yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百七話 心の痛みを大切にする -【兵庫篇】映画監督 浦山桐郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百七話心の痛みを大切にする

兵庫県相生市。
三方を山に囲まれ、南に瀬戸内の穏やかな海を抱いたこの街を終生愛した映画監督がいます。
浦山桐郎(うらやま・きりお)。
吉永小百合を育て、大竹しのぶを見出した、女優育ての名手。
生前、まわりのひとに、「オレは生きている間に、一ダースの映画を撮るのが目標なんだ」と語っていましたが、54年の生涯で撮った映画は、9本でした。
でも、その9作品全てに、文字通り心血を注ぎ、魂を込め、完全主義を貫きました。
デビュー作『キューポラのある街』は、新人監督が撮ったにも関わらず、キネマ旬報社の年間ベストテンの第二位にランクイン。
主演の吉永小百合はブルーリボン主演女優賞を受賞し、カンヌ映画祭ではフランソワ・トリュフォーが大絶賛しました。
撮影に入る前、浦山は主演の吉永小百合にこう尋ねたと言います。
「キミ、貧乏ってどういうことか、わかるかい?」
吉永は入院開けで貧血状態でしたが、荒川の土手を走らされました。
何度も、何度も。しかも、全力疾走で。
その激しすぎる演技指導は、女優を追い詰めます。
『私が棄てた女』という映画の主演を務めた小林トシ江には、自分の家の近くに住まわせ、女中をさせました。
ぶざまでプライドのない女を演じさせるために、彼女の自尊心をとことん傷つけたのです。
執拗な演技指導に、小林は女優としての自信を無くし、現場を逃げ出して自殺未遂をはかろうとしました。
それでも映画を撮り切り、『私が棄てた女』は、浦山の最高傑作と言われる作品になりました。
彼は、弟子にこんな言葉を言ったといいます。
「いいか。哀切であることは、誰でも撮れるんだ。問題は、それが痛切であるかどうかなんだよ。痛みだ、痛みをどれだけわかるか、痛みを撮れる監督になれ!」
映画監督・浦山桐郎が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

吉永小百合を大女優に育てた映画監督・浦山桐郎は、1930年、兵庫県相生市に生まれた。
父は、地元の播磨造船所に勤めていた。
戦前からの造船所には、全国から働き口を求めてきたひと、半島から海を渡ってきたひと、かつて港で働いていたひとなど、さまざまな人間が働いていた。
そんな中、父は文学を理解し、詩を詠んだ。
相生市の、市の歌の歌詞を書く才人だった。
浦山の母は、彼を産むと同時に、息絶えた。
母の妹が後妻に入る。
大きくなるまで、浦山はこの義理の母を、本当の母だと思って育つ。
住まいは、造船所の社宅。
町には、いろんな境遇の子どもがいた。
素足にボロボロの服の子どももいれば、蝶ネクタイをしてジャケットを着た子どももいた。
浦山は、そんな日本の縮図のような風景を、じっと見ていた。
リアカーで夜逃げする、少女の瞳を覚えていた。
父は、言った。
「桐郎、おまえは、あれだ、東大に入れ。東大に入って役人になれ。くれぐれも、芸術なんぞにうつつをぬかすな」
姫路の中学を出て、高校に入ったとき、父は自殺した。
自宅近くの崖から身を投げた。
遺書はなく、死んだ理由はわからない。
浦山桐郎は、初めて人生の痛みを知った。

映画監督・浦山桐郎は、父の死とともに、母の親戚を頼り、名古屋に移り住んだ。
このときには、自分の母が本当の母ではないことも知っていた。
人生は、ままならない。人生は、理不尽なものだ。
そんな思いが彼の胸に刻まれる。
名古屋大学文学部仏文科に進学する。
父が生きていたら、文学部に行くことなど、許してくれなかっただろう。
映画が好きだった。
暗闇の中でフィクションに身を委ねているときが、いちばん幸福だった。
自分には、父も母もいない。
誰も自分を心から愛してくれるひとなどいない。
絶対的な愛など、銀幕の中だけのことだと思った。
義理の母には、特別な感情があった。
母であり、どこか、ひとりの女性として意識している自分がいて、戸惑った。
卒業後は、映画会社を受けた。松竹の助監督試験。
筆記は満点に近かったが、身体検査で落とされる。
そのときの試験官の鈴木清順が、試験後、声をかけてくれた。
「キミさあ、もしよかったら、日活、受けてみたらどうかな」
しかし、不合格。
ただ、松竹が補欠合格になり日活合格を蹴った学生がいた。
後に『男はつらいよ』を撮る、山田洋次だった。
おかげで、日活に補欠合格。
念願の映画監督への道が開けた。

大竹しのぶを見出した映画監督・浦山桐郎は、デビュー当時から、一切の妥協を許さなかった。
まるで自らの人生がそう長くないことを知っているかのように、一作一作にとことん向き合った。
撮影現場には、何度も何度も通った。
女優に厳しくする分、自分にも厳しかった。
制作に6年かける。
さすがに会社から、扱いづらい監督のレッテルを貼られた。
それでも、自分を曲げない。
大切なのは、思いが痛みまで降りていくことだ。
窮地に立たされるといつも思い出す。
母が本当の母ではないとわかったときのこと。
父が死んだと知らされたときのこと。
痛みを知れば、痛みを描くことができる。
痛切は、必ずひとの心に刺さる。
浦山は、生涯、自分の痛みから目をそらさなかった。
兵庫県の相生の街が好きだった。
そこには、自分の幸福が詰まっていた。
父が笑い、母の笑顔があった。
浦山桐郎は、相生湾をこんなふうに語った。
「母親の子宮のように見える」

【ON AIR LIST】
KING OF BROKEN HEARTS / Ringo Starr
LIFE'S A LESSON / Ben Sidran
IN MY OWN DREAM / Karen Dalton
A PLACE CALLED HOME / Tierra

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとなすの山椒炒め

この時期、兵庫県で盛んに生産されている野菜、なすを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとなすの山椒炒め
カロリー
107kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • ごま油
  • 大さじ1
  • しょうが
  • 1片
  • 【A】ポン酢
  • 大さじ2
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1/2
  • 【A】山椒(粉)
  • 小さじ1/2
  • みょうが
  • 2個
  • 長ねぎ
  • 1/4本
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、なすはヘタを取り縦4つに切る。
  • 2.
  • しょうがはみじん切りにし、【A】と合わせる。
  • 3.
  • 長ねぎは千切り、みょうがは輪切りにする。
  • 4.
  • フライパンにごま油を入れ、なすを焼き、霜降りひらたけを加えて炒め、(2)で調味する。器に盛り、ねぎとみょうがを飾る。
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ARCHIVE

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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