yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第八十八話 未来を語れ! -【日光篇】 ソニー創業者 井深大-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第八十八話未来を語れ!

ソニーを創った男、井深大(いぶか・まさる)は、栃木県の日光に生まれました。
彼が生まれた清滝という村は、東照宮がある中心地から、中禅寺湖に向かう奥日光に位置する山里です。
父は古河鉱業 日光電気精銅所に勤務していて、一家は社宅で暮らしていました。
井深が生涯大切にしていた、1枚の写真があります。
口ひげをたくわえた父は堂々としていて、生後9か月の大を抱く着物姿の母は、驚くほど美しい。
父と同じ紋付き袴姿の大は、目を見開いてこちらを見ています。
この写真のわずか1年後、父は、病に倒れ、亡くなってしまいます。
東京高等工業、現在の東京工業大学の電気化学科を出たエリート技術者だった父。
学生時代に、静岡の御殿場に、日本で最も古いと言われている水力発電所をつくったという功績もあり、将来を嘱望されていました。
志、半ば。さぞ無念だったろうと、井深は述懐しています。
4歳のとき見たある光景を、井深は覚えていました。
それは母と身を寄せた祖父の家に初めて電気がきたときのこと。
「大人も子どもも、工事の現場をワクワクして見ていた。はっぴを着た工夫がなんと、いなせに見えたことか。天井に二本の黒い線をバリバリと、とめていく。ああ、今日の夜、電気がくる、電燈が灯る。夜が待ち遠しい。まだか、もうすぐか。そうしてついに電気が来る瞬間がやってくる。しかし、私は電気のついたそのときを覚えていない。おそらく待ちくたびれて眠ってしまったんだろう。しかし、その工夫たちの手際のよい仕事ぶりだけは、目にやきついていた」。
その原風景こそが、井深の後の人生を決めたのかもしれません。
電気は、今を照らし、未来を映します。
天才的な発明家であり、日本経済界が誇る経営者、井深大が、その生涯でつかんだ明日へのyes!とは?

ソニーを創った男、井深大は、1908年4月11日、栃木県の日光に生まれた。
優秀な技術者だった父が亡くなったのは、井深が2歳2か月のとき。
母とともに、祖父の家に身を寄せる。
祖父は会津藩の出身で、愛知県の安城では、町の名士。郡長を務めていた。
幼い頃の井深は、孤独だった。
地元の子どもたちと打ち解けて遊べない。
郡長という「偉いひとの孫」というレッテルは、幼心にも気おくれを感じさせた。
まわりが遠慮しているのがわかる。
遊び相手は、もっぱらお手伝いさんだった。
5歳のとき、母と2人で上京。目白に住んだ。
日本女子大学を出ていた母は、教育に熱心だった。
日本女子大の付属幼稚園の先生をしながら、井深を育てた。
休みの日は必ず、上野の博物館や、湯島にあった科学博物館に井深を連れていく。
特に井深にとって忘れられないのが、1914年、大正3年に開催された『東京大正博覧会』。
説明員が解説する。
「ええ、これはですね、階段がある仕掛けで、そのまま上下するんです。その上に立つだけで、自然に体が運ばれていきます。西洋では慣れているので、階段にじっとせずに飛び歩いたりします」
初めて見る、エスカレーターだった。
「すごい!なんだかわからないけど、科学ってすごい!」
純粋な驚きこそが、未来を輝かす種になる。
上野の森に、光が降った。

実業家にして電子技術者、ソニーの創業者、井深大は、小学校に入学してから、ますます機械にのめり込んだ。
ねじ回しで、時計を解体する。
組み立てようと思うが、うまくいかない。
家には、壊れた時計が散乱するようになった。
法事などで実家に帰ると、祖父や親戚は、家中の時計を隠したという。
井深の機械好き、電気好きの背中をさらに押したのは、母のこんなひとことだった。
「大、あなたのお父さんはね、それはそれは立派な電気技術者だったのよ」。
写真でしか知らない父。
偉大で、堂々として、とても追いつけない存在に思えた。
いつか、父に追いつきたい。いや、父を越えたい。
そんな思いが、大きくなっていった。
早稲田大学に在籍していたとき、「走るネオン」を発明。
マスコミにも、「天才発明家」として取材された。
彼のモットーは、こうだった。
「他のひとが既にやってしまったことは、絶対にやらない」

井深大は、戦後、欧米との技術力の差に、愕然となった。
「最先端のテクノロジー開発に着手しなければ、明日の日本はない」
テープレコーダーの開発に続き、トランジスタにのめりこむ。
実用化は難しいと言われた。でも、やらねばならない。苦しい。
まわりも反対する。でも、ここで立ち止まってはいけない。
未来は、黙っていても、輝かないから。
今を生きるということは、これから先に続く道を照らす灯りをつくるということ。
みんな勘違いしている。
温故知新は、大事だ。
過去、歴史は、学ぶべきことがたくさんある。
でも、『今』に光を当てるのは、過去じゃない。未来だ。
夢を語ろう、これから先の日本を、世界を語ろう、そうすれば、今、何をすべきかが見えてくる。
苦労して開発したトランジスタのシェアがライバルメーカーに抜かれたとき、マスコミに「ソニーがモルモット的な役割を果たした」と、揶揄(やゆ)された。
それも井深は、恥じなかった。
「私たちの電子工業というのは、常に新しいことをどう製品に結び付けていくかが大事。常に変化するものを追いかけていくのは当たり前だ。モルモット精神、大いに結構ではないか。ゼロから出発して、産業をつくる。ひとつできれば、また次に向かえばいいだけの話じゃないか。今日のことばっかり考えてるから、人間が小さくなるんだ。10年、いや30年、50年先を想像してごらんなさい。今、悩んでいることが、とるに足らないことに見えるから」。
井深大は、生涯、創造者だった。
科学を具現化して、製品化すること。その先に豊かさがある。
その流儀はまるで、村人たちのために小さな水力発電所を、骨身をけずってつくった父親に似ていた。
もしかしたら井深は、写真の中の父に、褒めてほしかったのかもしれない。
「おお、大、おまえよく頑張ったな。えらいぞ」。

【ON AIR LIST】
A Sky Full of Stars / Coldplay
Seven Seas Of Rhye / QUEEN
君の住む街 / 関取花
エソラ / Mr.Children

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ

今回は、井深大の生まれ故郷である栃木・日光の特産、わさびを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ
カロリー
185kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大さじ1
  • アボカド
  • 小1個
  • レモン汁
  • 適量
  • クリームチーズ
  • 40g
  • 【A】しょうゆ
  • 小さじ2
  • 【A】みりん
  • 小さじ1
  • 【A】わさび
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。フライパンに入れ、酒をふって蓋をし、弱火で3、4分蒸す。
  • 2.
  • アボカドは食べやすく切り、レモン汁をかける。クリームチーズは1cm角に切る。
  • 3.
  • 霜降りひらたけ、(2)を軽く和え、器に盛りつける。【A】を合わせて回しかける。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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