「未来を照らす、カラフルな光」 〜進化する“太陽発電”〜


「えっ、恵里さんっ!」

ゲッ! 見つかった!
という表情を、恵里さんは瞬時に隠した。

「よくぞご無事で… うまく逃げ出してきたんですな」

(逃げ出す?)

目の前の "メガネをかけたサラリーマン風の男性" が、何か勘違いをしていることは見て取れたので、恵里さんは、とりあえず、話を合わせておくことにした。

というか、話を合わせておかないと、何をされるか分からない。
学校中で評判になっている "怪しい人物" が、今、目の前にいるのだ。

「何も言わなくても結構。あなたが無事なら、それだけで、いいんです」

私は、あなたに変なことをされずに済めば、それでいいんです。

なんて、言えない。

「あのぅ… 林さん… でしたよね?」

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恵里さんは、恐る恐る口を開いた。

「恵里さん… オレみたいなやつの名前を憶えていてくれるなんて…」

違う違う、そういうことじゃなくて…

「オレ、今なら、何でもできる気がします! 今はまず、事件の解決を急ぎましょう!」

「えっ、どこに…?」

「道先案内は、恵里さんにお任せします! ハッハッハ…」

林さんは、無理やり恵里さんの手を取って、どこかへ駆け出した。



数分後。

「ココは?」

"工学部応用化学科"
ケータイサイトに異変がある学科は、ここで最後だ。

「ココも確か、重要な研究をしていたはずなんですよね…」

恵里さんは、"メガネをかけたサラリーマン風の男" に恐れおののきながら、なんとかここにたどり着いた。

ガラガラーッ!

部屋の中には、"いかにも" な薬品棚に機材、そして、白衣の研究者たち。

「スミマセ…」

「あ、いらっしゃい!」

ドアを開けたところにいたのは、愛らしい、女性の若手研究員。

「あの… (助けて下さい!)」

なんて恵里さんが言い切る、間もなく。

「あ、ひょっとしたら取材とかですか? あ、大丈夫大丈夫。私に何でも聞いてくれたらお答えできますよ」

プリチーな女性研究員は、どうやら、ちょっとだけせっかちらしい。

「じゃあ、えっと… これは、"色素増感太陽電池" と言って、簡単に言えば、色のついた太陽電池です。たとえば、コレは赤で、他にも、黄色とか青とか、最近は、いろんな種類の色の太陽電池があるんですが、なんでこんな研究があるのかというと… なんでだと思います?」

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いきなりの質問。
しかし、人には、質問されると、必ず考えてしまうという習性がある。

「えーと、えーと…」

答える間もなく、ドクター・プリチーが再び。

「ズバリ、おしゃれのためです!」

おしゃれ…?

「太陽電池というと、家の屋根とかについている、あの黒いヤツをイメージされると思うんですが、アレ、ぶっちゃけ、おしゃれじゃないですよね。色のついた太陽電池を利用すれば、たとえば、充電できる素材で服をつくって、歩きながらiPodの充電をしたりすることが可能になるんですよ」

確かに、"太陽電池" と聞いて誰もがイメージするのは、あの、黒いパネルだ。

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「理科の授業で、"黒" が最も光を吸収する色だって教えてもらいましたよね。あれはもちろん正しくて、だから、"太陽電池" も黒でつくられているものが多いんですが、黒いものだけだと、正直、使い勝手がそんなによくないんですよ。だから、こういう研究があるんです。色がついた太陽電池は、ちょっと寿命が短いんですが、その分、安く手に入るんですよね。ま、両方、一長一短があるので、適材適所で、もっと有効に使っていこうよってことなんですよ。あはは…」

やたら明るく、話がうまい人が多い。
これが、この学校の特徴なのだろうか。

「…で、あと、私は何を話せばいいんでしたっけ?」

…えーと。


「とにかく、"理系" だとか "工学部" だとか、別に "難しい" ものじゃないんですよ。単に、よりよい世界、もっと楽しい未来を創るための方法を毎日探しているってだけですから。昨日よりも、明日の世界の方が素敵だったら、いいと思いません?」


彼女もまた、この学校の他の人々と同じく、美しい目をしていた。

暗闇にさらされ、見えない未来にカラフルな光を照射するこの研究室の名は、『功刀 (くぬぎ) 研究室』


「あの… 最近、この研究室に変わったこととか…」

恵里さんは、声をなんとか絞り出した。
すると。

「ああ、あのケータイサイトの件ですか? あれ、さっき確認したんですけど、やっぱり "あの人" がやってるみたいですよ。なんか、お客さんが来るってキャアアアアアアアアアアアア!!!!」

突然、ドクタープリチーが叫んだ。

「どっ、どうしたんですか?」

「こっ… この人…!!!!」

彼女の視線の先には… 

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林さん。

「今日、学内を、"メガネをかけたサラリーマン風の男" がうろついてるって… 間違いない! この人だ!」

やっぱり?

「おや、何をおっしゃっているんですか。私は未来の鍵を握る学校から来た、カリスマ…」

ふと、研究室のガラス越しに、自分の姿が映る。
そこにいたのは、"メガネをかけたサラリーマン風の男"

「ギャアアアアアアアアアア!!!!」 「キャアアアアア!!!!」

林さんが叫び、それを受けて、二人のか弱い女子がまた叫ぶ。

「ギャアアアアアアアアアア!!!!」 「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



カオス。


3人が落ち着いたのは、15分後。(けっこー経ってる)


「…不審者じゃないと言うのなら、あなたはココに、何をしに来たんですかっ!」

うんうん、それを聞きたいと私も思ってたけど、遂に今まで聞けなかったよ。
という顔をしているのは、恵里さん。

「うっ、疑わないで下さいっ! 私は、人に会いに来たんです!」

「人って… 誰ですか?」



それは…




それは…



あっ…


『林レポート7』にして、やっと林さんは、重大なことに気が付いた。


「そういえば、誰に会ったらいいのか、確認するのを忘れて出て来てしまいました」


<続く>


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