yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第一話 父になりたかった -ジョン・レノン-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第一話父になりたかった

 旧軽井沢銀座の一軒のパン屋さん。『フランスベーカリー』。
軽井沢の美味しい水と豊かな空気が育んだこのパンを買い求め、毎朝、自転車でやってくる外国人のメガネの男がいました。
小さな息子、ショーンを連れた、ジョン・レノン。
自転車のカゴの紙袋からフランスパンが顔をのぞかせています。
彼は、妻オノ・ヨーコの別荘があった軽井沢で、しっかり子供と向き合いました。
亡くなるまでの三年間。軽井沢の風が、雨が、陽射しが、彼の心に家族との幸せな日々を、見せてくれました。

 彼、ジョンレノンの父親は、船乗りだった。
ほとんど家にいなかった。母親は、いつもさみしそうだった。
ある日、幼いジョンが学校から帰ると、母親が言った。
「父さんか、母さんか、選びなさい」
右手を父親が、左手を母親がつかむ。
父親を選べば、またみんなで暮らせると思った。
でもふと後ろを振り返ると、哀しそうな母親の背中。
結局、母親を選んだ。でも母親は、男をつくった。
彼は母親のお姉さん、ミミに預けられた。そう、ジョンは思ったに違いない。
「ボクは母に捨てられた」。
叔母さんは優しくしてくれた。
でも、誰にも、必要とされていない自分がいた。
この世に、居る意味がない、そう思えた。
自分の存在に、YESと言えない自分がいた。
ぐれた。やけになった。
十六歳で、また母親に会いにいった。
彼女が彼に教えてくれたもの。
ギター。エルビス・プレスリー。
仲良くなった。母親が、彼のもとに帰ってきた。うれしかった。
でも、交通事故で死んでしまった。
ジョンは二度、母親を失った。
ポールという男に会った。ギターがうまくて、顔が、エルビスに似ていた。彼も、14歳で、母親を癌で亡くしていた。
ジョンは、ポールとバンドを組むことにした。
バンド名は、『ビートルズ』。
故郷、ストロベリー・フィールズの門に、風が、吹いた。それは、どこか、軽井沢を吹き抜ける風に、似ていた。

 ジョン・レノンは愛の唄を、歌った。
歌い続け、やがてビートルズは迷走。
自分がどんな音を奏でているのかわからくなった時、ひとりのアーティストの個展を観に行った。
『オノ・ヨーコ』。
ロンドンの小さなギャラリー。真っ白な部屋の真ん中に脚立がある。
「勇気をもって、あがってみてください」
そんな注意書き。
一段、また一段、注意深く、あがる。
虫メガネがぶら下がっている。それを目に当て、天井に書かれた小さな、小さな文字を読む。
『yes』。『yes』。
彼は、ふるえた。自分をどう支えていいかわからないほど、ふるえた。
誰かに、この世をつかさどる、何かに、『yes』と言ってもらったような気がした。
「そうか・・・僕は、ここにいていいんだ」。
『yes』。彼は、初めて、言ってもらえた言葉をかみしめた。
それを言ってくれたひとが、ヨーコだった。
奇しくも名前にNOがある、YESのひとだった。

 生涯で、初めてジョン・レノンに『yes』と言ってくれたひと。
ヨーコとの間に、ショーンが生まれたとき、彼は決めた。
「ハウス・ハズバンド」になる。
ヨーコの別荘がある、軽井沢が大好きになった。
木々を吹き抜ける風が、故郷、リバプールに似ていた。
優しくて、乾いている。せつなくて、なつかしい。
雨の音を聴くために、万平ホテルに行った。
ロイヤルミルクティーの香りに満たされながら、ショーンの寝顔を見た。
父になりたかった。自分が知らない、父親という存在に、なってみたかった。
親子三人で泊まった部屋、アルプス館、128号。
窓から見えた白樺、窓から見えた小鳥、窓から見えた家族の在り方。
彼は想像した。この風景のように、全てがつながっている世界を。
軽井沢の街も人も、教えてくれた。
あなたは、ここにいていいんですよ、あなたは、この風景の中の一員ですよ。
その想い出は彼を癒し、浄化した。亡くなるまでの、最後の三年間。
軽井沢が、ジョン・レノンに幸せを見せた。
楽しかった。笑っていた。雨を感じた。風に触れた。
息子ショーンと嗅いだ、ロイヤルミルクティーの香り。
最高に、贅沢な三年間。
彼は思ったのかもしれない。
ヨーコ、いいんだよね。僕は、yesって言っていいんだよね。
自分の人生に、yesって言って、いいんだよね。

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

カロリー
調理時間
使用したきのこ
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる