■ 解体!
二週に渡る解体授業、ありがとうございました!ワクワクしっぱなしでした!! 乾いたギターやベースの音が使われていたり、同じ音や声を重ねていたり、今まで聴いていた中ではわからなかったたくさんの隠し味、スパイスを知ることができて楽しかったです!ミュージックがもっと好きになりました。 サカナクション先生がこだわり抜いて作った音の1つ1つが合わさって大きな音楽になることに単純に感動して、改めてとても面白いと思いました! 是非、また他の曲でもやってください!!お願いします。楽しみにしています!(。-_-。)
女/15/北海道
山口「そう。先週、先々週と、2週に渡って、サカナクションの『ミュージック』って曲をバラバラにしてみんなで聴いてみよう、という授業をやったわけですね。ふぐふぐのどかがそれを聴いてくれて、音楽の楽しさが伝わったと言ってくれたのは先生すごく嬉しいですね。また別の曲でやってみたいし、いつか、他のミュージシャンの曲とかも、別の先生を迎えてやってみるというのは、先生的にも興味があるので、いつか挑戦してみたいと思います。ふぐふぐのどかちゃん、ありがとう。」
『「ミュージック」の解体』の授業 - 前編
『「ミュージック」の解体』の授業 - 後編
山口「それでは黒板書きます。今日の授業もね、先週、先々週とはまた違った形で面白いと思うよ。」
今週と来週は、サカナクション先生との楽曲制作やリミックスも手がけているミュージシャン、AOKI takamasa先生をゲスト講師に迎えて、DJがよくやっている「つなぎ」についての授業を行ないます。曲と曲をノンストップで流していく=つなげてていく、というDJ MIXは、実際にどのように行なわれているのか、実演しながらお話ししていきます。
山口「AOKI takamasa先生、よろしくお願いします。」
AOKI「よろしくお願いします。」
山口「AOKI先生でいいですか?」
AOKI「フルネームやめてください(笑)。」
山口「AOKI先生とは、付き合い的には何年くらいですかね?」
AOKI「あれは……2009年。」
山口「2009年か。サカナクションの「YES NO」っていう曲をAOKI takamasa先生にリミックスをお願いしてからの付き合いで。サカナクションファンの方々は知っている人も多いと思うんですけど。それ以外にも「映画」という僕らの曲のリミックスをやってくれたり、「Ame(B) -SAKANATRIBE×ATM version-」という、ライブでも演奏している曲のアレンジを手伝ってもらったりとか。あと、「INORI」という、前回のアルバム(『sakanaction』)に収録されている曲を一緒に作ってもらったりとか、「ストラクチャー」も。」
AOKI「結構やりましたねー(笑)。」
山口「やりましたね(笑)。それに、最近の話では、1月3日に放送された、NHKスペシャル『NEXT WORLD』での「グッドバイ」のリミックス、NEXT WORLD バージョンも一緒に作っていただいたという、サカナクションとはたくさん、深く音楽を作ってきた先生でございます。」
AOKI「ありがとうございます。」
山口「AOKI先生は、普段どんな音楽を作ってらっしゃるんですか?」
AOKI「主に、ダンスミュージックを自分では目指して作っていて、できるだけミニマルな、音数の少ない、展開もなるべく少ない、リズム主体の音楽を作っています。」
山口「一郎先生も20歳……19歳くらいかな、AOKI takamasa先生の音楽を知って。インターネットでね、op.discっていうレーベルにメールして、CDを取り寄せて買ったりして(笑)、その時からのファンなんですね。」
AOKI「ははは(笑)」
山口「今夜は一緒に、DJのつなぎとは何なのかっていう授業をやっていきたいんですけど。まず「つなぎ」とは何かっていう話をすると、DJって曲をかける人ってイメージがあるわけじゃないですか。次から次に曲をかける人。でも、普通に考えたら、家でみんながCDを聴いたりしている場合って、別に曲と曲をつながなくても、途切れてもいいわけじゃないですか。それはなぜ、つながなきゃいけないんですかね?」
AOKI「いろんなDJがいると思うんですね。音楽ジャンルによっても、DJのスタイルが変わってくるし。テクノならテクノ、ヒップホップならヒップホップ、ファンクとか、ジャズとかのDJの方もおられるので。」
山口「ロックもいますもんね。」
AOKI「ロックもいますね。また、いろいろ音楽、それぞれによって方法は違うと思うんやけど、自分が今よく一緒に遊んでいるみんなとやっている音楽は、テクノっていわれるやつで。それは大体、曲と曲のつなぎ目が分からないように、ずっと何かキープするものが最初から最後まであるような、そういうのを目指してやっているみたいですね。自分も実は、DJをするのはそんなに経験が浅くてですね、3〜4年前から始めたんですけれども。」
山口「自分で音楽を作っていて、それとは別にDJっていうことをやり始めたのは3年前くらいってことですよね。」
AOKI「そうですね。」
山口「実際に、つなぐ理由っていうのは、それを聴いている、フロアにいる、踊ったりするお客さんたちがいるわけじゃないですか。そういう人たちが踊っていて急にテンポが速くなったりとか、音が途切れて踊りが止まったりとかしないように、ひとつの空気を作るというか、気分を作るってイメージでいいんですか?」
AOKI「そうですね。雰囲気をずっと維持する、みたいなのは近いかもしれないね。ずーっと踊れる雰囲気をひたすら維持する。リスナーの集中力が途切れないようにDJも集中していく、みたいな。」
山口「なるほど。僕らサカナクションも、ライブをする時にMCを挟まずに、曲を極力つなぐっていうことをやっていて。」
AOKI「あれ、いいっすねー。あれ、めっちゃいいっす!」
山口「(笑) あれはつまり、自分たちに集中してもらうというか、音楽に対して集中してもらうためにそういう技法をやっているんですけど、それと同じですよね。」
AOKI「そうですね。」
山口「ちなみに、DJの1プレイって、大体1人どのくらいの時間曲をつなぎ続けるんですか?」
AOKI「パーティの規模にもよると思うんですけど、僕が経験したのは、だいたい1時間〜1時間半から、6時間……」
山口「6時間!(笑)」
AOKI「8時間行く人もおられるし、もっと行く人もいるし。」
山口「ずっとつなぎっぱなしってことですよね。」
AOKI「ずっとつなぎっぱなし。」
山口「トイレとかどうするんですか?」
AOKI「長い曲をかけてトイレ行く(笑)。」
山口「ははは!(笑) 実際、トイレに行かれる人っていますよね。パーティやってると。」
AOKI「います、います。」
山口「では、実際に、曲と曲をつなぐってどういうことなのってことを口で話していても分からないじゃないですか。聴いている人たちは、まだクラブに行けない年齢の人たちが多いので。だから今日は、疑似DJみたいなのを体感してもらえたらなと思っていて。」
AOKI「はい。」
山口「今目の前には、ターンテーブル(レコードプレイヤー)とCDJ(DJ用のCDプレイヤー)があって、今AOKIさんがそれを操作しているところです。ターンテーブルとCDJの間には、ミキサーってものがあって。これは後でAOKIさんに解説してもらいましょう。今日はAOKIさんの曲とサカナクションの曲を繋いでもらうと。先にかけてもらうのが「INORI」。「INORI」から、AOKIさんの曲にうまくスイッチしていく、混ざっていくっていうことですよね。じゃあ実際に。まず、1曲目だけを聴いてみましょう。」
■INORI (Extended Mix)
(♪ INORI / サカナクション)
山口「これは「INORI」ですよね。テンポは、オリジナルより……」
AOKI「だいぶ下げています。オリジナルは、だいたい130っていうBPMだったので、そこから124っていうBPMで。」
山口「“BPM”っていうのは曲の速さですよね。」
AOKI「そうですね。“Beats Per Minute”。」
山口「ちょっと遅くなっているということですよね。」
AOKI「遅くなっています。」
山口「普通だったらテンポを上げて、速い方が踊りやすい、盛り上がるっていうイメージがありますけど、テンポが遅いと横ノリというかね。縦にジャンプしたりっていうのじゃなくて。」
AOKI「揺らぎがね。」
山口「横にゆらゆらできますよね。……じゃあ、1曲目はこの曲で、2曲目の、つないでもらう曲の方を。」
AOKI「はーい。」
(♪ PARABOLICA / AOKI takamasa )
山口「うおー……。」
AOKI「懐かしいっすねー。」
山口「かっこいいっすねー。」
AOKI「ありがとうございます。」
山口「あれ、これを僕が聴いた時って、AOKIさんにまだ会ってないですよね。」
AOKI「そうですね。2006年やから、その3年後。……あ、でも、3年後はあれか?連絡だけか。」
山口「そうです、そうです。……じゃあ、AOKIさんがフランスにいた頃に作ったこの曲と、僕らの、オリコン1位になったアルバムから(笑)。」
AOKI「イェーイ(笑)。」
山口「この曲を実際につないでもらいましょう。リスナーの皆さん、覚えていてくださいね、この2曲を。どういう風に混ざっていくかっていうのを。」
AOKI「じゃあいきます。」
(♪ INORI / サカナクション)
山口「やっぱりちょっとテンポが下がっているので、ここの声の質感とかもオリジナルの質感とは違って聞こえますね。」
〜 しばらく「INORI」が流れて……〜
山口「ここで、2曲目がちょっとずつ混ざってきます。「INORI」にAOKIさんの曲がちょっと混ざっていますよ。」
(♪ 「INORI」に「PARABOLICA」が少しずつ混ざってきて……)
山口「今これは、AOKIさんの曲と、「INORI」が同時に流れています。……わかるかな、生徒諸君。試しに、今の現状でON、OFFしてもらってもいいですか?」
AOKI「はい。」
(♪ 「INORI」だけになって……)
山口「これが「INORI」だけの状態ですね。で、2曲目のAOKIさんのを聴くと……」
(♪ 「INORI」に「PARABOLICA」が少しずつ混ざってきて……)
山口「今、AOKIさんの曲が混ざっています。……混ざってきました。今は『INORI』とAOKIさんの曲が混ざっています。」
(♪ 最終的に「PARABOLICA」だけになって……)
山口「これで、今AOKIさんの曲だけになりましたね。今は「INORI」が流れていない状態です。AOKIさんの曲だけ。最初「INORI」が流れてから、「INORI」に対してAOKIさんの曲が流れて、最終的にAOKIさんの曲だけになりましたね。曲と曲がつながった状態です。」
AOKI「ふふふ(笑)。面白い、実況中継(笑)。」
山口「ははは!(笑)」
AOKI「こんな感じですかね。」
山口「実際に、AOKIさんの曲と曲をつなぐ際に、ミキサーと呼ばれるこの機械の中で一生懸命触っていたつまみがあったじゃないですか。これは何ですか?」
AOKI「これは、イコライザーって言われているやつで、EQってやつです。英語では、“equalize(イコライズ) ”って言って、全部一緒にする、イコール(equal)にするってことでイコライズっていうことなんですけれども。このミキサーの場合は、低音と中音と高音をカットしたりブーストしたりできるので、使いながら音をうまくミックスできるように、なんとかトライしていくっていう。」
山口「実際に、「INORI」で中音や低音や高音を触って、リスナーのみんなにどういう風にそれが変化するか体感させてもらっても良いですか?」
AOKI「はーい。」
(♪ 再び「INORI」を流しながら……)
AOKI「これで、低音を丸々カットしましょう。」
山口「低い音ですね。」
〜低音域をカット〜
山口「あー、なるほど。一気に下の部分がぐっとシャープになったというか。」
AOKI「ね。厚みがなくなりましたね。」
山口「厚みがなくなりましたね。」
AOKI「で、また戻します。」
〜フラット(オリジナル)の状態〜
山口「これがまた元の状態ですね。低い部分、いかに音に輪郭があるかが分かりますね。」
AOKI「うん。次は中域をカットします。」
〜中音域をカット〜
山口「あっ。急に、クラブのドアを閉めた感じですね。」
AOKI「確かに(笑)。ドアの向こうで鳴っているような感じが。」
山口「これって、中域っていうのは、歌が入っていたりすると、歌の部分が担っていたりする部分ですよね。」
AOKI「そうですね。一番楽器が良くなる、声なり楽器なりが一番よく鳴っている部分ですね。……戻します。」
山口「はい。」
〜フラットの状態〜
AOKI「次は、高域をカットします。」
〜高音域をカット〜
山口「上の部分、シャーシャーいっていた部分が結構おさまったわけですね。」
AOKI「うん。戻します。」
〜フラットの状態〜
山口「あ、シンセの尖った部分が出て来て、輪郭がよりはっきりしましたね。曲をつなげる際に、こういうEQっていうのをコントロールしながら、ナチュラルに、自然に曲と曲がひとつになるようなバランスをとっていくのがイコライジングってことなんですね。」
AOKI「そうですね。次の曲の低音をカットしながら、前の曲になじむように徐々にフェードインしていく、忍び寄らせていく……みたいな。」
山口「なるほど。」
AOKI「でも、あのー、自分の場合はまだ本当にね、なんとかミックスしているって感じやけど、すごい上手い方になられると、もう、完璧に展開とかタイミングとかもキッチリ合わせてこられるので、本当に分からないですね。」
山口「展開っていうのはどういうことですか?」
AOKI「例えば、ハイハットが入ってくるタイミングとか。1曲目のハイハットが抜けるタイミングと、2曲目のハイハットが入ってくるタイミングまで合う。合ってしまうと、もう分からないです(笑)。」
山口「なるほど。これが、先生がよく遊びにいくクラブとかで行なわれているDJっていうことで(笑)。でも、今日ラジオを聴いている10代の人たちもたくさんいるわけで。」
AOKI「ねー、素晴らしい。」
山口「ちょっとでも、分かってもらえたら嬉しいですね。」
AOKI「ハタチになられたら、是非クラブへ遊びにいらしてください(笑)。」
山口「ははは(笑)。AOKI takamasa先生、ありがとうございました。」
AOKI「ありがとうございました。」
山口「次回も、AOKI takamasa先生が登場します。お楽しみに。」