yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百十八話 自分を哀れむことをやめる -【宇宙篇】コンスタンチン・ツィオルコフスキー-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百十八話自分を哀れむことをやめる

「地球は、人類のゆりかごである。
しかし、人類はいつまでもそのゆりかごに留まってはいないだろう」

こんな名言を残した、「宇宙旅行の父」と謳われるロシアの偉人がいます。
コンスタンチン・ツィオルコフスキー。
彼は、今から130年あまり前、『反作用利用装置による宇宙探検』という論文を発表。
空気中の揚力を利用する飛行機と違い、真空を飛ぶロケットは、爆発による反動、反作用こそが動力になりうるという理論は、独創的で画期的なものでした。
その理論は継承され、のちにソ連が打ち上げた人工衛星スプートニクや、ロケットによる宇宙飛行、宇宙エレベーターやスペース・コロニーなど、現代の宇宙工学の礎になりました。
ツィオルコフスキーは、幼い頃、猩紅熱(しょうこうねつ)によりほとんど耳が聴こえなくなり、小学校も卒業できず、独学で高等数学や自然科学を学びました。
さらに母親を早くに亡くし、孤独と貧困の中、自らの好奇心だけを頼りに、前に進み続けたのです。
モスクワの図書館に、たったひとつの黒パンを片手に通う日々。
勉強に疲れると、草原の高台に座り、夜空を見上げました。
キラキラと瞬く星たちを眺めながら、思いは果てしなく拡がっていきます。
「いつか人類が宇宙に飛び立つ日が、きっと来る」。
わずかな仕送りのお金は、黒パン、実験材料や書籍代に消えました。
ボロボロの服、伸び放題の髭。
子どもたちからバカにされ、周りの人たちに奇人と思われても、彼は幸せでした。
「生きていくのに、夢があれば十分だ」。
彼はひとつだけ、前に進むための長所を持っていました。
それは、「自分を必要以上に哀れまないこと」「意味もなく、自らを卑下しないこと」。
耳が聴こえない、孤独、貧乏。
それらを当たり前のように受け入れ、今、自分にできることを真摯に全うしたのです。
宇宙時代の先駆者、ロシアの賢人・ツィオルコフスキーが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

現代宇宙科学の基礎を築いた物理学者・ツィオルコフスキーは、1857年9月17日、モスクワの南に位置する小さな村で生まれた。
ロシア帝国ロマノフ王朝の時代。
父はペテルブルクで森林測量学を学んだのち、営林署に勤めていた。
気難しい性格で、めったに笑わない。
反対に母は、陽気で楽天的。
大地主の娘で、当時の女性としては最高の教育を受けた才女だった。
世の中には、革命の嵐が吹き荒れ、父は暴動弾圧勢力とトラブルを起こし、度々、職を失う。
貧しかった。
でも、家族は母の笑顔に助けられた。
幼いツィオルコフスキーは、不思議な子どもだった。
道端にできた水たまりを、一日中見ている。
何が面白いのかと母が尋ねると、鏡のようにいろいろなものを映し出すのが面白いという。
青い空、流れる雲、虹。
少年は、路上に、すでに宇宙を見ていた。
末っ子のツィオルコフスキーは、家族や親戚から可愛がられ、彼もまた屈託のない笑顔で周りのひとを幸せな気持ちにした。
お金はなかったが、穏やかな日々が続く。
やがて、彼の人生を決定づける出来事が起きた。
10歳のツィオルコフスキーは、ある日、高熱と発疹に苦しむ。
猩紅熱(しょうこうねつ)。
母は眠らず看病する。
幸い命はとりとめたが、聴力を失った。
長い沈黙のトンネルが、彼を待っていた。

「宇宙飛行の父」ツィオルコフスキーは、10歳で耳が聴こえなくなった。
かろうじて、左耳だけがかすかな音をとらえる。
道の向こうからやってくる同級生。
何を言っているのかわからず、素通りしようとすると、ドン!と体当たりをくらう。
「挨拶なしか!?」
別に無視したわけではない。聴こえないだけだ。
喧嘩は好まない。
ひたすら殴られた。
以来、小学校もやめてしまい、家に閉じこもるようになる。
幸い、父が読書家で、家には、たくさんの本があった。
次から次へと読んでいく。
最初のうち、父は適当に読み飛ばしているのだと思った。
試しに学術書について質問すると、瞬時に答えが返ってくる。
驚いた。ちゃんと理解している。
父は、褒めてくれなかったが、母は、大げさなくらい褒めてくれた。
「すごいねえ、すごいわねえ、あなたはきっと偉くなるわよ」
そのうち、家じゅうの本を読破。
あまった時間は、モノづくりに熱中した。
振り子時計、人形やクルマのおもちゃ。
細かく設計図を書き、古い部品をかき集めて作った。
13歳のとき、二度目の苦しみがやってくる。
母が、38歳の若さでこの世を去った。
いつも、どんなときも自分を励ましてくれた最愛の母。
亡くなる直前も、ツィオルコフスキーの手を握り、言った。
「いい? あなたは、きっと偉くなるから、ね、偉くなるから」

宇宙物理学の先駆者・ツィオルコフスキーは、16歳の時、ひとり、大都会・モスクワに出た。
小学校も中学校も出ていない我が息子の将来を案じた父は、せめて、自由に本を読める環境を与えようと思った。
息子の非凡な才能は感じていたとはいえ、モスクワでの一人暮らしを支えるにはあまりに貧しかった。
仕送りは、ごくわずか。
でも、ツィオルコフスキーは、天にものぼる思いがした。
黒パンをひとつ持ち、開館から閉館まで、ずっと図書館にいる。
数学、物理学、自然科学に興味を持つ。
身なりの貧しさや愛想のなさで、周りから疎んじられたが、ひとりの高齢な司書が、ツィオルコフスキーの味方になってくれた。
明るい窓際の席を用意してくれる。
貸出できない本を特別に貸してくれる。
ときには、柔らかいパンを差し入れてくれた。
懸命に頑張るひとには、必ず、それを見てくれているひとがいる。
「ボク、みみが、聴こえないんです」
ある日、ツィオルコフスキーがその司書に言うと、彼は、真っ白な髭を触りながら言った。
「わかっていたよ、わたしもね、片方、耳が聴こえない。でもね、くじけちゃいけないよ。自分を哀れんだら、自分が可哀相だから」
ツィオルコフスキーは、やがて、数学の教師の資格を取得。
中学校の教師になる。
その後も研究を続け、やがて偉業を達成。
世界にその名が知られるようになった。
道端の水たまり、図書館の近くの草原、彼はいつも宇宙を感じ、宇宙に守られ、天空に飛び立った。

【ON AIR LIST】
銀河鉄道999 / ゴダイゴ
ただ憧れを知る者のみが / チャイコフスキー(作曲)、東京佼成ウインドオーケストラ
流れ星 / スピッツ
Jupiter / 平原綾香

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとなすの秋パスタ

今回は、秋におすすめの料理をご紹介します。

霜降りひらたけとなすの秋パスタ
カロリー
469kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • ベーコン(ブロック)
  • 40g
  • ペンネ
  • 150g
  • バター
  • 20g
  • 500ml
  • 小さじ1/3
  • しょう油
  • 大さじ1/2
  • 黒こしょう
  • 適量
  • 大葉
  • 5枚
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。なすは1.5cm幅の輪切りにし、ベーコンは1cm幅の棒状に切る。大葉は千切りにする。
  • 2.
  • フライパンにバターを熱し、バターが溶けて泡立ったら、霜降りひらたけとなすを加えて焼きつける。焼き色がついたらひっくり返して同様に焼き、皿に一度取り出す。
  • 3.
  • ベーコンを加えて軽く炒め、水、塩、ペンネを加えて加熱する。沸騰後弱火にして時々混ぜながらペンネに火を通す。(煮詰まりそうになったら、少量の水を足す。)表記時間の1分前に霜降りひらたけとなす、しょう油と黒こしょうを加えて絡める。
  • 4.
  • 皿に盛り付け、大葉を飾る。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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