MURAKAMI RADIO
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村上RADIO ~マイ・フェイバリットソングズ&村上さんに聞いてみよう~

村上RADIO ~マイ・フェイバリットソングズ&村上さんに聞いてみよう~

こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今日はみなさんからいただいたメールをちらちらと読みながら、僕の選んだ素敵な音楽をおかけします。次の回はどんな曲をかけようかなあと、うちにあるレコードやCDを手に取って、そこから一つひとつ選曲していくのが僕にとってのなによりの楽しみになっています。まあ、みなさんにもいろいろと音楽の好みはあると思いますが、楽しんでお付き合いいただければと思います。

さて、野球の話ですが、今年はヤクルト・スワローズの村上宗隆くんが、王さんを超える56本のホームランを打ちまして、これはとてもめでたいことでした。でも実を言うと僕は今年、何度か神宮に通いながらも、一度も村上くんの生ホームランを目にしてないんです。運が悪いというか、ずいぶん残念なことです。いつもだいたいグローブを持参して球場に行くんですが、いつの日かライト・スタンドで、村上くんのホームランをゲットしたいものですね。
I WAVE BYE BYE
ALLEN TOUSSAINT
QUIET ABOUT IT,A TRIBUTE TO JESSE WINCHESTER
Mailboat Records
最初の曲はアラン・トゥーサンが歌います。アラン・トゥーサン、ニューオーリンズ出身の伝説的セッション・ピアニストにして、歌手ですね。歌うのはやはり南部出身の歌手、ジェシ・ウィンチェスターの作った「I Wave Bye Bye」。これ、なかなか素敵な曲です。
MEMORY CHEST
MARVIN GAYE & TAMMI TERRELL
YOU'RE ALL I NEED/UNITED
TAMLA
フリージャズとはあまり関係ありませんが、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュオで「Memory Chest(メモリー・チェスト)」を聴いてください。タミー・テレル、モータウン(注:モータウン・レコード。自動車産業の町・デトロイト発祥のレコードレーベル)の女性歌手の中では、僕はこの人がいちばん好きです。気の毒に脳腫瘍のために、24歳の若さで亡くなってしまいましたけど。
Soul Kitchen
David Lee Roth
Diamond Dave
magna carta
デイヴィッド・リー・ロスがドアーズの「Soul Kitchen(ソウル・キッチン)」を歌います。2003年に発表されたアルバム『Diamond Dave』に収録されています。Diamond Dave、かっこいいですね。
Gamado pelo Samba (COM SANDRA DE SÁ)
AFFONSINHO
bele
DUBAS MÚSICA
ブラジルのシンガーソングライター、アフォンシーニョが歌います。「Gamado Pelo Samba」。
california dreamin'
DIANA KRALL
wallflower
VERVE
ダイアナ・クラールがママス&パパスのヒット曲California Dreamin'を歌います。
アレンジとキーボードはデイヴィッド・フォスター、バックコーラスにはスティーヴン・スティルスとグラハム・ナッシュが入っています。


<収録中のつぶやき>
ダイアナ・クラールさん、かっこいいですね、ピアノもうまいし、きれいだし、旦那がエルヴィス・コステロだしね。
ONE MINT JULEP
KENNY BURRELL
Bluesin' Around
Sony Music Labels
たまにはインストゥルメンタルをかけましょう。僕の大好きなギタリスト、ケニー・バレルが「One Mint Julep」を演奏します。1952年にザ・クローヴァーズがヒットさせた曲ですね。オルガンはジャック・マクダフ、1962年の録音、ソウルフルな演奏です。
Afrika (Africa)
Tukuleur
COVER THE WORLD World Music Versions of Classic Pop Hits
Putumayo World Music
アフロ・ポップグループ「トゥクラー」が「Africa」を歌います。TOTOのヒットソングですね。このバージョン、なかなかかっこいいんです。よく走りながら聴いています。気持ちよく走れます。
rock n roll nigger
patti smith group
EASTER
BMG
次はパティ・スミスが「Rock N Roll Nigger」を歌います。しかし、すごいタイトルですね。
僕は一度パティ・スミスさんとベルリンで食事を一緒にしたことがあります。そのときに1時間くらい話をしていたんですが、この「Rock N Roll Nigger」の話になりまして、「あれ、タイトルとか内容とか、問題にならなかったんですか?」と質問してみました。「もちろんなったよ」と彼女は言いました。「たくさんの放送局で放送禁止になったしね。でもそんなことぜんぜん気にしないでがんがんやってた」
さすがパンクの女王、パティ・スミス、かっこいいですね。でもあるとき、クラブでこの「Rock N Roll Nigger」を歌っていたら、いちばん前の席に黒人のおっさんが座っていて、ものすごく難しい顔をして彼女のことをじっと睨んでいたんだそうです。それで「誰だろう」と思ってよく見たら、それはかのジェームズ・ブラウンだったんだそうです。
「あのときはそりゃびびったね」ということでした。さすがのパティ・スミスもやはりびびっちゃうんだ。
そうですよね、なにしろジェームズ・ブラウンだもの。スミスさんの話はすごく面白くて、紹介したいエピソードがいっぱいあるんだけど、とにかく聴いてください。「Rock N Roll Nigger」。
House At Pooh Corner
LOGGINS & MESSINA
THE BEST: LOGGINS & MESSINA SITTIN' IN AGAIN
COLUMBIA/LEGACY
ロギンス&メッシーナが「プー横丁の家」を歌います。この曲はケニー・ロギンスが作曲して、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドがヒットさせたんですが、あとになってロギンスは「ロギンス&メッシーナ」というデュオ・グループを結成して、セルフカバーしています。
I'M A TELLING YOU
IMPRESSIONS
ONE BY ONE / RIDIN' HIGH
KENT SOUL
僕は口を閉ざしますが、インプレッションズには何か言いたいことがあるみたいですね。
The Impressionsが歌います。「I'm A Telling You」。
Goodbye Porkpie Hat
Denny Zeitlin
TRIO
WINDHAM HILL JAZZ
今日のクロージング音楽は、本職は精神科医という異色のジャズ・ピアニスト、デニー・ザイトリンの演奏する「Goodbye Porkpie Hat」です。
チャールズ・ミンガスが亡くなったレスター・ヤングに捧げて作曲した美しい曲です。
今日の言葉は歌手リック・ネルソンさんです。彼は「Garden Party」という曲の中でこう歌っています。


You can't please everyone
So you got please yourself
全員を楽しませることができないのなら
自分が楽しめることをするしかないよね

往年のスター歌手、リック・ネルソンは1971年にNYのマディソン・スクエア・ガーデンで開催された懐メロ・ショーに出演したんですが、そこで「懐メロ」じゃなく、新しい曲を歌って聴衆からブーイングを浴び、そのままステージを降りてしまいました。そのときの苦い思い出を曲に託したんです。
全員を楽しませることができないのなら
自分が楽しめることをするしかないよね
ほんとにそうですよね。どんなことをしているとき、いちばん自分が楽しいか、自分がいちばん生き生きしているか、それをしっかり見定めるのが、人生において大事なことになります。

それではまた来月。

リスナーのメッセージに答えました

リスナーのメッセージに答えました

先月の「村上RADIO」で「山下洋輔トリオ再乱入ライブ」を放送しまして、その感想のお便りをたくさんいただきました。この番組でフリージャズのライブをかけちゃって大丈夫かなあと、少しばかり心配していたんですが、思いのほかたくさんの方に楽しめていただけたようで、なによりでした。
かぜまちそらまめ(40代、男性、千葉県)

1969年への再乱入とはなりませんが、あの時代の迫力が伝わってきました。今という時代がもう少し理想というものに寛容であってほしいと思います。決まりごとがなくても、合わせられるところはきちんと合わせられる。そういう自由を追求できる。それが私の理想です。フリージャズを初めて聴きましたが、温かみを感じることができました。あっという間に時間は過ぎ去っていきました。
そうですね、「フリージャズ」というフォーマットでくくっちゃうと抵抗感が出てくるかもしれませんが、山下さんの音楽には、そういうジャンルを超えた自由で温かな人間味が感じられます。本物の音楽っていうか、本当に素敵です。僕も目の前で聴いていて、久しぶりにお腹にずしんとこたえました。できれば、当日の演奏をそのままレコードにしたいものだなと思っています。お楽しみに。
ホンジョビ(20代、男性、宮城県)

村上春樹さんに「小説執筆講座」を開催していただきたいです。
はあ、と言いますか、小説の書き方を人に教えるのって、むずかしいんです。僕はだいたいにおいて身勝手な人間ですので、自分が小説をどう書くかということしかうまく考えられなくて、人が小説をどう書くか……みたいなことまでなかなか頭が回らないというのが、正直なところです。ですから弟子みたいなものをとったことはありませんし、クラスを持って創作指導をしたこともありませんし、文学賞の審査員をしたこともありません。

レイモンド・カーヴァーさんにインタビューをしたとき、彼はニューヨークのシラキュース大学で創作科の先生を何年かやっていたんですが、「1学期に短編をひとつだけ学生に書かせるんだ」と言っていました。ひとつ以上は書かせない。そのひとつの小説を1学期かけて、毎週毎週提出させ、それを批評して、少しずつ書き直させて磨いていく。
それを聞いて、「なるほどなあ」と思いました。カーヴァーさんも言っていましたが、「何度も我慢強く書き直す」「とにかくたっぷり時間をかける」って、小説を書くにはすごく大事なことなんです。覚えておいてください。
アサフォ95(60代、男性、東京都)

「山下洋輔トリオ再乱入ライブ」は素晴らしかった、毎回毎回、楽しみに聴かせていただいています。「ちょっと今日は好みじゃないかな!?」と思うタイトルの日もあるのですが、結局聴いていると、「そう来るか!」と必ず驚きに満たされてしまいます。その辺のギャップもあり長く続けて聴いてしまいます。本当に「山下洋輔トリオ再乱入ライブ」は素晴らしく、実際に聴きに行けばよかったと後悔の念がよぎりました。
僕も毎回こうして音楽を選んでかけながら、「こういうのって、僕のひとりの個人的な好みであって、みんな聴いていてつまんないと思っているんじゃないかなあ」とちょっと不安になったりもします。でもしょうがないですよね。みなさん全員の好みに合わせるわけにもいかないし、僕の好みを「そういうものか」とある程度受け入れていただくしかありません。勝手なことを言うようですけど。

ラジオ局の人に聞くと、局に寄せられるリクエストの9割近くは「Jポップの今のはやり曲」ということです。でもだからといって「Jポップの今のはやり曲」ばかりかけていたら、ラジオは間違いなくつまらなくなっちゃいますよね。というわけで「村上RADIO」は流れに抵抗する……というわけでもないんですけど、これからもけっこう身勝手な路線を走り続けます。よろしければ、おつきあいください。
みなちゅう(50代、男性、東京都)

こんにちは、村上さんに質問です。読書をする際に、自分の好みでない文章や内容の作品だと感じたら、途中でやめてしまいますか? それとも、なるべく最後まで読むようにしていますか?
昔はけっこう我慢して最後まで読んでいましたが、最近はつまらない、あるいは自分の好みに合わないと思うと、途中で読みやめてしまうことが多いですね。時間がもったいないし、目も疲れるし。若い頃、とくに10代の頃は、時間なんていくらでもあったし、目は丈夫だったし、本なんていくらでも読めたんですけど、年齢を重ねるとなかなかそうもいきません。
だから昔読んで「よかった」「面白かった」と思った本を読み返すことがどうしても多くなります。そうすればがっかりすることも少なくなりますしね。それから歳をとって楽になったと思うのは、「流行りもの」に興味がなくなったことですね。今どんな本が売れているのか、どんな音楽が流行っているのか、そういうのがどうでもよくなっちゃうんです。それはけっこう楽といえば楽かもしれない……とうちの奥さんに言ったら、「それって昔からずっと同じじゃない」とあっさりと言われましたけど。まあそうかもしれないですね。
村上さんの大ファンのひとり(45、男性、神奈川県)

村上さんがお答ええできる範囲でお願いしたいんですが、(たぶん世界中のファンが待ち望んでいるかとも思いますが)長編小説の執筆予定があるのか、いまもう執筆されているのか、構想されているのか知りたくて夜も眠れません。もし何かしら考えていらっしゃることがありましたら、教えていただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!
「知りたくて夜も寝られません」というのはなんだかお気の毒です。ウクライナの戦争とか、地球温暖化とかに比べたら、それほど大したことでもないと思うんですが、でもまあ気になるんですね。ありがとうございます。
僕は自分の書いている小説、とくに長編小説に関しては、はっきりした形をとるまでは誰にも口外しない――書いているとも書いていないとも言わない――ということに決めています。これはまあジンクスみたいなものだし、自分にとってのちょっとしたけじめみたいなものです。ですからある日突然、サプライズみたいに新聞に新刊広告が載ったりします。申し訳ありませんが、その日を楽しみに地味にお待ちください。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • あえて順位をつけろと言われたら、こんなふうにリスナーのメッセージに村上さんが答える回が一番好きです。ラジオでつながる秘密結社みたいだし、心が温かくなります。番組の感想や村上さんへの質問、引き続きお待ちしています(構成ヒロコ)
  • 村上DJは、2000年に『そうだ、村上さんに聞いてみよう』という傑作エッセイを世に送り出しました。読者からの質問・相談に答えるこの企画はその後も続き、2006年「これだけは、村上さんに言っておこう」「ひとつ、村上さんでやってみるか」、2015年には1億PVを越えた期間限定サイト「村上さんのところ」(フジモトマサルさんがイラストを描き、いま、村上RADIOのアイコンに使われていますね)を開設し、膨大な数の質問・相談に答えました。村上RADIOでも、質問特集は大好評です。そんな村上DJに、今回、リスナーはどんな質問をぶつけたのか。思わず唸る名回答とおすすめの楽曲をお楽しみください。パティ・スミス、かっこいいです。(エディターS)
  • 去年10月に「BRUTUS」で村上春樹さんの特集号が2冊出ました。そして1年後。合本として新しく発売!今回は10冊リスナープレゼントに頂いておりまして、村上RADIOの公式ツイッターのフォロー&リツイートキャンペーンの商品として使わせて頂きます。ツイッターのフォローのまだの方はぜひとも、「村上RADIOオフィシャル(@Murakamiradiofm)」をよろしくお願いします!「BRUTUS合本」の冒頭インタビューに、春樹さんが翻訳をやるのは、小説を書くときに使う頭の部分が全く違うそうで、「脳みその違う部分を使うので片減りしないから、それがとてもいい!」とありましたが、春樹さんにとって「ラジオのDJ」も、小説とは全く違う脳みそを使い、翻訳脳みその片減りをも防いでいるのではないかと思います。いや、村上RADIOの特集が短編のテーマと重なることも多いから、もしかしたら、短編を書く脳みそと連動しているのかも…?!(レオP)
  • 村上RADIOの特集の中で好きなものは?と聞かれると、リスナーのメッセージに答える回です。村上春樹さんとリスナーの皆さんとのやり取りにほっこり、温かくなります。ラジオだからこそ、様々な質問が出来て、素敵ですよね。引き続き、色々なメッセージお待ちしています。Twitterのプレゼント企画も、沢山のご応募お待ちしています!(AD桜田)
  • 村上春樹ライブラリーでアルバイトをしていた早大生の女の子が卒業旅行に行ってきたそうです。ヨーロッパを回り、イタリア・ヴェネツィアに立ち寄ったときのこと。彼女はそこで二人の男性(身も麗しき、モデルと俳優のイタリア人)と知り合ったのですが、ふたりとも村上主義者で、中でも愛読しているのが『ノルウェイの森』。村上ライブラリーや村上RADIOについてもよく知っていて、日本に行ったら早稲田のキャンパスを訪ね、ラジオも聴いてみたいとニコニコしていたそうです。ようやく海外からの旅行客も街で見かけるようになりました。ライブラリーもこの番組も新しい日本の名所になること請け合いですね!(延江GP)
  • 今回の村上RADIOは、マイ・フェイバリットソングズ&村上さんに聞いてみよう。リスナーの皆さま、いつも番組の感想を送っていただきありがとうございます!今回はいただいた質問に村上さんが答えるという内容でしたが、特に最新小説への言及が気になった方が多かったのではないでしょうか。そして放送後には決まってるかもしれない日本シリーズの結果も気になります!(キム兄)

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。