yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百六十四話 心のこもった仕事をする -【岡山篇】作家 内田百閒-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百六十四話心のこもった仕事をする

昨年、岡山にある吉備路文学館で、ある作家の生誕130年特別展が開催されました。
その作家とは、岡山市に生まれ、岡山を愛した、内田百閒(うちだ・ひゃっけん)です。
百閒は『古里を思う 後楽園』という随筆の中で、こんなふうに書いています。
「私は古京町の生れであって、古京町には後楽園がある。子供の時から朝は丹頂の鶴のけれい、けれいと鳴きわたる声で目をさました」。
彼にとって日本三名園のひとつ、岡山の後楽園は、「一生忘れる事の出来ない夢の園」でした。
大好物だった岡山銘菓、大手饅頭は、夢に何度も出てくるほど。
あまりに岡山が好きすぎて、後年、変貌するふるさとの姿を見るのが辛くなり、かえって故郷に足を踏み入れなくなったと言われています。
夏目漱石の門下生の中でも異彩を放ち、独特のユーモアと価値観で周囲を驚かす天才。
文章のうまさは誰もが認め、小説や随筆は、多くの作家に影響を与えました。
芥川龍之介も、彼の作品を認めたひとりです。
1993年に公開した黒澤明の監督生活50周年の記念映画『まあだだよ』は、百閒とその教え子たちの心温まる交流を描いた作品です。
黒澤は、百閒の生き方、そしてひととの接し方の中に、「今、忘れている大切なもの」を見つけ、それを留めたいと願ったのです。
百閒は、教え子や孫たちに、こう語りました。
「みんな、自分の本当に好きなものを見つけてください。見つかったら、その大切なもののために、努力しなさい。きっとそれは、君たちの心のこもった立派な仕事となるでしょう」
戦前戦後を駆け抜けた名文家・内田百閒が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

名作『阿房列車』シリーズで知られる作家・内田百閒は、1889年5月29日、岡山市に生まれた。
実家は、古京町に代々続く、川のほとりの造り酒屋。
裕福な幼年時代を過ごす。
同居する祖母に可愛がられた。
祖母は毎晩添い寝をして、幼い百閒に、地元に伝わる民話を語った。
氏神さまや妖怪、自然の驚異や人間の愚かさを、話して聞かせる。
百閒は、物語に魅せられた。
この世には、科学で解明できない不思議な世界があることを、心に刻む。
婿養子だった父は、家に寄りつかず放蕩三昧。
たまに帰れば家の女性陣にこっぴどく怒られた。
そんな父の姿を見ても百閒は、決して父をひどい人間だとは思えなかった。
父は幼い百閒の頭をくしゃくしゃと撫で、いつもにっこり笑った。
百閒が16歳のとき、父が急死。
これを契機に、実家は傾き、借金まみれの貧窮生活が待っていた。
のちに内田百閒は、『冥途』という小説を書く。
そこで主人公は亡くなったはずの父親と居酒屋で再会する。
父を失った喪失感が、百閒を作家の道にいざなった。

父を失った中学生の内田百閒は、ある小説を読んで、体中に電流が走るような感動を覚えた。
夏目漱石『吾輩は猫である』。
ユーモアと皮肉。人生観と死生観。猫に託した思い。
小説の力、文章の巧みさに圧倒された。
学校からの帰り。
濠(ほり)に挟まれた道を同級生と歩きながら、熱く語る。
「漱石はすごいよ、ほんと、漱石はすごいよ」
しかし友だちは、漱石という名前を読めないほど、文学を知らなかった。
ただひとり、堀野寛(ほりの・ひろし)という級友だけは、百閒の思いをわかってくれた。
堀野とは、一緒に俳句を詠み、漱石を語った。
堀野の自宅に招かれたとき、彼の妹・清子に出会う。
ひとめぼれだった。
百閒は、清子に恋文を書き続けた。
文章を書くことは全て、恋文のようなものだと悟った。
誰かに伝えたい思い。
それがなくては、何も始まらない。
親友・堀野が20歳で亡くなったとき、再び、百閒は思う。
文章を書くというのは、大切な記憶をとどめる行為でもある。
文筆業で身を立てたい。
貧しさの中にあって、作家という夢は、ひとすじの光だった。

内田百閒は、同人誌に掲載された年老いた猫の小説を、心酔していた夏目漱石に送った。
どうせ返事などないだろう、そう諦めていた矢先、ことんと郵便受けに返事が来た。
懇切丁寧な批評。
「筆つきが真面目で、なんのてらいもなく、自然の風物の描写もうまい。ただ、通読するほどの興味を持ったかというとそうでもなく、もう少し文章に工夫が必要だ。ただし、観察眼や文章を書く姿勢には、将来を感じる」。
そんな内容だった。
うれしかった。涙がこみあげるほど、感動した。
「そうか、僕は書き続けてもいいんだ」
背中を押してもらった。
すぐに門下生にしてください! と手紙を書いた。
漱石は、気づいていたのだろう。
百閒の中に巣食う、とりとめのない死への不安。
それこそが、文学の源だと見抜いたに違いない。
晴れて漱石の門下生になった百閒にとって、漱石先生は、絶対的なものであり、面と向かっては口もきけない存在だった。
ただ、百閒は、そこに父を見た。
どんなことも許してくれる、あったかい父の手のひらを思い出した。
同じ門下生で、とりとめのない死への不安を抱いた芥川龍之介が、若くして自らの命を絶ったのとは対照的に、百閒は、81歳、老衰で亡くなる。
彼には、漱石のように、ユーモアと皮肉で日常を笑う才覚があった。
そして、大好きな「文章を書くという仕事」に、命を燃やした。

【ON AIR LIST】
TAKE THE 'A' TRAIN / Duke Ellington & His Orchestra
交響曲第9番「新世界から」家路 / ドボルザーク(作曲)、アンサンブルベガ
STRAWBERRY LETTER #23 / The Brothers Johnson
SONIDOS DE BRIXTON / The Brixton Sounds

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとれんこんの甘辛炒め

今回は、岡山の特産でもある食材、れんこんを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとれんこんの甘辛炒め
カロリー
120kcal (2人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • れんこん
  • 70g
  • パプリカ
  • 1/3個
  • ごま油
  • 小さじ2
  • 白ごま
  • 小さじ1
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ1
  • 【A】酒
  • 小さじ2
  • 【A】砂糖
  • 小さじ2
  • 【A】片栗粉
  • 小さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。れんこんは薄くいちょう切りにし、パプリカは一口大の乱切りにする。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、れんこんを入れて炒める。
  • 3.
  • 火が通れば、霜降りひらたけ、パプリカを加えてさっと炒め、合わせた【A】を回し入れて絡める。仕上げに白ごまをふる。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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