yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百四十九話 人生を笑う -【鎌倉篇】作家 直木三十五-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第百四十九話人生を笑う

第159回 芥川賞と直木賞の選考会が、7月18日に行われる予定です。
芥川賞の名前の由来は、芥川龍之介。
そして直木賞は、直木三十五(なおき・さんじゅうご)という作家の名前によるものです。
直木の没後、昭和10年に、友人だった菊池寛が彼の名前を文学賞につけたのです。
直木は晩年、作家仲間でいち早く鎌倉に住んでいた里見弴(さとみ・とん)に誘われて、稲村ヶ崎に住みました。
映画製作にのめり込み、里見とともに大船の撮影所にも通っていましたが、やがてつくった映画が赤字に終わり、映画製作から手を引くことになります。
砂浜に腰を下ろし、水平線を眺めながら、大衆小説家として生きていく決心をしたのでしょうか。
彼は突然、旺盛な創作欲で小説を書き、たとえば『黄門廻国記(こうもんかいこくき)』は、映画『水戸黄門』の原作となり、大ヒットを飛ばすことになるのです。
直木三十五というのは、ペンネーム。
本名の植村の植えるという字を分解して、苗字を直木、として、文章の連載が始まったころ、31歳だったので、まずは、直木三十一。
そこからスタートして、歳をとるごとに、直木三十二、直木三十三と変えていきました。
次は三十四。でも三十四は、惨く死す、ザンシということで縁起が悪いと思い、しばらく直木三十三のまま、小説を書いていました。
しかし、一向に貧乏から抜け出すことができません。
姓名判断でも、最悪ですと言われる始末。
思い切って、四を抜いて、直木三十五でやっていこうと決めた、そんな名前なのです。
直木の43年間の人生は、失敗や挫折の連続でした。
早稲田に入るが、学費が払えず除籍。出版社を興せば、つぶれる。映画製作はうまくいかない。
いつも貧乏神が傍らにいるような人生でした。
おまけに稼げば使う浪費癖。
でも彼はいつも周囲を笑いで包み込んでいました。底抜けに明るい彼の心の秘密はどこにあったのでしょうか?
作家・直木三十五がその短い生涯でつかんだ、明日へのyes!とは?

作家・直木三十五は、1891年、大阪府大阪市に生まれた。
父が40歳のときにできた初めての子ども。
両親は喜び、大切にされた。
体が弱く、生死の境をさまようことが多かった。
いつも家の中にいて、天井を見ながら過ごした。
幼稚園に入ったときは、あまりの人見知りで動けない。誰とも口をきけない。
先生も困ったが、母はそんな直木の姿を見て、泣いた。
家は古物商を営んでいたが、貧しかった。
でも両親は、直木に教育だけはちゃんと受けさせたいと願う。
お菓子や小遣いを与えることはしなかったが、本だけは読ませた。
貸本で、フィクションの楽しみを知った。
店番をしながら、いろんなひとが出入りするのを観察する。
大衆文学の素養は着々と磨かれていった。
小学校に入る頃には他人にも慣れた。
慣れるどころか、先生も手を焼く子どもに成長していった。
ある日、担任の教師に「答案用紙のおまえの字は、小さくて読めない」と言われた直木は、翌日、教室にわら半紙を大量に持ち込み、一枚につき一文字ずつ書いて先生に提出した。
「先生、これなら読めますか?」
教師は圧倒され、言葉が出なかった。

直木三十五は、中学に入ると図書館に通うようになった。
古今東西の名作を片っ端から読む。小説だけではない。
哲学、社会学、数学や物理の本も読んだ。彼は言う。
「私は、記憶力の点において、ほとんどゼロに近い。自分でもあきれてしまうくらい、忘れてしまう。読んでも読んでも忘れていく。なにひとつ覚えていないものもある。じゃあ、読むことは無意味かというと、そうでもない。多く読み、ことごとく忘れると、物の見方、考え方が公平になっていくんだよ」。
作文は決してうまくなかったが、いつしか、文学で身を立てたいと思うようになった。
父に話すが、猛反対を受ける。
「文士では金が儲からん。政治家か、弁護士になれ!」
ガッカリした。少しは賛成してくれてもいいものなのに…。
東京に出ることにした。働いてお金をためる。
なんとか早稲田に入ったものの、お金が続かず、除籍。
ただ父を失望させたくなかったので、卒業式にちゃっかり出かけていって、友人と写真を撮った。
それを郷里に送り、父はたいそう喜んだ。
直木が文学と日々の生活から学んだこと。
それは、人生は一度きり。
だったら、枠にとらわれず、やりたいようにやるしかない。
あの世に金が持っていけぬなら、使い切るしかない。

直木三十五は、奈良の山間の小学校の代用教員をしたことがある。
授業では自分自身が主人公の一人芝居を、延々聴かせた。
試験の問題は、たった二問。
「幽霊はいるか、いないか?」
「あの世に地獄はあるか、極楽はあるか」
クラスで勉強ができないことを悩んでいる女子生徒が、答案用紙に二問とも「わかりません!」と書くと、赤で大きな丸を何重にも画いて、満点をつけた。
「それでいいんだ。わかんないものがあるから、人生は楽しい。答えがないことを、だらだら考える。そんな時間が、必要なんだ」。
生徒たちを、名前ではなく、あだ名で呼んだ。
直木は、大人気。校庭にある大きな樹によじのぼり、大きな声でデカンショ節を歌った。
「今日は天気がいいから、みんな、机を持って校庭に行こう」
樹の下で、授業をした。
直木三十五は、自分が面白いということには何でも首を突っ込んだ。
たとえ失敗してもかまわない。やらないより、やったほうが断然いい。人生は一度きりだから。
お金には、一生、縁がなかった。
あればあっただけ使う。ひとにも平気で貸した。
彼の文学碑の言葉は、こうだ。
「芸術は短く、貧乏は長し」
石碑の向こうに、彼の笑顔が見える。

【ON AIR LIST】
笑ってみ / トータス松本
Hard To Handle / オーティス・レディング
I Really Love You / ザ・デリリアンズ
Don't You Worry 'Bout A Thing / ジョン・レジェンド

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけのごちそうブリ大根

今回は、作家・直木三十五が住んでいたという鎌倉にちなみ、鎌倉で盛んに栽培されている野菜、大根を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのごちそうブリ大根
カロリー
250kcal (1人分)
調理時間
25分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1と1/2パック
  • ぶり
  • 4切
  • 大根
  • 300g
  • だし
  • 2カップ
  • 大さじ2
  • みりん
  • 大さじ3弱
  • しょうゆ
  • 大さじ3
  • 砂糖
  • 大さじ2
  • ゆずの皮
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。大根は皮をむき、乱切りにする。
  • 2.
  • ぶりは一口大に切り、熱湯にくぐらせ、水に取って洗い、水気を切る。
  • 3.
  • 鍋に水と調味料をすべて入れて火にかけ、煮立ったら大根、霜降りひらたけを入れて10分程煮る。
  • 4.
  • ぶりを入れて、落し蓋をし、更に10分程煮こむ。
  • 5.
  • 皿に盛り、千切りにしたゆず皮を飾る。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる