yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百十一話 枠にとらわれない -【北海道篇】文化人類学者 山口昌男-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百十一話枠にとらわれない

北海道網走郡美幌町出身の、稀代の文化人類学者がいます。
山口昌男(やまぐち・まさお)。
1970年代から、学問や文化の在り方を根底から変える思想論を展開。
浅田彰(あさだ・あきら)や中沢新一(なかざわ・しんいち)と共に、1980年代のニューアカデミズムを牽引しました。
山口の真骨頂は、ジャンルの垣根を越えたこと。
文化人類学、文学、演劇、哲学、美術など、あらゆる境界線を突破したのです。
その思想のフィールドは、地域、国にもおよび、あらゆる民族の多様性に、いち早く注目しました。
「学者っていうのは、そりゃあ、面白い学者のほうがいいに決まっている。いかがわしく世間をすねて、世間を恥じてこその学者。私たちが住んでいる世界は、目に映るものだけではなく、心に映る世界も大切なんですね。明るい部分だけではなく、心の底に沈殿している、もやもやしたものも含めての文化なんだと思います」
と、NHKのインタビューに答えています。
山口は、その言葉のとおり、世の中で光があたる人物や出来事よりも、負けていったもの、虐げられて消えていった文化に脚光をあてました。
特に、生涯のテーマにしたのが、道化。
文学や祭りに登場する道化、トリックスターの意味、意義についての考察は、今も全世界に影響を与えています。
カーニバルにおける道化は、この世とあの世の垣根を、唯一飛び越える存在。
世界に緊張が高まると登場する道化の姿に、ひとびとは、そのバカバカしさに笑い、心に余白が生まれます。
学者は、ある意味、道化として垣根を越える存在であるべきだ、そう唱えた山口は、漫画を描き、フルートを演奏し、さまざまな対談を受け、若者とも積極的に語りました。
今、我々に必要な道化とは何でしょうか?
文化人類学の父、山口昌男が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

今年、生誕90年を迎える文化人類学者のレジェンド、山口昌男は、1931年8月、北海道美幌町に生まれた。
両親は、共に道外から移住し、菓子店を営んでいた。
美幌町のビホロとは、アイヌ語の「ピポロ」、「水の多い場所」という意味。
山口が幼い頃、すでにアイヌ文化との触れ合いがあった。
「ガンビの皮、いらんかい」
アイヌの女性が、ガンビと言われる白樺の皮を売りに来る。
白樺の皮は、油分が多い。
火がつきやすく、長持ちするので、風呂炊きなどに重宝された。
小学1年生のときには、隣の席にアイヌの女の子がいた。
いつの間にか学校に来なくなる。
「どうしてだろう…」山口の心に、疑念がわく。
山口も、学校に行くのが嫌だった。
外に出れば、近所のガキ大将にいじめられ、泣いて家に帰る。
ずっと家にこもり、本を読んだり、漫画を画いていたかった。
山口は、隣の席の女の子と、もっと話がしたいと思った。
もっと仲良くしておけばよかったと後悔した。
内と外。そこに暮らす人々。
幼いながらに、見えない境界線は、早くも彼の日常にしのびこんでいた。
菓子店で働く青年に、できたばかりの「網走市立郷土博物館」に連れていってもらったときのことは、忘れられない。
白い壁に赤い屋根がモダンな雰囲気を醸し出す。
中に入ると、モヨロ貝塚の遺跡、オホーツク文化やアイヌ文化の展示に目を輝かせた。
自分の知らない世界が、この世にあることを知り、好奇心が止まらない。
彼は思わず、言った。
「ボク、ここに住みたい。郷土博物館で暮らしたい」。

大江健三郎や坂本龍一にも影響を与えたと言われる、文化人類学者の山口昌男。
彼は幼少期、ある人物に多大な影響を受けた。
同年代の少年、中村康助(なかむら・こうすけ)。
康助は、山口と父親が違う兄弟。
母が山口の父と再婚したあとは、中村家の祖父母に養われていた。
康助は、飛びぬけて頭がよかった。
勉強ができるだけでなく、洞察力、観察力にすぐれ、絵を画くのもうまい。
山口に、漫画を画くことをすすめた。
「見たままをそのまま画くんじゃなく、いいかい、こうやって線をひいて」
ノートに線をひいて、コマ割りする。
物語をつくった。
絵が動く。絵が、生き生きと人の心をあぶりだす。
学校の美術の時間が退屈に思えてきた。
漫画は、すごい。
ストーリーを考えることで、自分の疑問や不安が解消されていくのを感じた。
さらに、康助の家には、膨大な蔵書があった。
古今東西の書物。
戦時下、子どもたちに本が制限される中、康助の家に行けば本が読めた。
本を読めば読むほど、感じる。
「なぜ、この世に境界線があるんだろう」

山口昌男は、幼い時からぼんやりとわかっていた。
境界線は、人間がつくるものだ。
枠も、自分で勝手に作ってしまうものだ。
ひとは、境目を決めるのが大好きなんだ。
もし、そこから自由に解き放たれるには、どうしたらいいか。
山口は、とにかくたくさんの本を読んだ。
ジャンルは問わない。
琴線に触れれば、なんでも読む。
やがて、ほんとうの世界を五感で感じたくなった。
中学、高校と進むうちに、外に出ることを覚える。
泣き虫で引っ込み思案だった少年は、フィールドに出た。
書物は、ひらめきを得るきっかけをくれる。
そのひらめきを実証していくのが、フィールドワークだった。
彼は思った。
「どうせ、学者になるなら、面白い学者になろう。自分が道化になって、あらゆる境界線を越えてみよう。枠を取っ払うことでしか、見えない風景がある」

【ON AIR LIST】
道化師の朝の歌 / ラヴェル(作曲)、パリ管弦楽団、ジャン・マルティノン(指揮)
イヨマンテ ウポポ(熊送りの時に歌うウポポ) / 安東ウメ子
sa oy / MAREWREW
FIELD WORK / 坂本龍一

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと彩り野菜のうま煮

今回は、美幌町で盛んに栽培されている野菜、にんじんやアスパラガス、玉ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと彩り野菜のうま煮
カロリー
113kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 鶏むね肉
  • 1/2枚
  • アスパラガス
  • 2本
  • にんじん
  • 1/3本
  • 玉ねぎ
  • 1/2個
  • 白だし
  • 大さじ2
  • 200ml
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。鶏むね肉は一口大に切る。アスパラガスは斜め切りに、にんじんは短冊切りに、玉ねぎは薄切りにする。
  • 2.
  • 鍋に(1)、白だし、水を入れて火にかけ、具材に火が通るまで7分ほど煮る。お好みで万能ねぎや、黒こしょうをふる。
  • recipe LIST

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ARCHIVE

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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