「月光と水玉模様」今日はメル・トーメの歌なんですが、それが途中でボブ・ディランに変わります。
夜のガーデンパーティーで踊っていたら
誰かにどすんとぶつかって
「あら、ごめんなさい」という声がきこえた。
振り向いたとたん
水玉模様と月の光が、僕の目に飛び込んできた。
そしてそこには、上向きの鼻の
夢みたいな女の子がいた。
音楽が始まり、僕は取り乱した心のまま
思い切って彼女を誘ってみた。
「次の曲を踊ってくれませんか」
すると僕のおっかなびっくりの腕の中に
上向きの鼻の素敵な女の子が入って
水玉模様と月の光が
夢みたいにまぶしく輝いた。
僕ら二人がいつまでも踊り続けているのを
みんなが不思議そうに見ていた。
みんなの目には疑問が浮かんでいたけど、
僕の心にはその答えがすべてわかっていた。
いや、その先にあるものだって。
ライラックと笑い声に包まれたコテージ。
そこで二人はいつまでも幸福に暮らしました、
みたいなことになるんだよ。
そして彼女の上向きの鼻にキスをするとき、
僕はいつだってあの、水玉模様と月の光を目にするんだ。
「神様しか知らない(ゴッド・オンリー・ノウズ)」素敵なラブソングですよね。ボックスもののセットにしか入っていないバージョンなんです(*緑色のボックス、The Beach Boys The Pets Sounds Sessions)。ビーチボーイズのコーラスがどれくらいきれいかよくわかります。ビーチボーイズのメンバーは三人兄弟と従兄。みんな近所に住んでいて、子どものころから夜になると集まってアカペラで練習してたんです。10歳くらいのときからブライアンが仕切ってました。だからアカペラにも年季が入ってる。(美雨:声が溶け合うようにできてますね……)。例えば、お前3度下げて歌えよとか、よくできるなと思うんだけどね(笑)。ザ・フォー・フレッシュメンというジャズのコーラスを模範にしてやっているから、3度ずつじゃなくてちょっと違うのも入ってくる。7度とか。その辺もすごいです。
いつも必ず君を愛するなんて
言い切れないかもね
でも空から星がなくならない限り
僕の愛を疑う必要はない。
いつか君にもそれをわかってもらえる
君のいない人生がどんなものか
それは神様しか知らない。
もし君が僕から去っても
人生はそのまま続くかもね。
でもそれでは、この世界が
僕に示せるものなどひとつもないんだ。
そんな人生になんの値打ちがあるだろう。
君のいない人生がどんなものか
それは神様しか知らない。
「音楽が始まった」「音楽が始まった」(The Music Played)、ブロッサム・ディアリーです。この曲はウド・ユルゲンスが作って、マット・モンローが英語でカバーしてヒットした。このブロッサム・ディアリーが歌うCDは最近発売されました。なんか放送局で録音したテープみたいですね。
それまで愛が占めていた場所に
今は怒りの沈黙がある。
そして君の瞳は
見たことのない光を浮かべている。
もし僕が正しい言葉を見つけられたら
君は留まってくれたかもしれない
でも僕が口を開こうと振り向いたとき
ちょうど音楽が始まったんだ。
そのとき言うべきだったことを
僕は何ひとつ言えなかった
僕の心は、僕の頭に
勝ちを譲ってしまった。
そして僕はその代償を
支払うことになった。
音楽が始まったとき
ほかの誰かがすでに君を腕の中に収めていた
僕は君の愛を失ったんだ
音楽が始まったときに
「中国行きのスロウ・ボート」訳詞で一番難しいのは韻です。英語って韻を踏みますよね。韻を踏むために、日本語で無理な言葉を引っ張ってきている場合が多い。それをそのまま訳していると変な訳になってくる。だからその辺をどういうふうに作り替えるかというのがコツになってきます。日本語は韻を踏まず、どちらかというとムードや情感で流れていくんだけど、英語の場合はまず韻を踏みますから。
中国行きのスロウ・ボートに
君を乗せたいな
そして僕だけのものにしたいんだ
君をしっかり腕に抱いて
いつまでも離さないんだ
ほかの男たちなんぞ
浜辺で涙にくれていればいい
僕らは海原の真ん中にいて
空には大きな月が輝き
君の固い心を溶かしてくれる
中国行きのスロウ・ボートに
君を乗せられたらな
そして僕だけのものにできたらな
「スヌーピー対レッド・バロン 暁の空中戦」昔からこの歌が好きなんだけど、この間「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」という映画でレオナルド・ディカプリオがこの曲をラジオを聴きながら一緒に歌っているシーンがあって、「あ、これだ!」と思った。(美雨:2回も観られたとか?)。そう、2回観ました。面白い映画です。アメリカで観て、ちょっとわからないところがあったので、日本で字幕付きで観ました。
二十世紀の初めの頃
晴れ渡ったドイツの空に
エンジン音が囂々と響き
戦闘機が大きな鳥となって舞い上がる。
操縦桿を握るのは、その名も高き
フォン・リヒトホーフェン男爵。
80人が彼に挑み、80人が命を落とし
緑なす墓地に葬られた。
10、20,30,40,50、もっとたくさん。
レッド・バロンは数を積みあげていく。
80人が彼に挑み、そしてやられた。
必殺の撃墜王、ドイツの誇るレッド・バロン。
僕があいつを仕留めてやると
スヌーピーは心に誓う。
カボチャ大王にうまい作戦を教わって
ドイツの撃墜王に得意のドッグファイトを挑む。
大笑いしている男爵に
しっかり照準を合わせる
レッド・バロンは追い詰められる
すべてを試し、もう打つ手はなし
そこでスヌーピーはとどめの一撃
そしてもう一撃
レッド・バロンは万事休す
くるくる錐もみして落ちていく
「羊くん」ランディー・ニューマンは堅気の勤め人をからかったり背の低い人をからかったり、非常に皮肉というか毒があるというか、問題のある歌を歌うことが多いんです。でもすごくきれいなメロディを書く人でもあって、その辺のバランスというかアンバランスがなかなか素敵なんですよね。
よう、ミスター、どこ行くの?
仕事に遅れそうなんだね
気をつけなよ
ブリーフケースを落っことしちゃうよ
ほらほら、案の定だ、とろいなあ
急ぎ足で歩いて行く
地下鉄の階段を降りていく
電車に乗り遅れないように
でも傘を忘れたのは
ちっとまずかったね
気の毒な羊くん
濡れちゃってるじゃないか、羊くん
さあ、歩き続けて、羊くん
歩き続けなくちゃ
おれだってきついことは言いたくない
意地悪いことも言いたくない
あんたの言うとおり
この世界はただでさえ厳しい場所だ
ほんとにおっしゃるとおりだよ
でもあんたを見て何を感じるか
そのありのままを
わかってもらいたい
だから今ここで、思っていることを
ひとつぶちまけちゃおう
俺の言いたいことは
俺の言いたいことはね
さあ、言うぞ
めえええええええ
めえめえ羊くん
しっかり歩き続けなくちゃな
「ひと儲け」
おれには頭がある
きみにはルックスがある
一緒に金儲けをしようじゃないか
きみには腕力がある
おれには脳みそがある
組んでがっぽり儲けようじゃないか
雑魚たち相手に計画を練ったり
そんなあれこれは、もうあきあき
表に車を待たせている
こんな話、うまくいきっこない
おれが求めているのは、できるパートナーだ
しっかり仕事がやれるやつだ
なあ、どうなんだ
きみは金持ちになりたくないのか?
そう、世の中にはたくさんのチャンスがある
大事なのはそれをつかむタイミングだ
なあ、世の中にはいっぱいチャンスがある
なけりゃ、自分で作るまでさ
おれには頭がある
きみにはルックスがある
一緒に金儲けをしようじゃないか
きみには腕力がある
おれには脳みそがある
組んでがっぽり儲けようじゃないか
きっとうまくいかないですよね(笑)。
1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。