僕は駅に向かっていた。
学校に行くために、トロンボーンを背負って。
歩道橋に登り、ポケットを探った。ハンカチを取り出す。リップクリームが飛び出した。転がったリップクリームを追いかけ、拾おうとしゃがんだ。
いつか、僕は確かにここで、同じ格好をしていなかっただろうか……。
そうだ。ここに『コトバ』があったはずだ。あの時、ありったけだった僕の……。
あの日からもうすぐ五年が経つ。すっかり色の変わってしまった手すりの下枠を、しゃがんだまま指に触れながら、『僕』の閉じ込めてきた記憶から、鮮明に甦ったこと。
僕は四年前、今と同じ目線で思い、感じ、何に歯を食いしばったのだろうか……。
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