yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百八十九話 己の世界を拡げる -【岩手篇】政治家 原敬-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百八十九話己の世界を拡げる

日本初の本格的政党政治を行った、岩手県出身の偉人がいます。
原敬(はら・たかし)。
第19代内閣総理大臣として大正デモクラシーを牽引、生涯、爵位を拒み続けたことから、平民宰相と呼ばれました。
明治維新の荒波にのまれ、裕福な上級武士の家系だった原家は、一気に衰退。
父も早くに亡くした原は、経済的な逼迫の中、苦学で志を遂げます。
岩手県盛岡市にある「原敬記念館(はらけいきねんかん)」は、原の生家に隣接して建てられた記念館です。
民主政治に、文字通り命をかけた偉人の業績をたたえ、政界の貴重な資料や、日々の想いを詳しく書き綴った「原敬日記(はらけいにっき)」などが展示されています。
敷地内の12本の桜。
そのうちの1本、生家の池のほとりにある桜の木は、原の父が南部の殿様からいただいた「戴き桜」です。
65歳のとき、東京駅で暗殺された、原敬。
今年、没後100年を迎えますが、生家の桜の木は時代を超え、春風に揺れながら花びらを散らしています。
今の日本を見て、原敬は何を思うのでしょうか?
記念館に収められている彼の書には、二文字の漢字が書かれています。
無い、私と書いて、「無私」。
私利私欲を捨て去るということです。
原は、総理大臣になっても質素な住居に暮らし、徹頭徹尾、平民として生きました。
お墓に刻まれた文字にも、勲位の明記はなく、彼の一貫した主義主張をのぞかせます。
「余は、殖利の考えなしたる事なし、故に多分の財産なし。去りとて、利益さえ考えなければ、損失する愚もなく」
日本を変えようと藩閥政治に挑んだ賢人、原敬が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

「平民宰相」と言われた政界の革命児、原敬は、1856年、現在の岩手県盛岡市に生まれた。
原家は代々、盛岡藩に仕え、父は軍学を教える学者だった。
裕福な環境の中、5歳で寺子屋に入る。
原は、幼い頃から眉目秀麗。
歌舞伎スターと見まがうほど、美しい顔立ちをしていた。
時は慶応4年、鳥羽伏見の戦いで、薩長同盟を中心とする連合軍が圧勝。
江戸に向かった。
戊辰戦争が激しさを増し、寺子屋の先生も兵士として駆り出された。
やがて、秋田に進軍した盛岡藩は破れ、新政府軍に降伏した。
盛岡藩は、七十万両の賠償金を払うことになり、藩士はすべからく、家禄を辞退。
原家も、お金や刀などを差し出し、借金を背負った。
東北は賊軍、一山百文と蔑まれる。
この屈辱を生涯決して忘れないために、原敬は自分の号を、一山(ひとやま)と書いて、一山(いつざん)と読ませた。
いつか天下をとってやる、そう心に誓った。

岩手県出身の政治家、原敬は、14歳のとき、盛岡藩の藩校に入学。
勉学に励んだ。
漢学、歴史、作文、全てにおいて優秀。
先生は、彼の将来を期待した。
原には、夢があった。
東京に出て、天下をとりたい。あの屈辱をはらしたい。
母に相談する。
母は、しばらく考えたあと、静かに言った。
「わかりました。お金はなんとかしましょう」
屋敷の一部を売って、お金を用立てる。
当時、鉄道は通っておらず、盛岡から仙台まで歩き、仙台の港から品川まで、船で三日かかった。
激しい船酔いの果てに到着した原は、品川の風景に驚いた。
行き交うたくさんの人たち。活気あふれる街。
「これから、私はここで戦い抜くんだ」
意気揚々と、一歩踏み出す。
ところが半年もしないうちに、実家に泥棒が入り、お金を奪われる。学費を工面できなくなった。
いきなり出鼻をくじかれたが、この出来事が原敬を大きく変えた。
困っている原に友人が、授業料、寄宿料が免除されるカトリックの神学校を紹介してくれる。
そこで出会ったエブラル神父は、勤勉な原を見込んで、こう言った。
「もっと自分の世界を拡げなさい。あなたは、とても優秀です。でも、その力をあなただけのために使うのは、よくない。世の中のために使うのです」

17歳の原敬は、エブラル神父に、異国の文化や風習を教わった。
雑用もやることで、特別にフランス語も習う。
さらに神父の布教に同行。
新潟など各地をまわった。
神父から聞く、アメリカやイギリス、中国やフランスの話。
真のデモクラシーが存在していた。
全国各地を巡ることで、ひとびとの暮らしについて、多くの気づきがあった。
こまめに日記を書いた。
このとき学んだフランス語と、日々の思いや発見をメモすることは、彼の人生に大きく影響を与えた。
「己のうらみをはらすためだけに立身出世を望んでいた自分は、なんて小さい人間だったんだろう。学ぶというのは、誰かの役に立つことであるべきだ」。
自分の世界を拡げることで、彼に、この世の中を少しでもよくしたいというあらたな志が生まれた。
19歳で、一度盛岡に戻った彼は、実家でこう宣言した。
「私は分家して、士族を捨てます。これから平民として生きます」。
その後の人生も決して順風満帆ではない。
猛勉強の末、せっかく入った司法省法学校も、学校の食事についての抗議活動の首謀者にまつりあげられ、放校処分。
しかし、決して腐らず勉強を続けていたら、新聞記者の道が開け、さらに見聞や人脈を広めることができた。
やがてフランス語の能力を見込まれ、外務省に入省する。
原敬は、うまくいかないことがあっても、学ぶことを怠らない。
己の世界を拡げることを諦めない。
一歩でも前に進んでいれば、誰かが手を差し伸べてくれる。
そう信じ続け歩むうちに、1918年、大正7年、内閣総理大臣になった。

【ON AIR LIST】
遥か / GReeeeN
FOR PEOPLE / Nick Rosen
OPEN UP YOUR EYES / Dee Dee Bridgewater

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと春野菜のガーリックソテー

今回は、岩手で多く生産されている食材、にんにくを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと春野菜のガーリックソテー
カロリー
184kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 菜の花
  • 10本
  • 春キャベツ
  • 1/4玉
  • にんにく
  • 1片
  • オリーブオイル
  • 大さじ1
  • バター
  • 10g
  • しょう油
  • 大さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。にんにくは薄い輪切りに、塩茹でした菜の花は食べやすい大きさに、キャベツは一口大に切る。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイルを熱し弱火でにんにくを炒め、こんがりとしたら取り出す。
  • 3.
  • (2)に霜降りひらたけとキャベツを加え、しょう油とバターを入れて中火で炒める。最後に菜の花とにんにくを加えて全体を混ぜ合わせる。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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