yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百八十七話 異端であることを怖れない -【埼玉篇】小説家 澁澤龍彦-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百八十七話異端であることを怖れない

昨年、生誕90周年を迎え、人気アニメ『文豪ストレイドッグス』の劇場版『DEAD APPLE(デッドアップル)』に新しいキャラクターとして登場し、話題を呼んだ作家がいます。
澁澤龍彦。
フランス文学者としても知られ、マルキ・ド・サドの翻訳では、わいせつ文書か否かの裁判になり、世間を騒がせました。
親友だった三島由紀夫は、このとき、澁澤にこんな葉書を送りました。
「今度の事件の結果、もし貴下が前科者におなりになれば、小生は前科者の友人を持つわけで、これ以上の光栄はありません」

澁澤は、特に晩年、エロスや倒錯の世界、教科書には載っていない歴史の隠れた影の部分を描きました。
さらに彼は、もっと生産せよ!と背中を押され続ける昭和の激動期にあって、著書『快楽主義の哲学』の中で、曖昧な幸福を求めるより、快楽こそを求めるべきだと語り、物議をかもしたのです。
「人生に目的があると思うから、しんどくなるんだ。人生に目的なんかない、みんなそこから始めればいい。曖昧な幸福に期待をつないで、本来の自分をごまかしてないか? 求めるべきは、一瞬の快楽。それでいいじゃないか。流行? そんなものを追ってどうする? 一匹狼、けっこうじゃないか。どんなに誤解されたっていい。精神の貴族たれ! 人並の凡庸ではなく、孤高の異端たれ!」
彼のそんな言葉に反論をしながらも、どこかホッとするひとが多かったのでしょう。
彼のまわりには、いつも友人知人が集い、彼との時間を楽しみました。
そのひとりに、三島由紀夫もいたのです。

澁澤は、自分の「好き」を大切にしました。
ホラー、人形、鉱物採集に、旅。
さまざまなコレクターとして、信者を集めました。
生涯、常識を笑い飛ばし、異端を貫き通した作家、澁澤龍彦が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

フランス文学者で小説家の澁澤龍彦は、1928年5月8日、東京の高輪に生まれた。
幼少期を埼玉県川越市で過ごす。
澁澤家は、かの渋沢栄一の血筋を引く、埼玉県深谷市血洗島を本拠とする名家。
父は銀行員で、母は実業家で政治家の娘だった。
澁澤はわずか3歳の頃の記憶を忘れない。
川越の、城下町の雰囲気。
江戸の風情を残した花柳界のたたずまい。
隣の家の板塀に貼ってあったポスターが怖かった。
黒い顔、白いシルクハットに蝶ネクタイのキャラクターが真っ赤な唇でカルピスを飲んでいる。
三日月のような目が笑っているようで笑っていない。
不気味だった。でも、目を引かれる。
なぜだろう…。
奇妙だけれど、目が離せないもの。
その存在は、生涯、彼の心を支配した。
川越で三度の引っ越しをしたが、三番目の家は、崖の下にあった。
崖の上から我が家を眺めるのが好きだった。
庭が見え、棕櫚の木が見える。
記憶に強烈に残っているのは、ツツジの花。
赤紫の鮮やかな花たちが、まるで崖を這いあがるように庭から迫ってくる。
綺麗というより、恐かった。
花の香りが立ちのぼり、やがて、薫風とともにどこかへ消えていった。

いまもなお多くのファンを魅了する作家、澁澤龍彦。
彼は『私の少年時代』というエッセイの中で、忘れられない幼少期の記憶について触れている。
そのひとつに、オモチャのバイオリンを弾くおばあさんの話がある。
畳の部屋の真ん中で、澁澤が「ばあや」と呼んでいたおばあさんが、バイオリンを弾いている。
歯の抜けた口で流行歌を口ずさみながら、ギーコーギーコーとでたらめに弾く。
それが面白くて、澁澤と妹は、音楽に合わせ、ふざけて踊る。
ギーコー、ギーコー。
「ばあや」は演奏をやめない。
次から次へと、歌を続ける。
そのときの様子は、彼が子どもの頃夢中で読んだ、江戸川乱歩の世界に通じていた。
不気味さ、哀しさ、そして、不条理な空気。
いつ泣き出してもおかしくないギリギリのところで、澁澤と妹は飛び跳ねていた。
澁澤家は、ほどなくして、川越から東京北区の滝野川に転居。
澁澤は、病弱。
外に出かけるより、家で本を読むのを好んだ。
5歳のとき、なぜか父親の金のカフスボタンが大好きになる。
小さな空飛ぶ円盤。
いつも手でもてあそび、日にかざして眺めた。
ある日、寝っ転がって見ていたら、手からすべり落ち、口の中に入ってしまった。
「お母さん、た、大変だ、僕、カクスボタン、飲み込んだ!」
カフスを、カクスと言い間違う。
慌てた母親は、すぐに病院に連れて行く。
ちょび髭をはやした医者はレントゲンをとった。
生まれて初めてのレントゲン体験。
機械の何から何まで珍しい。
冷たい装置の感触。
映し出された金色の物体。
「ほうら、胃の中にちゃんとあるよ」
自慢気に話す医者に、「飲み込んだんだ、あるのは当たり前じゃないか」と心で思う。
カフスボタンは、のちに排便に混じり放出されるが、このときの体験を、澁澤は鮮明に覚えていた。
異物を飲み込む、あのざらっとした感覚と、不思議な高揚感。
彼の感性は、奇妙な違和感によって研ぎ澄まされていった。

作家・澁澤龍彦は、幼い頃から、冷静に客観的に風景を眺める、もうひとつの視線を持っていた。
その風景には自分さえも溶け込み、全てを俯瞰した。
さめた目で眺めることで、異端を心に育む。
人生は、不条理で虚しい。
実体があるようで、ない。

だからこそ、人生は、自分の視点次第でいかようにも変わる。
昭和19年の冬。
太平洋戦争が激化し、たびたびの空襲が東京を焦土に変えた。
小石川の中学で避難のため夜を明かした澁澤は、旧制高校のマントをひるがえし、歩いて自宅に帰った。
いつも見る風景は一変。
家は破壊され、火災で黒焦げになっていた。
そんな残酷で無慈悲な残骸の上に、雪が積もっている。
思わず目を細めた。
雪が、朝の光にキラキラ輝いている。
澁澤は、その光景を「美しい」と感じた。
それを美しいと感じる自分の心から目をそむけなかった。
異端であるには、自分の感性を信じなくてはいけない。
簡単にひとにゆだねたり、迎合してばかりいると、やがて感性は鈍化し、ぼろぼろに朽ち果てていく。
ひとと違う生き方は困難で孤独だ。
ひとと違う感性を持つものは疎外感から逃れられない。
それでも、自らの感性を信じ、異端であることを喜ぶことができたら、ひとがたどり着けない崖の上に立つことができる。
そこには、見たことがないほど色鮮やかなツツジが咲いているに違いない。

【ON AIR LIST】
SLAVE TO LOVE / Bryan Ferry
ドミノ / パターシュ
19th NERVOUS BREAKDOWN / The Rolling Stones
AGAINST THE WIND / Victory

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとサツマイモの炊き込みご飯

今回は、埼玉県川越市の名物でもある、サツマイモを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとサツマイモの炊き込みご飯
カロリー
329kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 2合
  • 400cc
  • さつまいも
  • 中1本(150g)
  • ミニトマト
  • 6個
  • 小さじ2弱
  • 黒こしょう
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 米は洗い、ザルにあげる。
  • 2.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、さつまいもは厚さ1cmの半月切りにする。ミニトマトは半分に切る。
  • 3.
  • 鍋に米と塩、分量の水を入れ霜降りひらたけ、さつまいもをのせフタをし沸騰するまで中火で加熱し、沸騰後弱火で15分加熱する。火を止める直前にミニトマトを入れ、10分蒸らし黒こしょうをふる。
  • 4.
  • 全体をよく混ぜ、器に盛る。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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