陸で育つマグロ!? 〜ナゾの研究施設に潜入せよ!〜


「えー、ナニナニ? 『コラーゴン』:靭帯や軟骨などを構成するタンパク質の一つ。近年は健康志向が高まりを見せる中、これを含んだ食品も多く販売され… ってコレ、『コラーゲンですやーん!』

ノリツッコミをする元気はまだ残っている。
こちら、林さん。

変なオジサンに『コラーゴン』のことを尋ねてから、およそ1時間。
図書館に潜入してから、およそ2時間と半分。

『コラーゴン』なる物質の手がかりは、未だにつかめていない。

「うーん、おかしいですね… コラーゲンの間違いじゃないんですか? どこをどう探しても、『コラーゴン』なんてものは… てかお兄さん、一体なんでこんなものを探してるんですか?」

鋭い質問だ。

「いや、あの、その、私はスパイで… いや。あの、今、ヒミツのアレをアレしておりまして、それはおそらく、ヒミツの兵器で… いや、あの、その…」

林さんは鋭い質問に、弱い。

「あ、お兄さん、ひょっとして… ははーん。ちょっと着いて来てください!」

そう言うとオジサンは、図書館の出口の方に向かって歩き出した。

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小さくて広い背中を追っていくと、その先にはなんと、いかにも『ヒミツ』めいた建物が。
さらによく見ると、『研究施設のため関係者以外の立ち入りを禁止します』の張り紙。

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「…はい、コレコレ。あれでしょ? ウチの大学の、とっておきのコレを見に来たんでしょ?」

「ああ、は… はい!」

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…さては、このオジサン、勘違いしてますな? なぜに自分の組織の根幹となる秘密を、わざわざスパイである私に… いや、しめしめ… これは、しめしめですぞ!

「ここは、うちの大学のとっておきの研究施設。高級魚として人気の高い、クロマグロを陸上で養殖するという、全国的にも非常に珍しい試みをしている場所なんです。」

「ほう、マグロの… ですか。ほう…」

相手をキモチよくさせる、絶妙なあいづち。

『聞き上手は、営業を制す』。こんな言葉があるかどうかは定かではないが、林さんはオジサンから機密を聞き出すために、普段の営業トークで培ったスキルを、全てここに投入することにした。

「クロマグロは、最高級の寿司ネタとして日本で大量に食べられている、すごく高級な食材なんですよ。でも、最近は、あんまり捕りすぎも駄目だろうってことで、国際的に、『クロマグロを海から捕っていい量』が、だんだん少なくなってきたんです。じゃあ、捕るのが駄目なんだったら、自分たちで養殖してみれば…? ということで、こういう研究が進められているんです。」

「なるほど。クロマグロですか、私なんかは接待の時くらいしかお目にかかることができませんが… そうですか、そんな理由で… ほう…」

我ながら、完璧なトークの『受け』。

「養殖方法にも、大きく分けて二つあるんです。要するに、海で育てるか、陸で育てるかってことなんですけどね。で、陸上で育てるメリットは、例えば、海で養殖をすると、台風がドーンときてしまったら全ての魚が死んでしまって、おじゃん。なんてこともたくさんあるんです。他にも、エサを海にまくことで、結果的に海を汚すことになったり。その点を全て解決できるのが、わが大学が採用している、『陸上養殖』って訳です。」

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※写真提供:東海大学海洋学部秋山研究室

「ほう… それがココですかあ…。はあ… では、ここで行われている『陸上養殖』の特色とは、どういうことになるんでしょう?」

たとえ、自分が何を聞きたいのかよく分からなくても、たまにちょくちょく質問をはさんでみる。シンプルではあるが、トークを円滑にするには、かなり有効なテクニックである。

「その通りです。詳しく話すと長くなるんですが、ココで行われている、地下海水を利用した養殖方法は、世界でも最先端。この研究は、民間企業とウチの大学の秋山教授が中心になって行われているんですが、ウチの大学の学生も、ちょくちょくお手伝いしているんですよ。うちの『水産学科』の秋山研究室、通称『秋山水産』の学生がね。」

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「『秋山水産』といいますと…?」

タイミングといい内容といい、質問の仕方としてはもはや100点である。

「秋山先生の研究室では、他にもいろんな魚を育てているんですよ。タツノオトシゴとか、他にもたくさん珍しい魚を育てていて、たまに、学校見学に訪れた魚マニアの人が、すごく興奮していることもあります(笑)。『水産学科』の生徒は、将来、水族館で働いてみたいって子、あるいは、海の生き物に限らず、生物全般が好きって子たちが多いですね。ココも、結構女子学生が多い学科です。」

完璧なトークスキルで相手に気持よく話をさせることには成功しているが、聞けども聞けども、林さんが聞きたい話の核心に近づかない。

そうして、いよいよ焦りを感じ始めた、その時!

林さんは、驚愕の発見をしてしまった!!!!

「あれ、コレ、東海大学って書いてません…?」

オジサンは平然と答える。

「そうです、わが東海大学の研究施設です。」

…??? どういうことだ? 今、自分は、どこかの『海洋機関』に潜入しているはずなのだが…

「どうしました? そうですよ、ココが、東海大学清水キャンパス。海洋学部のある場所です。」

大学? まさか、ココは…? しかも、『東海大学』?…私の母校ではないか。
…ということは、もしかして自分は、母校に乗り込んで、銃を振り回して…


「ちょっと! どうしたんですか!」

呼び止めるオジサンの声を背中に、林さんはどこかへ駆け出した…