yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百九十九話 信念を貫く -【栃木篇】政治家 田中正造-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百九十九話信念を貫く

環境を守るために命がけで戦った、栃木県出身の偉人がいます。
田中正造(たなか・しょうぞう)。
日本初の公害事件と言われる、足尾鉱毒問題。
明治時代、栃木県の足尾銅山では、たくさんの銅が採掘されていましたが、銅を掘った時に出る鉱毒をそのまま渡良瀬川に流していたのです。
毒はたまり、田畑を枯らし、魚や家畜が死に、ついには下流に暮らす人々にまで影響が出ました。
政治家だった田中正造は、この問題に真摯に取り組み、国会でも発言。
即刻、銅山は採掘を停止するよう、訴えました。
彼の発言で社会問題になりましたが、騒ぎが大きくなることを恐れた政府は、話し合いで収束をはかろうとします。
そんなとき、洪水が起き、川が氾濫。
鉱毒の被害は、栃木県のみならず、群馬、埼玉、東京、千葉へと拡がってしまいました。
今から120年前の、1901年12月10日。
田中正造は、当時としては考えられない行動に出ます。
明治天皇に、直接訴える。
直訴状をたずさえ、議院開院式の帰途につく天皇のもとへ歩み寄ったのです。
取り押さえられ、直訴状を渡すことはできませんでしたが、どんなに捕えられ、何度拷問を受けても、自分の主張を曲げませんでした。
弱いもののために、困っているひとのために、自分にできることを精一杯やる、それは、幼い日に母が教えてくれた流儀でした。
彼が遺した、こんな言葉が、今の私たちの心に刺さります。
「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」
今年、生誕180年を迎える栃木の偉人・田中正造が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

足尾鉱毒事件の解決を訴え続けた政治家・田中正造は、1841年12月15日、下野国安蘇郡小中村、現在の栃木県佐野市に生まれた。
家は、名主。
お金に困ることのない、自由な少年時代を過ごす。
近くに川が流れていた。才川。
湧き水を源流とする、綺麗な川だった。
正造は、そこでタニシや沢蟹、カワエビをとり、泳いだ。
また、才川は農民たちの生活用水でもあり、村の生活に欠かせないものだった。
川のほとりで少年時代をおくったことは、正造の生涯に大きく影響を及ぼした。
古来より、ひとは、川の傍に暮らし、川と共に生きてきた。
川が濁れば、生活が危うくなる。
そのことを身を持って知った。
ただ、やんちゃな子ども時代。
身の回りの世話をしてくれる爺やを困らせた。
ある日、爺やにひどい口のきき方をする正造を、母が怒った。
雨の中、外に出し、家に入れない。
「立場の弱いひと、困っているひとを大切にできないひとは、人間として間違っています!」
「お母さん、ごめんなさい、家に入れてください!」
いくら頼んでも返事はない。
裏の勝手口に回り、母を見た。
母はうずくまり、泣いていた。
我が子にひどい仕打ちをする自分を責めて。
大好きな母が自分のために泣く姿を見て、正造は改心する。
「決めた。僕はこれから、困っているひとのために生きる」

田中正造は、19歳にして父の跡を継ぎ、名主になる。
自ら鍬(くわ)をふるい、藍玉を作り、子どもたちに読み書きを教えた。
農民からの信頼も厚かった。
しかし、穏やかな日々も長くは続かない。
ご領主が江戸屋敷を建設するため、農民から厳しい年貢を収めさせるという。
今でも、ギリギリの生活。
これ以上の負荷では自分たちが食べる分がなくなってしまう。
さらにご領主は建築を請け負わせる商人から、賄賂をもらっているらしい。
正造は、農民のために行動に出る。
江戸屋敷の建築中止を訴えるため、ご領主のもとへ向かった。
だがあえなく捕まる。
厳しい拷問、捕らえられた牢獄は、およそ90センチ四方の寝ても立ってもいられない場所。
正造はそこで、半年以上、耐える。
放免になっても、領地外追放。
職もなく、家族を残し、東京に旅立つ。
知人の家で世話になるが、やがて東北に行き、秋田で下級官吏の職を得た。
ここでも農民の味方になり、人望を集めていく。
それを気に入らない役人がいたのか、ある殺人事件の犯人に仕立て上げられ、投獄。
激しい拷問。
監禁は、3年にも及んだ。
牢獄の中で、正造は古今東西の書物を読み、毎日勉学に励む。
嫌疑が晴れて、自由の身になったとき、彼は34歳になっていた。
さらに、彼を失意の底に突き落としたのは、最愛の母が、病で亡くなっていたことだった。

度重なる厳しい拷問や監禁で、田中正造に、何にも屈しない魂が宿る。
「こうなったら、正しいと思ったことは、とことん貫いてやる。オレにとって正しいとは何か。それは、日々、額に汗して働くひとを守る、ということだ。それこそ、母への弔いになるに違いない」
ふるさと・栃木に戻った正造は、県会議員になり、やがて第一回総選挙で衆議院議員に当選。
その頃、渡良瀬川流域に鉱毒被害が拡がっていく。
川は、そこに暮らすひとの命綱。
正造は、立ち上がった。
議員を辞職して、幸徳秋水(こうとく・しゅうすい)と共に直訴状を作成した。

「在野の平民にすぎない田中正造が、恐れ多くもひれ伏して、明治天皇に申し上げます。
わたくしは、田畑にまみれる身分の低い男であり、法を犯し、道理を越え、陛下の乗り物の前に近づくということは、断じて許されることではなく、命を投げ出す覚悟でございます。
これまで国や民を思って生きてきましたが、最後の信念を持ってお願いいたしたく、どうか、哀れな男の直訴をお読みください」

結局、直訴状は、天皇の手に渡ることはなかったが、正造は、亡くなるまで渡良瀬川のほとりに住み続け、反対運動を続けた。
立ち退きを命じられても、決して動こうとはしなかった。
全ての財産は、活動に使い果たし、71歳で亡くなったときの所持品は、信玄袋ひとつだけだった。
その袋の中には、原稿と「新約聖書」などの書物、そしてなぜか、小石が3つ、入っていた。
その石はもしかしたら、幼い頃、川辺で遊んだときに拾った、彼の宝物だったのかもしれない。

【ON AIR LIST】
RED RAIN / Peter Gabriel
THE WATER IS WIDE / 畠山美由紀
フェニックス / 山下達郎

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ

今回は、佐野市で栽培されている食材、わさびを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ
カロリー
185kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大さじ1
  • アボカド
  • 小1個
  • レモン汁
  • 適量
  • クリームチーズ
  • 40g
  • 【A】しょう油
  • 小さじ2
  • 【A】みりん
  • 小さじ1
  • 【A】わさび
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。フライパンに入れ、酒をふってフタをし、弱火で4分ほど蒸す。
  • 2.
  • アボカドは食べやすく切り、レモン汁をかける。クリームチーズは1cm角に切る。
  • 3.
  • 霜降りひらたけ、(2)を軽く和え器に盛りつける。【A】を合わせて回しかける。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる