ccに対しコンソメキューブ1個)
  • 塩こしょう
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、白菜は一口大の斜め切りにする。
  • 2.
  • フライパンに白菜、霜降りひらたけを入れ、コンソメスープを回し加え、蓋をして、中火で10分蒸し焼きにする。
  • 3.
  • 器に盛り塩こしょうをふる。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる