yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第七十五話 一秒がいとおしい -【函館篇】 歌人 石川啄木-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第七十五話一秒がいとおしい

北海道の函館といえば、何を想像するでしょうか?
港、赤レンガ、異国情緒、夜景、五稜郭。
本州に通じる北海道の玄関口として、さまざまな文化や芸術が花開きました。
函館は、横浜、長崎とともに、1859年に日本初の国際貿易港として栄え、そこで最初に営業倉庫を開業したのが、金森レンガ倉庫です。
バカラコレクションもあるレンガ倉庫の一角にあるのが、函館市文学館。
その2階フロアーを占めるのが、歌人、石川啄木の常設展示です。
啄木の直筆原稿は、日本全国からそれを見るためだけに訪れる人もいるくらい、今も人気ですが、実は、彼が函館に滞在したのは、たったの132日間でした。
それでも、啄木の妻、節子は、彼の死後、遺骨を函館の立待岬に葬りました。
啄木一族の墓がある岬からは、函館の港が一望できます。
函館は啄木にとって、生涯で唯一、幸せで穏やかな日々を送ることができた場所だったのです。
彼が詠んだ歌が、記念碑に刻まれています。
『砂山の砂に腹這い 初恋のいたみを遠く おもひ出づる日』
『潮かをる 北の浜辺の砂山の かの浜薔薇よ 今年も咲けるや』
『函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌 矢車の花』
作家 井上ひさしは、石川啄木を「嘘つき、甘ちゃん、借金王、生活破綻者」などと語りつつ、「日本史の上で五指に入る日本語の使い手」と称賛しています。
ふるさとを追われ、流れ着いた函館で、歌人、石川啄木が見つけたものは何だったのでしょうか?
26歳で亡くなった彼が、人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

歌人、石川啄木は、1886年、岩手県日戸村に生まれた。
父は寺の住職だった。
父はもともと農家の息子だったが、寺に預けられ、そこで茶道や和歌を習い、文化や芸術に触れた。
その才覚が啄木に受け継がれることになる。
啄木は、生まれつき体が弱かった。
痩せて小さく、いつも泣いていた。
兄弟は三人、姉 トラに、妹 光子、そして啄木。
たったひとりの男の子は大切にされた。
両親は、彼の健康をいつも祈り、薬を欠かさなかった。
特に母親は溺愛。姉の嫉妬をかった。
「母さんは弟ばかり可愛がる。真夜中に何か食べたいと泣き出せば、わざわざ面倒な手間をかけて、お茶餅をつくる。せっかくつくった餅も、ひとくちも食べずにまた愚図ると、よしよしとなだめる。放っておけばいいのに」。
父も何か道具を作っては、彼だけに与えた。
こうした環境は、啄木のわがままを助長させ、いたずらっ子にしてしまう。
ただ、もしかしたら、彼の中にあったのかもしれない。
なぜ、こんなにも大事にされるのか。
それはきっと自分が長く生きられないからではないか。
脆弱な自分の命の炎。
彼は瞬間瞬間に生きることを選ぶようになる。
好きなことは、とことんやる。
負けたくない相手には、絶対に勝つ。
ひとより蝋燭の長さが短くても、その炎を強くすることはできるはずだ。

石川啄木は、小学校に入ると勉学に励んだ。
同じクラスに、2歳年上の工藤という生徒がいた。
成績は彼がいつもトップ。どうしてもイチバンになれない。
猛勉強した。彼に負けるのは、嫌だ。
尋常小学校最後の年。
ついに啄木は首席を取る。彼は村の神童になった。
工藤は家が貧しかったので、小学校を出ると進学せず、家業を継いだ。
その無念さを啄木は知っていただろうか。
彼はひたすら前へ前へ進むことだけ考えた。
盛岡の高等小学校に入学。10歳の啄木は親元を離れ寄宿生活をおくることになった。
背は相変わらず低く、笑うと糸切り歯が見えた。右頬にはえくぼができる。
愛くるしい少年だった。
学業は優秀な成績を残しつつ、文学に傾倒していく。
中学に入ったとき、のちに妻になる節子に出会う。
文学と恋愛。啄木は、我慢を知らない。のめりこむ。
学業はおろそかになり、成績は急降下。
それでも歌を詠み続けた。
『わが恋を はじめて友にうち明けし 夜のことなど思ひ出づる日』
なぜ学校に行くのかがわからなくなった。
文学と恋愛は、人生を教えてくれる。
今、一秒を生きているひりひりした感覚を与えてくれる。
文学で身を立てたい。
彼はもう少しで卒業というのに、中学を辞め、東京に上京した。

石川啄木を常に苦しめていたのが、病魔だった。
生まれつき弱い体は治ることもなく、いつもここぞというときに、彼を奈落に突き落とし、ふるさとに帰ることを余儀なくさせた。
いつしか一家の大黒柱になっていた啄木は、代用教員として、働くようになっていた。
歌も詠みたい、小説も書きたい。それでも稼がねばならぬ。
ただ、働いて稼ぐことは彼に新しい手ごたえを用意していた。
彼は、こんな歌を詠んだ。
「こころよき疲れなるかな 息もつかず 仕事をしたる後の疲れ」。
しかし、運命は彼をじっと落ち着かせてはくれない。
ふるさとでの暮らしも長くは続かず、明治40年5月5日。
22歳の啄木は、心機一転、北の大地を目指す。
追われるように、逃げるように流れ着いた先は、北海道、函館。
当時函館は、東京以北で最も人口の多い、近代化の進んだ街と言われていた。
ハイカラな空気。文化的な雰囲気。
そしてそこには文学仲間がいた。
みんなで大森浜の海岸を歩く。
遥か向こうに見える、函館山、立待岬。海鳥の鳴き声、青い海。
大きな砂山も、歌の題材になった。
代用教員の職を得て、のちに函館日日新聞の記者になる。
家族、妹、母を呼び寄せ、一家五人の暮らしが始まった。
「ああ、僕は今、ようやく書くことと、生活が追い付いた気がする。ここなら書ける、生活をしながら、書ける」
そう思った矢先、8月25日夜10時半。函館が炎に包まれた。
4時間にもわたって燃え続け、街の3分の2は焼失した。
新聞社も、書いたばかりの原稿も焼けてしまった。
函館も、彼を留めることができなかった。
しかし、彼はここで多くの歌を詠み、多くの幸せな時間を過ごした。
彼はのちに語った。
「歌はいいです。短いからいいんです。一生に二度とない一秒を留めるには、歌がちょうどいいんです。僕は命を愛するから歌をつくるんです」。

【ON AIR LIST】
Frozen River / Everything But The Girl
ホームにて / 中島みゆき
Find The River / R.E.M.

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとたけのこの炊き込みご飯

歌人 石川啄木にとって、生涯で唯一幸せで穏やかな日々を送ることができた場所が、北海道の函館でした。今回はそんな函館の特産物、昆布を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとたけのこの炊き込みご飯
カロリー
329kcal (1人分)
調理時間
50分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 2合
  • 筍(水煮)
  • 100g
  • にんじん
  • 1/3本
  • 【A】酒
  • 大さじ2
  • 【A】みりん
  • 大さじ2
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ1
  • 【A】塩
  • 小さじ1/5
  • 昆布
  • 5cm
  • 三つ葉
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。たけのこは細切りに、にんじんは短冊切りにする。
  • 2.
  • 鍋に(1)と【A】を入れて蓋をし、火にかける。3、4分煮て具材に火を通す。
  • 3.
  • 炊飯器にといだ米、(2)の煮汁を入れ、水を2合の目盛りに合わせる。
  • 4.
  • 昆布、(2)の具材をのせて普通に炊き、炊き上がったら食べやすく切った三つ葉を散らす。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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