yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百三十三話 自分だけの道を歩む -【山梨篇】画家 藤田嗣治-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百三十三話自分だけの道を歩む

山梨県立美術館では、3月8日まで「藤田嗣治『黙示録』三連作の謎」と題した、コレクション展冬季特別企画が開催されています。
同美術館所蔵の藤田の『黙示録』は、彼がカトリックの洗礼を受ける前後に書かれた貴重な作品です。
特に、洗礼後に画かれた『天国と地獄』は圧巻。
仔細(しさい)に描かれる、救済と破壊、平和と殺戮は、見るものを釘づけにします。
『黙示録』は、間違いなく藤田嗣治という稀代の画家の宗教観をひもとく重要な作品群です。
ピカソ、モディリアニ、マチスらと、1920年代のパリに暮らした藤田は、エコール・ド・パリ、唯一の日本人。
独特な感性で賞賛を浴び、時代の寵児になりました。
彼が描く「乳白色の肌」と呼ばれた裸婦像は、西洋画壇にその名をとどめる強烈なインパクトを持っていたのです。
しかし、日本では、異端児。
特に戦争の渦が彼を巻き込み、翻弄します。
第二次世界大戦がはじまると、日本に帰国を余儀なくされましたが、戦後は「戦争協力者」のレッテルを貼られ、日本から逃げるように再びパリに戻り、フランスに帰化。
名前も、レオナール・フジタとします。
しかし今度はフランスからも「亡霊」と呼ばれ、自らのアイデンティティを喪失してしまうのです。
彼は日本を去るとき、「私が日本を捨てるのではない。日本が私を棄てたのである」という言葉を残しています。
それでも藤田は亡くなるまで、日本を愛し、日本人としての誇りを胸に生きていました。
日本から疎まれ、フランスからはじかれても、彼は愚痴や言い訳を口にしませんでした。
それはまるで彼の画法のように、訂正や書き直しをしない、直感を信じた揺るぎない一本の線のようです。
おかっぱ頭に丸メガネ、口ひげの画家、藤田嗣治が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

孤高の画家、藤田嗣治は、1886年11月27日、東京・牛込に生まれた。
自らの出自を、こんなふうに記している。
「生まれは、東京、江戸川、大曲りのほとり。大曲り生まれのせいか、生来のつむじ曲がり。ただし意地の悪い気持ちではなく、他の人の真似をしたくないだけ」。
藤田家は名門の家柄。
父は森鴎外のあとを継いだ陸軍の名医で、家は裕福だった。
広い屋敷に、厳な門。
末っ子の嗣治は、家族に可愛がられ、守られて育つ。
怖がりで人見知り。
鳥屋の前を通ったとき、七面鳥が鳴いただけで号泣して姉の胸に飛び込んだ。
正月。藤田家には、先祖代々から受け継いだ、鎧兜や刀を飾り付ける習わしがあった。
朝の光に輝く、甲冑(かっちゅう)。
幼心に、綺麗だと思った。
それらを厳粛に飾り付ける父が、誇らしかった。
穏やかでありながら、時に厳しく、医学の知識のみならず、古今東西の古典にも造詣が深い父を、嗣治は心から尊敬した。
それはある年の、夏の一日。
蝉の合唱が響く中、一家総出で蔵の虫干しをした。
外に運び出される、たくさんの蔵書。
嗣治は、その中の一冊に目を奪われる。
葛飾北斎の版画。
美しくて、大胆。ドキドキした。
それが、藤田嗣治が絵に目覚めた瞬間だった。

幼い藤田嗣治には、もうひとつ、忘れられない夏があった。
父の赴任で移り住んだ、熊本。
姉たちと近くの池で水遊びをしていた。
キラキラ光る、水の飛沫。姉たちの笑い声。
まるで天国のような幸せに包まれていた。
「た、たいへんです、おじょうちゃま、ぼっちゃま!」
女中が駆け寄ってくる。顔は真っ青だった。
「お母さまが、お亡くなりになりました」
家に戻ると、白装束の母が寝ていた。
艶やかで、しっとりとした肌。
死んでいるとは思えなかった。
このときの深い喪失感は、藤田の心に永遠に残り続けることになる。
父の転勤で再び東京に戻った藤田は、表面上は、明るいやんちゃな小学生に成長していた。
ある日、図画の先生に呼び出される。
いたずらがバレて、叱られるのだろうと思った。
おそるおそる職員室の戸を開ける。
「まあ、座れ」と先生は言いながら、舶来のドロップをくれた。
「藤田の絵は、いいな、うまい。いや、それだけじゃない。味がある。ドロップは、そのご褒美だ」
初めて先生に褒められた。
有頂天になった。
職員室の窓から、風に舞う桜の花びらが見えた。

藤田嗣治は、小学校を卒業する頃、父にある決断を話そうと思った。
自分は、画家になる。そう決めた。
父は反対するに違いない。
いつか、言われたことがある。
「嗣治は器用だから、内科ではなく、眼科か歯科はどうかな」
なかなか話せないでいるうちに、パリでの万国博覧会に、中学生の藤田の作品が出展されることになった。
もう迷っている時間はない。
でも、大好きな父を落胆させるのは辛かった。
考えた末に、父に手紙を書くことにした。
いかに自分が画家になりたいかを懇々と訴えた。
切手を貼って投函する。
数日後、夕闇迫る座敷で、父が自分の手紙を読んでいるのを見た。
きっと、反対されるだろう。叱られるかもしれない。
父の顔が半分、影で暗くなる。ドキドキした。
手紙を読み終わった父は、静かに手紙を畳み、懐からお金を取り出し、こう言った。
「これで、画材を買いなさい」。
五十円を受け取る手が震えた。
父は、藤田の目をじっと見て、付け加えた。
「ただし、世界でただひとりの画家になりなさい」

東京美術学校に学んだ藤田嗣治は、失望した。
当時の流行にのった自然主義的な作風ばかりがもてはやされていた。
特にパリから戻った黒田清輝(くろだ・せいき)が画壇を席巻。
展覧会の合否を決めていた。
藤田は、黒田に媚びなかった。
ゆえに、落選続き。
まるで挑戦状を叩きつけるように、黒田が嫌った黒い絵の具ばかりを使った。
ついに、27歳のとき、パリに渡る。
同じ異邦人として、自らの独自性に悩んでいたモディリアニと親友になった。
自分だけの絵の世界を手に入れたい。もがく日々。
やがて、日本画の手法を油彩に取り入れることに行き着いた。
絵の具にベビーパウダーを混ぜ、キャンバスも全て自分で作り、ついにあの「乳白色の肌」を描くことに成功する。
自分にしか出せない色を出す。
藤田は、誰にも媚びず、自分を見失わないことで、父との約束を守った。
「世界でただひとりの画家になりなさい」

【ON AIR LIST】
ハワイの島へ / ジョセフィン・ベイカー
弦楽四重奏曲 ヘ長調 / ラヴェル(作曲)、ヌォーヴォ・カルテット
STOMPIN' AT DECCA / THE QUINTET OF HOT CLUB OF FRANCE
PAINTER SONG / Norah Jones

【撮影協力】
山梨県立美術館
https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと彩り野菜の甘酢炒め

今回は、山梨で盛んに栽培されている野菜、なすを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと彩り野菜の甘酢炒め
カロリー
117kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 小2本
  • パプリカ
  • 1/2個
  • ごま油
  • 大さじ1
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • なすは長さを3等分にして縦十字に切り、パプリカは一口大に切る。
  • 3.
  • フライパンにごま油を熱して、なすを皮側から炒める。
  • 4.
  • 火が通ってきたら、霜降りひらたけ、パプリカを入れてさっと炒める。Aを回し入れて絡め、火を止める。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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