yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百八十八話 実行あるのみ -【島根篇】劇作家 島村抱月-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百八十八話実行あるのみ

島根県浜田市出身の、近代演劇の父と言われる劇作家がいます。
島村抱月(しまむら・ほうげつ)。
抱月が旗手となった新劇活動とは、歌舞伎や新派に対抗する、型にはまらない、人物の感情や苦悩に寄り添った演劇の潮流です。
お手本は、文豪・トルストイ、チェーホフ、イプセン、そして、シェイクスピアでした。
抱月は、師匠である坪内逍遥とともに文芸協会を立ち上げ、大正デモクラシーの流れにのって、翻訳劇を成功に導いていったのです。
島根県浜田市にある「島村抱月生誕地顕彰の杜公園」には、抱月の胸像とともに、彼の運命を象徴する、ある唄が吹きこまれたミュージックボックスがあります。
その唄とは、トルストイの『復活』という舞台の中で、松井須磨子(まつい・すまこ)が歌って一世を風靡した名曲『カチューシャの唄』。
抱月が作詞したとされる「カチューシャかわいや わかれのつらさ」というフレーズは、流行語になり、新劇活動の後押しを担いました。
しかし抱月は、妻子がありながら、看板女優だった須磨子と恋に落ち、文芸協会を脱退。
自ら、劇団・芸術座を結成します。
当時、大流行していたパンデミック「スペイン風邪」にかかった須磨子を看病し、罹患。
結局、その病がもとで、47歳でこの世を去るのです。
抱月の信条は、「実行すること」にありました。
『序に代えて人生観上の自然主義を論ず』に、こんな文章を綴りました。

「人生の中枢意義は言うまでもなく実行である。
四十の坂に近づかんとして、隙間だらけな自分の心を顧みると、人生観どころの騒ぎではない。
わが心は依然として空虚な廃屋のようで、一時凌ぎの手入れに、床の抜けたのや屋根の漏るのを防いでいる。
継ぎはぎの一時凌ぎ、これが正しく私の実行生活の現状である」

抱月は、継ぎはぎの一時凌ぎこそ人生の真髄であり、だからこそ、前に進むために、実行することの大切さを説いたのです。
演劇界に新しい舞台を開いてみせた賢人・島村抱月が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

明治・大正期の劇作家・島村抱月は、1871年2月28日、島根県小国村、現在の島根県浜田市に、佐々山一平(ささやま・いっぺい)の長男として生まれた。
近くを小国川が流れ、遠く二子山をのぞむ風景は、生涯、抱月の心に残った。
実家は鉱山業を営んでいたが、父の代で破産。
貧しかった。
物心つくとすぐに家の手伝い、農繁期には近くの田畑で泥だらけになって働く。
あまりに貧しく、学校にもいけない。
ただ、母は思った。
「このままでは、この貧しさから逃れることができない」
朝、暗いうちから起き出し、夜は内職をして、なんとか抱月を学校に通わせる。
近くに住んでいた桑田という医者は、好奇心旺盛な抱月に読み書きを教えた。
10代になると、学校に行きながら、近くの裁判所で働く。
検事の島村は、抱月の頭の良さに早くから気づいていた。
「もしよければ、ウチの養子にどうだろうか」
そう島村から提案を受けたとき、父は猛反対したが、母は畳に額をつけながら「ぜひ、お願いします」と言った。
島村のもとに行けば、我が子にもっと多くの学びの場が与えられる。
母もまた、息子の非凡な才能を知っていた。
一方で、抱月もまた、自分がいなくなることで家計が楽になると思った。
「ぜひ、島村家に行かせてください」
このひとことが、彼の運命の扉を開いた。

島村抱月は、島村の援助を受け、東京専門学校、のちの早稲田大学に入学した。
校内は、新しい文芸、芸術についての議論であふれていた。
抱月は、できたばかりの文学科で、二人の恩師に出会う。
ひとりは、日本のカントと呼ばれた哲学者・大西祝(おおにし・はじめ)。
もうひとりは『小説神髄』で有名な坪内逍遥。
大西の講義に驚く。
彼は、しぼりだすような胸に響く声で語った。
「すべては、良き心、良心なんです。
哲学は、ひとを、世界を変えます。
ただし、実践しなくちゃいけません」
坪内の言葉に、ふるえた。
「勧善懲悪を捨てること。ひとの情を描き切る覚悟が大事なのです」
抱月は、二人に出会うことで、文芸・芸術の世界に身を投じることを決める。
大西も坪内も、抱月の熱心さや才能に触れ、彼を育てたいと願った。
『早稲田文学』という雑誌の記者に任命。
抱月は、もらったわずかな金も、ふるさとの母に仕送りした。
働きながら勉学に励んだ抱月は、東京専門学校を首席で卒業した。
彼の前には、大学教授という道が真っすぐ延びていた。

島村抱月は、読売新聞の記者を経て、母校の文学部の講師になった。
イギリス、ドイツへの留学をすすめられ、3年間、海外で学ぶ。
帰国後は、早稲田大学の教授になり、学者、指導者としての道が約束された。
34歳にして、異例の出世だった。
しかし、これでいいのか…という思いが頭をもたげる。
幼い頃から、誰よりも苦労して学問を続けた自負はある。
その最終目標到達点が、この場所だったのだろうか…。
たくさんのひとに助けられてきた。
多くのひとの思いを受けてきた。
気がつくと、そのひとたちへの恩返し、あるいは、自分ではなく、そのひとたちの理想に近づこうとしていなかったか。
人生で大切なのは、あくまで、自己、自分である。
誰かの理想のために生きるのは、機械と一緒だ。
そんなとき、ひとりの女性に出会った。
松井須磨子。
自分と同じように貧しい幼少期を過ごした彼女は、自由だった。
低い鼻が嫌で、当時としては珍しい美容整形を受ける。
誰が何を言おうが、かまわない。
あっけらかんと笑い飛ばす。
動くこと、思ったら実行すること。
須磨子に会うことで、抱月は自分を解放することに目覚めた。
演劇はいい。
何より目の前に観客がいる。
理想も大義名分も吹き飛ばす、「実行」の基本がそこにあった。
島村抱月は、言った。
「実行の基本、それは、自分を愛する、ということだ」

【ON AIR LIST】
I'll Be Around / The Spinners
ソルヴェイグの歌 / グリーグ(作曲)、イプセン(作詞)、アンサンブル・プラネタ
カチューシャの唄 / 松井須磨子
(If Loving You Is Wrong) I Don't Want To Be Right / Luther Ingram

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのポトフ

今回は、島根県で盛んに栽培されている野菜、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのポトフ
カロリー
201kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • にんじん
  • 1/2本
  • 玉ねぎ
  • 1/2個(100g)
  • キャベツ
  • 3枚
  • 600ml
  • 小さじ1/3
  • ウインナー
  • 4本
  • こしょう
  • 少々
  • バター
  • 小さじ1
  • マスタード
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。にんじんは大きめの乱切りに、玉ねぎは縦4等分に切る。キャベツは食べやすい大きさに切る。
  • 2.
  • 鍋に水と塩、霜降りひらたけ、にんじん、玉ねぎを入れ、火が通るまで煮たら、キャベツとウインナーを加えてさらに煮る。
  • 3.
  • こしょうを加えて味を調え、盛る直前にバターを入れて香りを出してから器に盛る。お好みでマスタードを添える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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