佐伯瑞穂はソッと溜め息をついた。
唇からこぼれる白い吐息が空気中へ舞い上がる。マフラーに口元をすっぽりと埋めて、彼女は容赦なく襲ってくる冬の寒気に小さな抵抗を見せた。
季節はすっかり冬である。
クリスマスまであと10日。もう随分前から、街はイルミネーションに彩られている。上を見上げれば灰色の空。前を見つめれば灰色の街。雪さえ降ればそれなりにロマンチックな風景に映るんだろうな……とぼんやり思った。セーターを中に挟んだ冬の制服。更にモコモコしたコートのせいか、少し、動きにくい。
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