yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百六十八話 ただ、遊べ! -【滋賀篇】作家 団鬼六-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百六十八話ただ、遊べ!

滋賀県彦根市に生まれたその小説家は、日本文学史に新しいジャンルを確立しました。
SM小説、官能小説。
作家の名前は、団鬼六。
代表作『花と蛇』シリーズは、何度も映画化され、彼の名を不動のものにしました。
スキャンダルな空気に包まれているのは、書いた作品だけではありません。
団鬼六の人生そのものが、まるで長編小説のように波乱万丈で天衣無縫。
自身が「私は快楽主義だ」と明言したことでもわかるとおり、好きなことにのめり込み、借金をつくり、馬車馬のように働き、また借金をつくりの繰り返しでした。
いま流行りのリスクマネージメントとは、無縁の世界。
職業も、中学の教師、バーの経営者、ピンク映画の脚本家など転々とし、将棋はアマ六段の腕前。
酒、たばこ、女性。好きなものは手放さない。とことん、のめりこむ。
のめりこんでいるから、人生の底が見えてくる。
団はこんなふうに言っています。
「人間は不本意に生き、不本意に死んでいくものだ。だからせめて快楽くらい求めてもいいと思っている」
晩年、食道がんを告知され、医者から手術をうながされたときも、あっさり断りました。
娘さんから「管だらけになっても、パパには生きてほしい」と訴えられても、こう言ったそうです。
「俺の生きたいように生きさせてくれ。ほんまにありがとう。えらい、すんません」
その潔さは、一生懸命生きた、精一杯遊んだ、証なのかもしれません。
「ただ遊べ 帰らぬ道は誰も同じ」
破天荒に生き抜いた稀代の作家・団鬼六が、人生でつかんだ明日へのyes!とは?

官能小説の第一人者・団鬼六は、1931年、滋賀県彦根市に生まれた。
家は、祖父が興した映画館経営をしていた。
父が相場に失敗。多額の借金を背負い、映画館を手放す。
一家は、大阪に移った。
幼い団は、たまたま友人に借りた江戸川乱歩の短編集を読んで驚いた。
「なんだ、この淫らで美しく、妖しくてはかない世界は!」
たちまちのめり込み、古本屋に通う。
「想像するのは自由なんだ、どんなことを考えてもいいんだ」
その衝撃は、彼の心にしっかりと刻まれた。
父に召集令状がきて、中学生だった団も尼崎の軍需工場に勤労動員としてかり出された。
毎日、B29による空襲警報を聴いた。
朝夕、玄米の粥。とにかく空腹だった。
軍需工場でやることといえば、防空壕を掘ること。
あけてもくれても、泥だらけになって穴を掘り続ける。
あんなに嫌いだった中学校の教室が恋しく思えた。
短い昼飯休憩の時間。
倉庫の裏で安物の折り畳みの盤を持ち出して、同級生と将棋をさすのが唯一の楽しみだった。
あるとき、彼らの周りに捕虜のアメリカ人たちがやってきた。
そこで団は、生涯忘れられない体験をすることになる。
死を身近に感じながら、真剣に遊ぶということ。
ひとは、いかに遊ぶかで人生の意味を知る。

作家・団鬼六と同級生が将棋をさすのを、アメリカ人たちが見物した。
彼ら若い捕虜は、強制労働を強いられ、食事は一日にオットセイの肉が入ったスープ一皿だけ。
みな痩せこけていた。
ただ肌は異様に白く、金色の産毛が朝日に光っていた。
団が驚いたのは、彼らがいつも陽気で笑顔だったこと。
ミッションスクールに通っていた団と同級生は、少しだけ英語が話せた。
敵国語だったが、休憩時間は捕虜と話しても大目にみてもらえた。
「おまえら何をしているんだ?」と彼らが聞くので、「これは、ジャパニーズ・チェスだ」と団は答えた。
来る日も来る日も、熱心に将棋の周りに集まってくるので、団と同級生は、捕虜たちに将棋を教えた。
特にひょろっと背の高いブラウンという男は、チェスの心得があるらしく、あっという間に上達した。
いつしか倉庫裏は、中学生と捕虜のアメリカ人のサロンになった。
団は、英語を教わった。
彼らは将棋を教わるのが楽しくて仕方ないという表情をする。
団と同級生は、自分たちに出される昼飯のコッペパンを密かにポケットにしのばせ、彼らにあげた。
そのコッペパンをもらったときの笑顔を見ると、団は幸せな気持ちになった。
将棋盤に向き合いながら、団と捕虜たちは、一喜一憂して遊びを楽しんだ。
やがて、戦火は厳しさを増し、尼崎の軍需工場も空襲で狙われるという噂が流れた。
中学生たちは、山林の開墾作業に回されることになる。
別れの時がきた。
団たちは、豆かすを一袋盗み、それを捕虜たちに渡した。
さらに団は、折り畳みの将棋盤と駒を彼らに贈った。
ブラウンは、目に涙をためて「サンキュー」を繰り返した。
尼崎の軍需工場が空襲で全滅したと聞かされたのは、団たちが山に入って10日目のことだった。

団鬼六たち中学生は、山での開墾作業を始めてから2ヶ月後、終戦の知らせを受けた。
ずっと、尼崎の軍需工場のことが気になっていた。
「あのアメリカ人たちは、どうしただろう…」
同級生と訪ねてみた。
愕然とした。そこにあるのは、無残な廃墟。
レンガも鉄筋コンクリートも粉々に砕け、一緒に将棋をさした倉庫も吹き飛んでいた。
聞けば、捕虜は全員亡くなったという。
瓦礫の中を、白い蝶々がひらひら飛んでいた。
まるで団を待っているようだった。
同級生が、突然泣きだした。
「どうした?」と歩み寄ると、レンガの破片の下に、折り畳みの将棋盤があった。
それは、いますぐ将棋がさせそうなほど無傷で…。
団も、泣いた。
彼らと一緒に遊んだ日々を想った。
ブラウンの笑顔、最後の涙。
中学生の団は思った。
死ぬということは、すぐそこにある。
だから、全力で遊ぶ。
やがて誰にも訪れる死に抗うのは、真剣に遊んだ記憶なのかもしれない。
時を忘れて笑顔になった、子どもの時間なのかもしれない。
団鬼六は、将棋盤の真っ白な美しさを生涯、忘れなかった。

【ON AIR LIST】
It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing) / Tony Bennett & Lady Gaga
僕のリズムを聞いとくれ Oye Como Va / Santana
When You're Smiling / Louis Armstrong
男の滑走路 / Crazy Ken Band

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとかぼちゃの甘辛炒め

団鬼六の生まれ故郷である滋賀県では、高級ブランド和牛の近江牛が有名ですが、今回は牛肉を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとかぼちゃの甘辛炒め
カロリー
250kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 牛切り落とし
  • 120g
  • かぼちゃ
  • 120g
  • ピーマン
  • 1/2個
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ1
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】みりん
  • 大さじ1
  • 少々
  • 小麦粉
  • 適量
  • サラダ油
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • かぼちゃは5mm厚さの一口大に、ピーマンは1cm幅に切る。牛肉は塩を振って、小麦粉をまぶしておく。
  • 3.
  • フライパンにサラダ油小さじ1を入れて熱し、かぼちゃを並べてフタをし、焼きつける。火が通れば一度取り出し、残りの油を入れる。
  • 4.
  • 牛肉、霜降りひらたけの順に炒め、さっと火が通ればかぼちゃ、ピーマンを入れる。
  • 5.
  • 合わせた【A】を回しいれ、からめ合わせる。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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