Don't know much about history (僕は歴史が苦手だし)出来の悪い生徒の歌です。でも僕は君のことが好きだし、それがわかっていればオーケー、みたいな感じです。バイオロジー(生物)とヒストリー(歴史)ぐらいはわかるんだけど、トリゴノメトリー、三角関数はわかんないですよね。
Don't know much biology (生物だってちんぷんかんぷん)
I don't claim to be an A-student (僕はオール5の生徒なんかじゃないけど)オール5の生徒になったら君が好きになってくれるかもしれないからって言うんですよね。でもその前で彼がこう言っています……。
But I'm trying to be (なろうとしているんだ)
But I do know one and one is two (1+1=2だってことは知ってる)ちょっとこれは先が長いなあ、っていう感じなんです。でもこの「I do know one and one is two」が生きて、次の行で……
And if this one could be with you (この僕[this one]が君と一緒になれたら)村上Oneが出てくるんですよね。
What a wonderful world (すごく素晴らしい世界になる)
Ob-la-di, Ob-la-daという一節を、「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ、人生はブラジャーの上を流れる」と訳したんだそうです。戸惑った生徒が「それってどういう意味ですか」と尋ねると、「それはね、人生には山あり谷ありということだ」という答えが返ってきたそうで(笑)。素晴らしいですね。なかなか楽しそうな先生ですけど、これは英語的には間違いですよね。braはブラジャーじゃなくて、ただのかけ声です。Ob-la-di, Ob-la-daと韻を踏むためのものです。ただ歌詞カードによっては Life Goes onのあとにコンマがついていないものがあって、それでややこしくなったものと思われます。でもこういう英語の授業って楽しいですよね。
Life Goes on, bra
I don’t want no short people (チビの人なんかいらない)正しい英語だったら、I don’t want any short peopleなんだけど、I don’t want no short peopleと、あんまり教育のない言い方をこの語り手にさせています。
Don’t want no short people ’round here (このあたりにチビの人はいらないね)’round hereというあたりで、地域によってある人種が排斥されたりとかということも感じますよね。
I’d like to do a song of great social and political import (これから社会的にも政治的にも大事な歌を歌うから)と言って歌い始めて、1分半くらいの歌を歌います。歌い終わった後もいいので、そこまで聴いてください。
It goes like this (こんな感じ)
「私にノーベル賞を与えないことは、スカンジナビアの風習のひとつになったようだ」これは誰の言葉でしょうか? これを言ったのは、実はボルヘスさんです。ホルヘ・ルイス・ボルヘス。もちろんジョークとして言ったんですけどね。ノーベル文学賞は誰が候補になったか、50年後まで公表しないことになっています。それで50年経って資料が出てきて、ボルヘスさんは少なくとも10回候補にはなったけど受賞はしなかったことが明らかになっています。また僕が読んだ本によれば、グレアム・グリーンは15回、トマス・ハーディは12回。どちらも受賞はしていません。うーん、みんな大変だったんですね。
1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。