yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百九十九話 誰ともつるまない -【岐阜篇】フォークシンガー 高田渡-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百九十九話誰ともつるまない

岐阜県の南西部、広大な濃尾平野に位置する、北方町。
岐阜県の中で最も小さなこの町に生まれた、伝説のフォークシンガーがいます。
高田渡(たかだ・わたる)。
反戦歌『自衛隊に入ろう』、沖縄出身の詩人、山之口貘(やまのくち・ばく)の詩に曲をつけた『生活の柄』など、数々の名曲は、今も若者たちの心をつかんで離しません。
北方町では、月に1回「WATARU CAFE」が開かれ、高田渡の歌や生き方を継承しています。
群れるのを嫌がるひとでした。
口先だけで行動しないひとを、静かに軽蔑するひとでした。
嘘や欺瞞、権力にへつらうひとには、容赦ありませんでした。
ただ、大声をはりあげたり、声高に生き方を説くような歌い方はしませんでした。
あくまで淡々と、日常に向き合い、己を見つめる。
そんなストイックな語り口は、彼の心のさみしさとせつなさを具現化していたのです。
とにかく、お酒が好きでした。
56歳でこの世を去る、その少し前も、ステージで歌い続けました。
ヘロヘロでリハーサルを終えても、本番には考えられないような歌声を披露する。
「ボクの肝臓の値はね、寺山修司を越えたんだよ」
周囲をなごませるユーモアをいつも忘れませんでした。
ひとなつっこく、誰にでも優しい。
特に、うまく生きることができないひとへのまなざしは格別でした。
「いいんだよ、人生なんてもんは、うまく生きられないやつが上等なんだ。生き方が上手なんて、なんの誉め言葉でもないんだよ。ただね、ひとりを怖がっちゃいけない。ひととつるんでばかりだと、人生は逃げていくよ」
多くのミュージシャンに影響を与えた反骨のフォークシンガー・高田渡が、人生でつかんだ明日へのyes!とは?

伝説のフォークシンガー・高田渡は、1949年、岐阜県北方町に生まれた。
実家は、祖父が興した材木商。
濃尾の大震災で財をなしたが、投資に失敗。
さらに跡を継いだ高田の父が、残りの財産を食いつぶす。
父は、文学に傾倒。詩を読んだ。
ただ詩の世界に耽溺(たんでき)する仲間が嫌いで、出版社に就職。
やがて太平洋戦争が始まると、共産党員になって、戦争反対を訴えた。
高田は、幼心に、いつも堂々としている父を見ていた。
まわりから疎んじられても、気にしなかった。
少しでも困っているひとがいたら、私財をなげうち、東奔西走。
わが町を少しでもよくしようと、一生懸命だった。
かといって、政治家になる気はない。
間違ったひとを許せず、容赦ない。
そのせいで、高田一家はいつも孤立していた。
それでも、父は胸をはる。
「間違ったことを違うと言って、なんでオレが裁かれるんだ。そんな世の中、間違ってる!」
戦争が終わっても、父は変わらなかった。
つるむのが嫌で共産党を脱退しても、主張は貫いた。
彼は我が息子に語った。
「この世で、いちばん無くさなくちゃいけないのは、戦争だ。でも、人間ってやつは、気を許すとすぐに争いを始めてしまうもんなんだ」

フォークシンガー・高田渡が8歳のとき、母が病で亡くなった。
父はリヤカーをひきながら、どうやったら町がよくなるかを説いてまわっていたが、妻の死を契機に、屋敷を売り払った。
そのお金の一部で、町に保育園をつくる。
町民は、「どうか、町長になってください!」と懇願するが、「バカヤロー。政治家なんかになるか!」と町を出ることを決意。
子ども4人を連れて、東京に出た。
武蔵小山の狭いアパート。
高田はその部屋を見て、ひとこと言ったという。
「お父さん、どこで寝るの?」
貧しかった。
何度も住む場所を変えた。
転校が多く、誰とも友達になれない。
ついには夜逃げして、上野の難民収容所のような施設に入った。
食べ物は配給制。
粗末な鍋に、家族5人分の飯がどさっと入れられる。
父が日雇いの仕事を始め、ようやく深川の部屋を借りられるようになる。
それでも生活は、極貧状態。
高田は給食費を払えず、貼りだされる紙にいつも名前があった。
学校帰りには、磁石に紐をつけて歩き、くっついてきたものを売って小遣いにした。
小学校の高学年になると、新聞配達をして家計を助けた。
どん底の暮らしの中、父はいつも言った。
「いいか、渡、貧乏はしてもいいけど、貧乏に慣れしたしんではダメだ」

伝説のフォークシンガー・高田渡の父は、どんなに貧しくても、明るさを失うことはなかった。
堂々と胸をはる。
困っているひとがいたら、何を置いても駆けつける。
持っているわずかなお金でさえ、惜しげもなく使った。
一生懸命働いて、ようやくボーナスがもらえるようになったとき、「おまえら何が欲しい?」と子どもに聞いた。
多数決で、ステレオに決まる。
付属品でついてきたレコードは、汽車の走行音が録音されていて、右側のスピーカーから左側のスピーカーに音が移った。
それが面白くて、一晩中聞く。
やがて、兄が1枚のレコードをかけた。
ブラザース・フォア。
バンジョーの音色が、心をうった。
「なんだろう、どうしてこんなに何度も聴きたくなるんだろう」
音楽の洗礼。
やがて、アメリカのフォークソングにのめりこむ。
歌詞の意味を知り、さらに傾倒する。
「音楽って、言葉を遠くに届けられるんだ…」
高田渡は、ギターを弾き、曲を書き、歌った。
彼の視線の先には、いつも父の背中があった。
誰ともつるまず、正義をまっとうした父の姿。
日常的には破天荒で、まわりに迷惑もかけたが、思い出すのは笑顔だった。
父の笑顔は、語っていた。
「誰かとつるむことに、やっきになることはないよ。それより、自分がやりたいこと、やるべきことを、たったひとりでやり遂げるんだ」

【ON AIR LIST】
生活の柄 / 高田渡
自転車にのって / 高田渡
ホントはみんな / 高田渡
ヴァーボン・ストリート・ブルース / 高田渡

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと枝豆の胡麻和え

今回は、岐阜で盛んに栽培されているという、枝豆を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと枝豆の胡麻和え
カロリー
150kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 枝豆(さやつき)
  • 100g
  • 新玉ねぎ
  • 1/4個
  • 【A】塩
  • 小さじ1/3
  • 【A】すりごま
  • 大さじ3
  • 【A】ごま油
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、新玉ねぎは薄切りにする。
  • 2.
  • 水2カップを沸騰させ、霜降りひらたけを1分程茹でザルにあげる。
  • 3.
  • 枝豆に大さじ1と1/2弱の塩をすりこみ、(2)の熱湯に水を1カップ加え、沸騰したら枝豆を4分茹でザルにあげ、粗熱がとれたら、さやからはずす。
  • 4.
  • ボウルに(2)、(3)、新玉ねぎ、【A】を入れざっくり和える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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