yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四百八話 理不尽に立ち向かう -【今年周年のレジェンド篇】アルベール・カミュ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第四百八話理不尽に立ち向かう

コロナ禍を受け、再びベストセラーになった小説『ペスト』の作者、アルベール・カミュ。
今年、生誕110年を迎えます。
カミュの『ペスト』には、不条理な不幸にみまわれた人間の格闘と、未来への可能性が描かれています。
14世紀にヨーロッパで、黒い死の病と書く「黒死病」と呼ばれ、大流行した感染症、ペスト。
その勢いはすさまじく、わずか数年でヨーロッパ全土に拡がり、一説によれば、全人類総人口の3分の1が死滅したと言われています。
カミュは、このペストを、アルジェリアの港町、オランを舞台に書きました。
オランのおよそ20万人の住民は、とてつもない厳戒態勢のもと、一歩も外に出ることを許されず、家に閉じ込められます。
まさに我々が、コロナ禍で外部との接触を断たれたように。

この小説が書かれた当時は、この物語が、ナチス占領下のユダヤ人たちの生活を象徴していると考えられていました。
共通しているのは、理不尽で抗いがたい、不条理です。
人々は、苦悩し、嘆き、ただ、のたうちまわって、不条理の前にひれ伏します。
しかし、カミュは、この理不尽に真っ向から向き合う医者の姿を通して、人間の行動の可能性、人生に対する向き合い方を提示します。
カミュは、こんな言葉を残しています。

「希望というのは、一般的に信じられている事とは反対で、実は、あきらめにも等しいものなのです。
ただ、生きることは、あきらめないことです」

カミュは、自動車事故を恐れ、「自動車事故で亡くなるのだけは避けたい」と家族に話していましたが、1960年1月4日、午後1時45分。
友人が運転するクルマで、事故死。享年46歳。
ほんとうは、妻や子どもと共に、汽車でパリに帰る予定でした。

時代を予見し、傑作を世に出し続けたノーベル賞作家、アルベール・カミュが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

今年、生誕110年を迎えるノーベル文学賞作家、アルベール・カミュは、1913年11月7日、フランス領だった北アフリカ・アルジェリアに生まれた。
祖父は、フランスからの移民。
父は、農場で働く労働者だった。
母は、スペイン系。聴覚障害を患っていた。
家族に読み書きができるものは、誰一人、いなかった。
カミュが生まれた翌年、父が戦争で亡くなる。
母と兄弟は、実家に身を寄せ、貧しく暮らした。
地中海の近くで、孤独でも、豊かな想像の世界に身をゆだねる。
小学校に入学したとき、貧しさはピークに達していた。
とても、高等学校に進学できない。
しかし、小学校の教師、ルイ=ジェルマンは、カミュの自宅を訪れ、母親の耳元で言った。
「お母さん、正直に言いますが、私の教師人生の中で、息子さんほど、できる生徒に会ったことがありません。
感性が独特で、特に作文がうまい。
奨学金を受けられるように推薦します。
どうか、どうか、アルベール君を進学させてあげてください。
このとおりです、お願いします!」
この教師の熱意がなければ、のちのノーベル賞作家は生まれなかった。

小説『ペスト』の作者、アルベール・カミュは、小学校の教師、ルイ=ジェルマンの支援のもと、リセ=ビジョーという高等中学校に進学する。
フランス語、ラテン語のコースを選択。
サッカー部にも入った。
アルバイトをしながら、なんとか通い続ける。
楽しかった。
毎日が新鮮で、知らないことを知る楽しさに満ちている。
ワクワクした。
しかし…17歳のとき、彼を病魔が襲う。
いきなり、血を吐いた。結核だった。
以来、彼は一生を通じて、この病に苦しめられることになる。
「なんで、ボクが…もう十分、苦しんでここまできたのに、なんで、ボクが…」
哀しい。つらい。
そして、理不尽な仕打ちに、腹が立った。
「裕福に暮らして、のん気にしているやつがいる、あんなやつらと何が違うというんだ、このボクは!」
そんな憤りを高める彼に、リセ=ビジョーの教師、ジャン・グルニエは、自ら書いた孤独の島と書く、『孤島』という小説を渡した。
「いいから、これを読んでみなさい、アルベール君」
その本を読んだカミュは、感動で体が震えた。
彼は、のちに、こう語っている。
「この小さな本のページを道でひらいた。
最初の数行を読んだところで、僕は本を閉じた。
本を大切に胸にしっかりおしつけて、誰も見ていない場所でむさぼり読むために自分の部屋まで一気に走った、あの夜に、僕は帰りたいと思う」

アルベール・カミュは、ジャン・グルニエからもらった小説をきっかけに、文学に興味をいだく。
古今東西の、手に入るあらゆる本を読んだ。
学校の図書館に通い詰める。
やがて、図書館の司書も、熱心なカミュのために、珍しい本を仕入れるようになる。
ただ、小説家になる気はなかった。
それよりも、ジャーナリズムに関心を示す。
その底辺には、この世の不条理を解き明かしたい、という思いがあった。
冤罪事件や植民地問題、なぜ世界で、理不尽な権力に振り回されるひとが後を絶たないのか。
1939年、第二次世界大戦が始まると、すぐに軍隊に志願。
しかし、結核のため、徴兵は却下。
皮肉なことに、彼が理不尽だと恨んだ病で、戦地に行かなくてすんだ。
そのときは再び、我が身の病を憎んだが、結果、戦時下、戦争後、彼の名を世界に知らしめる不条理三部作を書くことができた。
『異邦人』『シーシュポスの神話』、そして、戯曲『カリギュラ』。
それらはやがて、1947年に発表する、『ペスト』につながる。
アルベール・カミュは、自らの理不尽に立ち向かい、傑作を書いた。
その作品は、時代を経ても色あせることはない。
彼は、こんな言葉を残している。
「涙が出そうになるくらいに、生きろ!」

【ON AIR LIST】
デザート・ローズ / スティング with シェブ・マミ
スバビ / ハレド
アルジェリア組曲 第3曲 夕べの幻想 / サン=サーンス(作曲)、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、デヴィッド・ロバートソン(指揮)
私の太陽 / 佐野元春 & THE COYOTE BAND

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのマリネ

今回は、アルジェリア料理にもよく使われる野菜、ズッキーニやトマトを使った、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけのマリネ
カロリー
138kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • ズッキーニ
  • 1/2本
  • ミニトマト
  • 6個
  • にんにく
  • 1片
  • オリーブオイル
  • 小さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ2
  • 【A】しょう油
  • 大さじ3
  • 【A】オリーブオイル
  • 大さじ1
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけを小房にほぐし、ズッキーニは食べやすい大きさに切る。にんにくはみじん切りにする。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイル、にんにくを入れ、弱火で香りが出るまで炒める。
  • 3.
  • (1)を加えて炒め、しんなりしたら火を止める。
  • 4.
  • ボウルに【A】を混ぜ合わせて(3)と半分に切ったミニトマトを加えて混ぜ、皿に盛りつける。
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ARCHIVE

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RECIPE LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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