yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百八十五話 外れることを厭わない -【福井篇】近松門左衛門-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百八十五話外れることを厭わない

越前国、現在の福井県に生まれたとされる、江戸時代の脚本家、戯曲家がいます。
近松門左衛門(ちかまつ・もんざえもん)。
書いた人形浄瑠璃は、およそ100篇。
彼の代表作『曾根崎心中』は、それまでの歴史ものではなく、町人の日常に根差した世話物。
武士や貴族などの特権階級のためだけの娯楽だった人形浄瑠璃で、町人社会で実際に起こった心中事件を描いたのです。
心中物は、大ヒット。
歌舞伎の人気演目として、今も上演され続けています。
井原西鶴、松尾芭蕉と並んで、元禄の三大作家として成功を手にした近松でしたが、その人生は決して最初から約束されたものではありませんでした。
福井藩に仕えていた父が越前を離れなくてはならなくなり、京都に流れての浪人暮らし。
貧しさと屈辱を味わい、近松は幼くして、公家に奉公に出ます。
彼自身も武士となりますが、その地位をあるとき、あっさり捨て、町人になるのです。
「物語を書くことに、一生を賭けてみたい」
今の時代で言えば、生活の安定が約束された公務員を辞めて、何の後ろ盾も保障もない、フリーの脚本家になるようなものです。
なぜ彼がそんな人生を選択したのか。
それを知る手掛かりは、彼の辞世の句にあります。
「代々甲冑の家に生まれながら、武林を離れ、三槐九卿に仕え、市井に漂いて、商買知らず、陰に似て陰にあらず、ものしりに似て何も知らず、世のまがいもの」
近松は、自らを「世のまがいもの」と思っていたのです。
だからといって、彼は腐らず、騒がず、ただ自分を生かす道を選びました。
庶民に文化をもたらした偉人・近松門左衛門が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

江戸時代の人形浄瑠璃の作者・近松門左衛門は、1653年、越前国に生まれた。
父は福井藩主に仕えていたが、なんらかの理由でふるさとに居られなくなる。
仕方なく、京都に逃げるように旅立った。
後に近松は、そのときの気持ちを俳句に詠んだ。
「しら雲や はななき山の 恥かくし」
すっかり春になったのに、山には桜が咲いていない。
そんな山が、ひどく恥ずかしい。
山をおおう白い雲だけが、哀しさを知っているようだ…。
京都で浪人として暮らす父。一家の空気は暗く、よどんでいた。
ともすれば沈みがちな環境で、二つのものが近松を支えた。
ひとつは、気丈な母。
「どんな人間にも、春の時期もあれば、寒い風が吹きつける冬の時代もあるのです。大切なのは、冬を耐えられる心を持つことができるか、なのですよ」
そう諭された近松は、春を待つ心を忘れなかった。
もうひとつ彼を支えたもの。
それは、公家に仕えたこと。
貧しさゆえの選択だったが、公家で知識や教養を得ることができた。
特に徒然草を読んだときは、感動して夜、眠ることができなかった。
書物を読むことで、ここではない場所に行ける。
文章を書くことで、救われる。
彼の脳内に、想像という種が植えられた。

元禄の三大作家のひとり、近松門左衛門は、10代の終わりに自らの人生について考えた。
父と同じ、武士の道を歩んだが、どうも自分は他のひとと違う。
どうにも全うに武士を続けられるとは思えない。
何をしてもどこか、自分を偽物、「まがいもの」に感じてしまう。
このまま全てを捨て、仏門に入るか…。
京の町で人形浄瑠璃を見るのは大好きだったが、当時、芸能の世界に身を置くことは、世を捨てることと同じ。
向こう側に行く覚悟はなかった。
彼は、近江国、琵琶湖を望む近松寺に向かった。
そこで、およそ3年の月日を過ごす。
全うに生きられないのであれば、せめて己を律し、仏に仕えて、少しでも「まがいもの」を矯正できれば…。
ある日、和尚に呼ばれ、こう言われた。
「仏門に入りたいという気持ちは、とても尊いものだが、おまえには天が与えた才がある。それは、文をしたためること。その道を極めなさい」

近松門左衛門は、もう迷わなかった。
自分が外れた人間であるなら、外れ続けることに一生を捧げよう。
しょせん全うになろうと思っても、うまくはいかない。
京に戻った彼は、四条河原町にある歌舞伎小屋、人形浄瑠璃小屋、見世物小屋に足しげく通った。
そのうち、歌舞伎役者の坂田藤十郎(さかた・とうじゅうろう)に可愛がられ、小屋で働くことを許される。
給金は、なし。
飯炊き、役者の世話など、なんでもやった。
でも、楽しかった。
今まで観客でしかなかった世界を、裏側から覗く楽しみ。
観客の笑いや涙を見て、芸能の必要性を感じた。
庶民の暮らしは楽ではない。
みんな汗水たらし、働いている。
せめて小屋の中では、現実を忘れたい。
近松の心に、創作意欲が沸き起こってきた。
いま、そこで見ているひとを感動させたい。
自分の書いたもので辛い現実を忘れてほしい。
生きる活力を見出してほしい。
「まがいもの」だからこそ、書けるものがある。
外れた人間だからこそ、伝えられる言葉がある。
そうして近松門左衛門は、江戸時代を代表する作家になった。

【ON AIR LIST】
イヤな事だらけの世の中で / サザンオールスターズ
STORYTELLERS / David T.Walker
なでしこ桜 / 和楽器バンド
新曾根崎心中 / 中島みゆき

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけと豚肉のしゃぶしゃぶ

今回は、福井の特産でもある、梅を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと豚肉のしゃぶしゃぶ
カロリー
177kcal
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 豚薄切り肉
  • 150g
  • みょうが
  • 1本
  • 2粒
  • しょう油
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、霜降りひらたけがかぶる位の熱湯を用意し、1分程茹でザルにあげる。小皿に茹で汁を小さじ4とっておく。
  • 2.
  • 残りの茹で汁に水を足し沸騰直前まで温める。
  • 3.
  • 豚肉を入れ火を通し、ザルにあげ、肉が大きい場合は食べやすい大きさに切る。
  • 4.
  • 梅をたたき、とっておいた茹で汁でのばし、しょう油で味を調える。
  • 5.
  • みょうがを小口切りにし、さっと水洗いする。霜降りひらたけと豚肉を盛り、みょうがを散らし、(4)を添える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる