yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第六十五話 選んだ仕事に誇りを持つ -【金沢篇】 実業家 犬丸徹三-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第六十五話選んだ仕事に誇りを持つ

日本ホテル界の草分けと言われる、元帝国ホテル社長、犬丸徹三。
彼は日本経済新聞の『私の履歴書』で、出身地石川県について、こんなふうに述べています。
「北陸は古くから仏教信心の盛んな地である。それも浄土真宗の信徒でほとんどが占められている。むろん私の家も浄土真宗であり、両親もまた熱心な信者だった」
と語り、京都や金沢、小松などから住職をお招きして聴聞したことを述懐しています。
雪に閉ざされる冬と、加賀藩に代表される華やかで文化的な風土。
土地はひとの心を育み、原風景はのちの人生を暗示します。
犬丸は、ホテル経営に命を捧げ、結果、日本のホテル業界全体に多大な財産を残しました。
それは、世界を融和する開かれたホテル事業。
奇しくも2020年に東京オリンピックを控えた日本は今、インバウンドの流れにのっています。
でも、昭和初期、観光が世界平和の一翼を担うという発想は、誰にでもできたことではありませんでした。
戦前戦後、帝国ホテルを守り抜いた男の歩んだ道は、決して平坦とは呼べないものでした。
むやみにひとにアタマを下げぬふるまいから傲岸不遜(ごうがんふそん)となじられ、苦渋の決断にも関わらず揶揄(やゆ)され、いくつもの試練をくぐりながらも、ただひたすらにホテル事業発展のために我が身を捧げた犬丸徹三。
彼が、93年の生涯の中でつかんだ、明日へのyes!とは?

元帝国ホテル社長、犬丸徹三は、1887年、明治20年、石川県能美市に生まれた。
幼い頃は大人しかった。
勉強は優秀。親の言うこともよくきく子供だった。
小学生のときは、毎日往復16キロを歩いて通った。
4年間、無遅刻無欠席。通う自分より、毎朝弁当をつくってくれる母の苦労に感謝した。
日の出とともに起きる習慣は生涯、貫かれることになる。
中学に進学したことにより、世界が拡がった。
ここでも勉学にいそしみ、成績はいつも上位だった。
剣道をやった。でも自己流を通す。
小手や胴には目もくれない。ひたすら面ばかりを打った。
真正面からぶつかる。下手な作戦は立てない。ひたすら面を打つ。
その流儀は、どこか犬丸の生き方に似ていた。
難関の東京高商に入学。現在の一橋大学だ。
ここで犬丸の人生が大きく変わる。
約束されたエリートの道だったが、学内のストライキの指導者として校長や文部省におしかける。
退学すれすれで免れたものの、活動に入り込み、成績は惨憺たるもので、卒業生のうち、下から数えて3番目だった。
就職口が、ない。犬丸は、世間の風当たりの強さを初めて知った。
しかし、時に茨の道は成長へのレッドカーペットになる。

元帝国ホテル社長で、日本のホテル業界を牽引した犬丸徹三は、焦った。
就職できない。
たまらず教授に紹介してもらったのが、満州鉄道が中国に経営するホテルだった。
長春ヤマトホテル。
「どんな仕事をするんですか?」
犬丸が尋ねると教授が言った。
「ボーイ、フロント、コック、なんでもだよ。ホテルはみんなそうやって現場を経験していくもんなんだ。頑張れば2年くらいでマネージャーになれるかもしれない」
選んでいる暇はない。犬丸は中国に渡った。
最初はボーイ。お客に頭を下げ、慇懃(いんぎん)な口調で応対する。
恥ずかしい。顔は赤くなり、屈辱感でいっぱいになる。
「こんなことをするために、一橋を出たわけじゃない!」
それは、イギリスのホテルで修業をしているときのことだ。
毎日毎日、窓ふきばかりが仕事だった。心にやってくる虚無感。
「オレはいったい何をやっているんだ」
ホテルにはもうひとり初老の窓ふきがいた。
黙々と仕事する彼に犬丸はこう問いかけた。
「ねえおじいさん、あなたは毎日、こんな仕事を続けて、それで満足しているんですか?」
老人は黙って犬丸を廊下に連れて行き、二つの窓を見せて、こう言った。
「犬丸、これを見ろ。この二つの窓を見比べろ」
片方は綺麗に磨き上げられ、片方は埃にまみれていた。
「窓を磨けば綺麗になる。綺麗になれば、その一事をもって私は限りなく満足を覚える。自分はこの仕事を生涯の仕事として選んだことに、ただの一度も後悔したことはない」
犬丸は打ちのめされた。
仕事に貴賤はない。あるのは己の仕事への対峙の仕方のみ。
犬丸は変わった。
磨かれた窓のように、心が晴れた。

犬丸徹三は、ロンドン在任中、その立派な働きぶりを評価され、クリスマス休暇をもらう。
みんなが働くときに、休める優越感。
しかし、ちっとも楽しくなかった。
これまで自分のためだけに働いてきた。
友達も知り合いもいないキラキラ光るイルミネーションの通りを肩をすぼめて歩く。
このわびしさは、なんだろう。
そうか、仕事とは分かち合うもの、誰かを幸せにするものだ。
以来彼は、人と人を結び付け、仲間を集い、新しい出会いの場をつくることに奔走した。
ロンドンからニューヨークに渡りホテル修行を積んでいた頃、東京の帝国ホテルから招かれた。
副支配人として来ないかという声がかかった。
犬丸徹三、32歳のときだった。
新館の着工を任され、建築家のフランク・ロイド・ライトと渡り合い、耐震性にすぐれたホテルを完成させる。
犬丸には、忘れられないライトの言葉がある。
「ホテルはその国の文化の程度を端的に表現するものである」

新館のお披露目の日が、大正12年9月1日だった。
午前11時58分。激しい揺れに襲われる。関東大震災。
なんという巡り合わせだろうか。全ては天の思し召しと、奮闘した。
幸い建物はびくともしない。窓ガラスは一枚も割れなかった。
火災も逃れたので、独断で宿泊料を無料にして避難所として開放した。
シチューやにぎりめしを提供、最前線で走り回った。
新聞社や報道関連の事務所としても活用してもらい、都内の会社の出張所にも使ってもらった。
トラックを派遣し近郊の農家から野菜を仕入れ避難者に提供。
あっという間に現金は底をついた。
犬丸は外務省に走り直談判。お金を借りた。
日本人だけではない、在日外国人にも憩いの場を与えた。
ホテルは、ひとがつくるもの。
犬丸は危機を脱し、復興のさなかにあってもそのことを忘れなかった。
ふと、あの窓ふきの老人の言葉が胸をよぎる。
「この仕事を選んだことに、ただの一度も後悔はない」

【ON AIR LIST】
時のないホテル / 松任谷由実
youthful days / Mr.Children
Tugboat / Galaxie 500
All Through the Night / Cyndi Lauper

参考文献:『私の履歴書』(日本経済新聞社刊)

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけのホイル蒸し

石川県能美市で生まれ育った、元帝国ホテル社長 犬丸徹三。そこで今回は、能美市で多く栽培されている野菜、ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのホイル蒸し
カロリー
23kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 長ねぎ
  • 1本
  • ザーサイ(市販のもの)
  • 30g
  • 水(蒸す用)
  • 360㏄
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。
  • 2.
  • 長ねぎは3㎝幅に切り、ザーサイは粗みじん切りにする。
  • 3.
  • アルミホイルで器を作り、長ねぎ、ザーサイ、霜降りひらたけの順に盛り、アルミホイルの口をしっかり閉じる。
  • 4.
  • フライパンに(3)と水を入れ蓋をして、中火で10~15分蒸し焼きにする。※水がなくなるまで
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる