「卒業ソングの卒業感を分析」
2017.03.09
サカナクション
山口「はい、授業を始めますから席に着いてください。マンガを読んでいる人はマンガをしまいなさい。Twitterを開いている人はTwitterを閉じなさい。Instagramを開いている生徒はInstagramを閉じなさい。授業が始まりますよ。……先生この間、第40回日本アカデミー賞の授賞式にプレゼンターとして参加させていただきましたよ。テレビでやっていたのを見た人もいるかもしれませんけど。そりゃ緊張しましたねー。レッドカーペットを歩く時も、並びにいらっしゃった方たちは本当に国民的な役者さんたちですからね。僕なんかがいると、地味で田舎者の東京生まれのふりをしている人みたいな感じで映っていたんじゃないかなと。でも、無事最優秀音楽賞のトロフィーをRADWIMPSに渡してきました。ロックバンドが2年続いて、アカデミー賞っていう映画界のお祭りに食い込んだのは歴代初じゃないですかね。僕らがロックバンドで受賞するのが初めてでしたからね。それが2年続いたのはすごいことだなーと思いましたし、誇らしかったですよ。壇上で、ロックバンドからロックバンドにバトンしたっていうのがね。『君の名は。』……素晴らしい映画でした。」
「そういえば、野田(洋次郎)君と話をしたのは、6年くらい前に1回だけ、フェスの会場で、どうも、サカナクションの山口です。って挨拶をしたきり一言もしゃべったことがないのよ。日本アカデミー賞の会場で音楽賞の人たちが待機している場所があって、プレゼンターとして最後に入ると、野田君たちが立ち上がってわーっと手を振ってきたの……だから、野田君たちもアウェーを感じていたんだと思う(笑)。僕も(手をグッ)ってやりましたけどね。」
「このサカナLOCKS!を聴いている生徒の中には、この春で学校を卒業するという人もたくさんいると思います。今回は、そんな卒業シーズンに流れてくる卒業ソングについての授業をお届けします。僕がぱっと思い浮かべる卒業ソングは……世代的に、尾崎豊さんの「卒業」。」
■尾崎豊『卒業』 - 「LIVE CORE 完全版〜YUTAKA OZAKI IN TOKYO DOME 1988・9・12」
「先生は田舎の中学校だったので、ヤンキーとか結構いたんですよ。友達の中にも悪いやつがいて。そういうやつらのモチベーションとかメンタルが仲良くなるうちに分かってきたりするんですよね。そうすると、尾崎豊さんの「卒業」に込められている歌詞のメッセージはすごく理解できたし、自分も何かそこに引っかかるものがあって。尾崎豊さんの曲ってそういう曲が多いですよね。でもこれって、外に向けた、大衆に向けた曲じゃないと思うんですよ。自分の内情を吐露しているだけの曲なんだけど、それでヒットしたっていうのは天才なんだなって思いますね。今でいうと誰ですかねー……尾崎豊さんってね……高橋優君?……とはまたちょっと違うよねー。ぶっ飛んでましたよね。コンサートの途中で帰っちゃうとかね。リハーサルに来なくて本番ぎりぎりに来ていきなり歌い始めるとかね。そういう伝説がありました。あと、亡くなられたのも衝撃的でしたよね。僕は、この曲を思い浮かべますけど、皆さんにも思い出の曲があると思います。」
「クリスマスソングにもクリスマス感があるように、卒業ソングにも曲のどこかに卒業感があると思います。それはあるよね……歌詞もサウンドもね。今夜は、そんな卒業感を意識しながら、卒業ソングを聴きながら分析していく……そういう授業にしたいと思います。」
「これからいってみようかな……海援隊ってみんな知ってる?……知らないだろうなー。武田鉄矢さんは知っている人が多いと思いますけど。武田鉄矢さんってミュージシャンだったんですよ。金八先生で役者のイメージが強いと思いますけど。『101回目のプロポーズ』とか、『刑事物語』とかね……知らないかな(笑)。面白いんだけどね。海援隊っていうバンドっていうのかな……やっていたんですよ。この海援隊の「贈る言葉」っていう曲です。ちょっと聴いてみましょうか。」
「(0’01〜”)……はい、ストップ。入り口のフェードインからの一定の音階ね。この卒業感半端ない。キーが。浮かぶようだね……風景が……夕焼けだね……。帰っている最中だね。これは……卒業式だ。”暮れなずむ町の” だから、卒業式が終わってみんなぞろぞろ帰っているけど、まだ名残惜しく校舎に残っている君。”光と影の中" ……学校を去っていくあなたに贈る言葉。……どんな言葉を贈るかは言わない、これが肝なんですね。」
「(0’37”〜)そして、Bメロ。短いAメロからすぐにBメロ。」
「(1’00”〜)涙を我慢するなって。”人は悲しみが多いほど、人に優しくできるのだから" ……って、これはすごい歌詞なんですけど。最初の2行、”悲しみこらえて微笑むよりも涙枯れるまで泣くほうがいい”っていうのは卒業を連想させるのよ。そこから卒業っていうテーマをさらに広げるの。”人は悲しみが多いほど人には優しくできるのだから" って、普遍的なメッセージになるわけね。この歌詞の転換……これはすごいストーリーなんです。」
「(1’10”〜)……これね ”さみしい" じゃなくて "さびしい" なのね。これもね……距離が近いよね。濁点にしていることで聞き手に対する距離感を縮めている。切ない言葉を伝える上で、この”び"が効いているね。」
「(1’20”〜)ここで ”贈る言葉" っていうタイトルが出てきたというところで、今までの言葉すべて含めて贈る言葉でしたっていう……。これはねー……すごいなー……やっぱりこの時代の歌詞はメッセージ性が今の時代とは違うんですよね。歌謡曲っていうジャンルが大衆を占めていたわけだから、その歌謡曲の中でどのくらい研ぎ澄ませるか。分かりやすく、そして分かりにくく誰もにメッセージを届けられるか。これは素晴らしいですねー。しかもね、ギターのコードは簡単なの。ちょっと覚えたら弾ける……っていう。これは名曲です。海援隊の「贈る言葉」は、1979年11月1日リリース……先生はまだ生まれていないです。テレビドラマ『3年B組金八先生』第1シリーズの主題歌ですよ……つまり、金八先生っていうドラマの書き下ろしなんですよ。しかも自分が主演ね、星野源ですよ(笑)。脚本が最後まであるか分からないけど、学園ものとして、卒業式で終わるっていうコンセプトはあったのかもしれない。その中で「贈る言葉」っていう卒業の曲を作ろうよっていうところでここにたどり着くっていう……100万枚を超えるヒットですよ。様々な人がカバーしています。先生もよく歌いますよ。」
「じゃあ、もうちょっと新しいところいってみましょうか。レミオロメンの「3月9日」。リリースは2004年3月9日。作詞、作曲は藤巻亮太さん。今ソロで活躍されています。Mr.ChildrenやMy Little Loverも手がけた小林武史さんが編曲で入っている。2001年3月9日に行われた友人の結婚式を祝うために作られた楽曲……つまり、卒業式の歌というより、人生の中の節目という意味での卒業をテーマにした歌ですね。聴いてみましょうか。」
■レミオロメン - 3月9日(Music Video Short ver.)
「(0’11”〜)これね、モンスーンね。”流れる季節の真ん中” って、どの季節か言っていない。だから、普遍的だね。”ふと日の長さを感じます" っていうところでちょっと季節感を感じるね。そして、最後に ”ます" って使われている……これは昨今出てきた技法なのね。ブログ用語みたいな……要するに、話しかけている。聴いているあなたにこの歌を届けます、この言葉を言っていますっていうやりかたなの。」
「(0’37”〜)はい、”3月の風に想いをのせて” ……これで季節が確定しましたね。3月なのに ”桜のつぼみ" と出てきますね。なので、桜は咲く前の暖かくなりかけてきた頃を上手く歌っていますね。」
「(1’15”〜)すごいシンプルな曲ですねー。友人の結婚式を祝うために作られた曲ですからね。衝動的に作られた感じがありますね。サビもキーがポッと上がって、(ギターの)バッキングが歪むだけっていう……勝負していますね、言葉で。最近こういうバンド減りましたね……考えてみると。なんか、僕はレミオロメンから野狐禅を感じるんですよね。フォークの熱さ……みたいな。後半は、外に向かって作っていくっていう感じになりましたけど、この頃はまだ第ブレイクする前ですよね。衝動的な生々しさがありましたよね。」
「これがなぜ卒業式の曲になったのかというと、結婚式の門出みたいなもの……たまたま3月9日の友人の結婚式のために作った曲が、卒業生が聴いたときに卒業ソングになると。違う目的で作ったものが聴き手の状況によって、それに合うっていう偶然性が生まれたんですね。こういうストーリーは良いですね。あとね、友人の結婚式のために書いたっていう、このストーリーも素晴らしいですね。その友人からすると自分の曲ですからね。」
「ということで、今夜は卒業ソングを聴いてきましたが、ここで最後にこの春卒業する生徒の皆さんへ、黒板にメッセージを書きたいと思います。……ちょっと遠まわしになりますけど……一文字で。黒板に書ききれないので。」
「卒業っていうのは”花"だなって思うんですよ。僕らは大人になると卒業式のこととかを思い出すんですよね。その記憶ってものすごく深く自分の中に残っていくわけです。小学校なら6年間、中学校なら3年間、高校なら3年間、大学なら4年間……その後社会に出て仕事をしたり、定年退職もあるのかな。仕事を変えたりする人もいると思うけど。長い時間のいろんなときに、卒業っていう、次の道へ進むときがあると思うんですね。そのタームごとに、僕は、種から花を育てて、次の種を生み出していく作業なのかなって思うんです。なので、次の新しい世界に飛び込むときは、また花から種に戻らなきゃいけない。だからすごく不安だと思うけど、それは必ず誰もが経験することだし、また次の花を咲かせるための種を植えている作業で、その不安はそのためのものなんだって思うとまた前に向かっていけるんじゃないかと思う。だから、卒業して寂しくなる人も、新しい世界が不安な人も、また花を咲かせようと思って頑張って欲しいなと思います。」
「先生も、北海道から東京に出てきたのが遅かったから、すごく不安なこともあったけど、新しい種を育てて、今大きな花を咲かせようと頑張っていますので、皆さんも寂しかったり辛かったりすることがあると思いますが、自分としっかり向き合って、自分の花を咲かせてください。卒業、おめでとうございます。」