yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四百四話 夢の世界に生きる -【今年周年のレジェンド篇】江戸川乱歩-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第四百四話夢の世界に生きる

今年デビュー100年を迎えた、推理小説家のレジェンドがいます。
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)。
本名は、平井太郎(ひらい・たろう)。
ペンネームの由来は、彼が敬愛したアメリカの作家、エドガー・アラン・ポーです。
1923年、大正12年に発表したデビュー作『二銭銅貨』にも、ポーの名前が出てきます。
不思議な暗号解読と、どんでん返し。
雑誌に掲載された乱歩の作品は絶賛され、「日本初の本格探偵小説」現る!と、もてはやされました。
ただ、探偵小説家として食べていけるとは、とうてい思いませんでした。
お金があれば、全部使ってしまう。
いつも貧乏のただなかにいて、いくつも職を変えました。
貿易商、造船所の職員、古本屋さん、屋台のラーメン屋さん、数え切れません。
ただ、乱歩にとって小説家という職業は、特別なものでした。
幼い頃から、誰ともつるまず、孤独に妄想を繰り返す日々。
友だちは誰もいませんでした。
そんなとき、彼を救ってくれたのは、物語の世界。
だから、なんとかその世界に恩返しがしたい。
ただ、いつも自分が書くものに、不安を抱えていました。
すぐに書けなくなり、放浪。
その繰り返しが続きます。
世の中は、乱歩に、エキセントリックで異様なフェティシズムやサディズム、グロテスクを求めますが、本当に書きたかったのは、本格的な探偵小説でした。
皮肉なことに、通俗的な怪奇小説で生活は安定していきますが、絶えず、自分の中の乖離(かいり)に苦しんだのです。
乱歩は、ファンに色紙を頼まれると、こう書きました。
「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」
うつし世とは、現実。
それよりも、夢こそ真実だと詠んだのです。
現実が嫌なら、すぐに夢に逃げればいい。
終生、妄想の世界に生きた推理小説家、江戸川乱歩が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

今年、デビュー100年を迎えた、推理小説家、江戸川乱歩は、1894年10月21日、現在の三重県名張市に生まれた。
2歳で亀山市に移る。
初めての記憶を、乱歩は光文社文庫『わが夢と真実』で、こう書き記している。
「高台に町があった。そこの石の鳥居のお宮さんに、祖母と遊んでいると、下の方からピイッと笛の音がして、おもちゃみたいな汽車がゴーッと走って行った」
気弱で、引っ込み思案。
外に出るより、家で寝転がり、ずっと天井を眺めていた。
名古屋に移転してからも、学校は半分くらい病欠。
常に誰かにいじめられた。
一方で、妄想癖、空想癖は、磨かれていく。
母に読み聞かせをしてもらうのが、好きだった。
特に、菊池幽芳(きくち・ゆうほう)が訳した、ウィリアム・ル・キュー著『秘中の秘』という怪奇探偵小説には、夢中になった。
挿絵を見ながら、母の語りを聞くと、現実を忘れた。
今ここにいる自分より、空想の中の自分のほうが、生き生きとしていた。
そんな乱歩を、母は怒るでもなく諭すわけでもなく、ただ本を読み続けた。

江戸川乱歩は、小学生時代、あきらかに他の同級生とは違う時間を持つようになる。
昼間こそ友だちと外で遊んだが、日が暮れると、理由のない寄る辺なさ、はかなさが彼の心に影を落とす。
夕焼けが空を支配していくのを眺めながら、芝居の声色を使ってわけのわからぬ独り言を言った。
やがて、さみしさに押しつぶされ、涙を流す。
命は、果てる。
まわりにいる父も母も、いつかいなくなる。
哀しさが押し寄せ、夜、眠れない。
乱歩少年は、自分だけの「神様」を祀るようになった。
家にある古箪笥の開き戸に、仏壇のような装飾をほどこし、文字を書いた紙をさらに白い紙で包み、礼拝。
「この神様が、ボクを守ってくれる。
いじめられても、ひとりぼっちでも、大丈夫、怖くない」
その効力は、自分でも意外なほどだった。
夕暮れのさみしさも、「神様」に話せば、すっと気持ちが楽になった。
彼は8歳にして学んだ。
「ボクはきっと、何か、大きなものに守られている。
そう思って生きれば、この世でなんとかやっていける。
きびしい現実が待っていても」
乱歩は、夕焼けに涙することもなくなった。

江戸川乱歩の父は、大きな商店を経営していたが、明治45年の不況のあおりを受け、倒産。
一家は一夜にして、一文無しになった。
父が涙を流して家族みんなに頭を垂れる姿を、乱歩は生涯忘れなかった。
中学卒業後、官立学校に入ろうと思っていたが、お金がなく、断念せざるをえない。
早稲田なら苦学でも通えるのではないかと、親戚を頼り、上京。
湯島天神下の小さな印刷会社に住みこんで、活版の見習いをしながら早稲田の予科に通う。
貧しかった。
なんとしても稼がねばならない。
図書館の番人、家庭教師、かけもちでいろいろやるが追いつかない。
春先には冬の衣服を売ってしのいだ。
なんとか卒業。
在学中に推理小説を書くようになり、処女作『火縄銃』を雑誌に投稿するが、採用されなかった。
卒業後も、職を転々とした。

乱歩にとって、現実は常に厳しい。
だからこそ、夢の世界が必要だ。
人間は、いにしえから、現実の世界だけで生きてこなかったはずだと、乱歩は思った。
幼い日、母の読み聞かせでワクワクした自分。
孤独や死の恐怖を忘れられた自分。
そんなワクワクする探偵小説、あるいは、みんながあっと驚くトリックがつまった推理小説が書きたい。
江戸川乱歩は、おのれの人生をもって、叫び続けた。
「現実が厳しければ、いつだって、夢の世界に逃げればいい。
真実は、夢の中にあるのだから」

【ON AIR LIST】
少年探偵団のうた / 宮下匡司
夢を見るだけ / エヴァリー・ブラザーズ
茎 / 椎名林檎×斎藤ネコ
火の玉ボーイ / ムーンライダーズ

★今回の撮影は、「江戸川乱歩館~鳥羽みなとまち文学館~」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
江戸川乱歩館~鳥羽みなとまち文学館~ HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけ、牡蠣、小玉ねぎのエスカベッシュ

今回は、三重県の特産でもある、牡蠣を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけ、牡蠣、小玉ねぎのエスカベッシュ
カロリー
202kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 玉ねぎ(小)
  • 2個
  • カキ(むき身)
  • 大2個
  • オリーブオイル
  • 大さじ2
  • にんにく
  • 1片
  • 赤唐辛子
  • 1本
  • 乾燥タイム
  • ひとつまみ
  • レーズン
    (水で戻したもの)
  • 12粒
  • 白ワイン
  • 大さじ2
  • 白ワインヴィネガー
  • 大さじ2/3
  • お好みのハーブ
  • 適量
  • 塩、こしょう
  • 各適量
作り方
  • 1.
  • 小玉ねぎは皮をむいて半割にし、5分ほど塩茹でする。
  • 2.
  • 霜降りひらたけは大きなものは1/4、小さなものは1/2に切り揃える。
  • 3.
  • カキは塩、こしょうをし、薄力粉をまぶす。
  • 4.
  • フライパンにオリーブオイル、半割にして芽を取り除いたにんにく、赤唐辛子を入れて弱火で炒める。香りが出てきたら、(1)を入れ、軽く焼き色がつくまで焼く。(3)を入れて両面に焼き色をつける。
  • 5.
  • (2)を入れて軽く塩、こしょうをし、乾燥タイム、レーズンを加えてさっと混ぜる。白ワインと白ワインヴィネガーを加えてひと煮立ちさせ、塩、こしょうで味をととのえ、冷ます。
  • 6.
  • 皿に盛り、お好みのハーブを飾る。
  • recipe LIST

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ARCHIVE

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RECIPE LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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