yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百二十九話 存在証明は、己で成し遂げる -【島根篇】作家 小泉八雲-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百二十九話存在証明は、己で成し遂げる

島根県松江市にある小泉八雲記念館は、武家屋敷が立ち並ぶ伝統美観地区の一角にあります。
現在行われている展示は、「文学の宝庫アイルランド:ハーンと同時代を生きたアイルランドの作家たち」。
これは、日本・アイルランドの外交樹立60周年と小泉八雲記念館リニューアル一周年記念の企画展です。
小泉八雲、本名パトリック・ラフカディオ・ハーンは、アイルランド人の父とギリシャ人の母のもとに生まれました。
縁あって日本の島根県に住むことになった彼は、日本を愛し、日本人を愛し、日本文化を愛しました。
記念館に飾られている彼の写真は、羽織袴。
体は左側を向き、右半分の顔しか見せていません。
八雲は、幼いとき左目を失明しています。しかも、右眼もかなりの近視。
それでも彼の眼光は鋭く、まるで彼の生き様を具現化しているかのように思えます。
松江の尋常中学校で英語教師をしながら、翻訳や紀行文、怪談話の執筆にいそしんだ小泉八雲。
『雪女』や『耳なし芳一』も、彼が掘り起こさなければ、どこかに埋もれてしまっていた物語なのかもしれません。
八雲にとって、書くことは生きること。
自らの存在証明に欠かせないものでした。
幼くして両親に捨てられた経験は、彼にこんな試練を与えたのです。
「自分がここにいてもいいという存在証明は、自分でするべきだ」
1904年9月26日。心臓発作で54歳の生涯を閉じるまで、彼の自己肯定への闘いは続きました。
小説家にして稀代のジャーナリスト、小泉八雲が、我々に教えてくれる明日へのyes!とは?

小泉八雲、ラフカディオ・ハーンは、1850年6月27日、ギリシャのレフカダ島で生まれた。
レフカダ島は、ギリシャの西、イタリアに近いイオニア海に浮かぶ小さな島。
父、チャールズは、アイルランド生まれのイギリス人で、軍医としてこの島に赴任してきた。
母、ローザは、島の娘。島でも有名な黒髪の美人だった。
チャールズはローザにひと目ぼれ。二人はまわりに反対されたが、それを押し切り、結婚した。
チャールズ、30歳。ローザは、25歳だった。
やがて男の子を授かった。
八雲の名前、ラフカディオは、このレフカダ島の名前に由来している。
八雲が2歳のとき、父は故郷アイルランドに転勤。
このダブリンでの暮らしが家族に破綻をうながす。
ほどなく父はクリミア戦争に従軍。家にはいない。
陽光あふれる島で育った母は、常に曇った鉛色の空のアイルランドの暮らしになじめない。
しかも…圧倒的に、寒い。
八雲が6歳のとき、心を病んだ母は、子どもを置いて故郷の島にひとり帰ってしまう。
戦地から戻った父も新しい女性に恋をして、新しく家族を築き、インドに行ってしまった。
八雲は、ひとりぼっち。母に捨てられ、父に捨てられ、誰も自分を大切にしてはくれない。
「ボクは、この世に生まれてきてよかったんだろうか」
そんな疑念が、幼い彼の心に宿る。
両親への憎しみも芽生えた。特に父への憎悪は生涯消えることはなかった。
身寄りのなくなった八雲は、大金持ちの父方の叔母に育てられる。
叔母は厳しかった。お仕置に牢屋のような暗い部屋に閉じ込められた。
そこで彼は初めて、幽霊を見た。

小泉八雲は、叔母に育てられた。
彼女は八雲を聖職者にしようと、神学校に入学させる。
彼はそれに応えようと頑張る。
「生きていていいかどうかもわからぬ自分に、叔母さんはよくしてくれる。その期待に応えることこそ、ボクの生きる意味だ」。
成績は優秀。
教会の司祭になる、真っ直ぐな道が用意されているように感じた。
しかし、相続争いに巻き込まれ、叔母の家を追い出される。
さらに追い打ちをかけるように、16歳のとき、アクシデントが起こる。
友達と回転ブランコで遊んでいた。
大きなロープの結び目が、八雲の左目を直撃。失明した。
もともと視力は弱く、右眼もかなりの近視だった。
両親に捨てられ、叔母のもとも追われ、視力も奪われた。
しかも背は低く、ぶかっこう。コンプレックスのかたまりだった。
やがて、叔母は破産。学校も辞めざるを得ない。
八雲はまるっきりの孤児になった。
躾や教養がかえってきつかった。
自らをおとしめることができない。
貧民街でその日暮らしの生活をおくりながら、書物をむさぼるように読み、明日への希望を失わなかった。
彼にとって希望とは、両親、特に父への復讐だった。
「いつか、見返してやる。いつか、ボクがここにいてもいいことを証明してみせる」

小泉八雲は、再生を期して、新天地アメリカに渡った。
本を読むこと、感じたことを文章にすることは、どんな生活の中でも日課だった。
「いつか、文章で食べていけるようになりたい」
そんな思いは、彼の中でどんどん大きくなっていった。
シンシナティに流れ着いて、ようやく新聞社の下働きの口を得た。
それは、入社して2年目のある夜のことだった。
記者たちは、放火事件で奔走。社には八雲しかいなかった。
そこへ、凄惨な殺人事件のニュース。
彼は思った。これは、勝負だ。丁寧に書けば、新聞は売れる。そうすれば、ボクの地位もあがるかもしれない。
編集長の不在をいいことに、自ら取材し、記事にして新聞に載せてしまった。
ただ、取材にはこだわった。見えない両目を死体に近づける。
匂いもする、気持ちが悪い。でも、彼にはなんていうことはなかった。
「どうせ、ボクは捨てられた人間だ。フツウにやっていたんでは、生きていけない。ひとと違うことをして、初めて自分の存在価値を証明できるんだ」
彼が書いた記事は大反響を呼んだ。その細部の描写は伝説になった。
八雲は昇格し、給料もあがった。

「ボクはこれから、世界を回ろう。世界を回って、このよく見えない目で、見てやろう。見えないからこそ、一生懸命見る。そこにボクの存在価値はあるはずだ。ああ、ようやくわかったよ。誰かに存在を認めてもらうなんて、甘かった。ボクはボク自身で、証明しなくちゃいけなかったんだ」

【ON AIR LIST】
Walk On / U2
小舟 / ハンバートハンバート
A World Alone / Lorde
loveless / くるり

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのマリネ

今回は、小泉八雲の生まれ故郷にちなみ、ギリシャの特産でもある、オリーブオイルを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのマリネ
カロリー
154kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • ズッキーニ
  • 1/2本
  • ミニトマト
  • 5~6個
  • にんにく
  • 1片
  • 【マリネ液】
  • 大さじ5
  • しょうゆ
  • 大さじ5
  • オリーブオイル
  • 大さじ3
  • 大さじ2
  • 砂糖
  • 大さじ3
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけを小房にほぐし、ズッキーニは食べやすい大きさに切る。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイル〈分量外〉を入れ、弱火にかけ、みじん切りしたにんにくを香りが出るまで炒める。
  • 3.
  • (1)を加えて炒め、しんなりしたら火を止める。
  • 4.
  • ボウルに【マリネ液】を混ぜ合わせて(3)と半分に切ったミニトマトを加えて混ぜ、皿に盛りつける。
  • recipe LIST

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ARCHIVE

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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