「多分、風。」大解剖! - 後編
2016.12.08
サカナクション
山口「今夜は、先週に引き続き、サカナクションのシングル「多分、風。」を解剖していきたいと思います。この人と一緒にお届けしていきまーす。」
江島「サカナクションの江島啓一です。」
山口「さあ、先週までは、Aパターン、Bパターン、Cパターンと3つのパターンを、6月14日から6月26日までの(笑)、12日間の苦闘を聴いていただいたわけですが。最初は今の原型に近いというかね。基本の叩き台。「多分、叩き台。」が最初にあって、それにカルチャー感を出していこうというので思い切りカルチャー感をだしたBパターン「多分、物足りない。」になっちゃって、思いっきり上げてダンスミュージックの80年代にいっちゃおうって感じでガーッとやったんだけど、80年代を通り越して90年代じゃんっていうのがCパターンの「多分、それ90年代。」(笑)。ここまで先週紹介しました。」
山口「では、今日はそのCパターンでダンスミュージックでいこうよ!といったところで、カルチャー感が違う方向に行ってない?っていうので。80年代を目指していたのに。」
江島「80年代じゃなかったね。」
山口「これは完全に90年代じゃんってところまでいっちゃったわけですよ。派手にはなったけど、本末転倒だと。じゃあ、もう少し音色で80年代を出していこうと。80年代感を出しましたっていうシンセサイザーの感じをもうちょっと詰めようじゃないかと。音色で勝負だっていうところにいったわけですね。フレンチテクノとかの、音が出すぎちゃって歪んじゃっている感じ……分かる?レコードに音がパンパンに入っちゃっている感じ……って言っても分からないよね、今の子たちには。」
江島「ないもんなー、そういうことが。」
山口「例えば、Washed Outとか、コンプがかかってシンセがつぶれちゃっているとか。」
江島「ザラザラっとした質感だね。」
山口「あとはDaft Punkもそうだね。ダンスミュージックの人が多いね。」
江島「そうだね。」
山口「そういう感じの音にしてみたやつを聞いてみましょう!」
山口「これ……伝わるかなー。なんかこう……歪んじゃっている感じ。このカルチャー感って分かるかなー。「多分、歪んでる。」(笑) いや、「多分、濁り。」(笑)」
♪ demo 4 「多分、濁り。」(2016年6月29日 ver.)
山口「これ結構好きだったんだよねー。」
江島「入っている音としてはほとんど一緒なんだけど、全部の音色が違うんだよね。」
山口「(ドラムの)キックもなんか……パスッパスッて。古い……大きなどかっとした音。……で、なんかあれって思うわけですよ、またおじさん。」
江島「はいはい。」
山口「このアレンジだと、サビで一番盛り上がらなきゃいけないのに、サビが遅くなっちゃっているじゃん、って。」
江島「スピード感が落ちちゃう。」
山口「いや、落ちてねーし!みたいなのと、いや、落ちてんじゃん!みたいなので、なんか……よーし、研究!集まれー!笛ピー!みたいな(笑)。」
江島「(笑)」
山口「何が原因でどうで、こう……みたいな議論が繰り広げられるわけですね。でも、またここで歪んでいないパターンに戻ったりして、ウワーーッ!!てなった(笑)。」
江島「ウワーーッ!!て(笑)。」
山口「なんだー!!みたいな。スタジオでぐちゃぐちゃやっている場合じゃないじゃないかー!!ってところで、もう、リハーサルスタジオでセッションで作っちゃえばいいじゃないかって。リハーサルスタジオで、せーので合わせてやったんだよね。全部変えるぞーって。」
江島「はい。」
山口「そのパターンは、とりあえず全部忘れて、ええじゃないかと。スタジオでみんなで合わせて、ええじゃないか、ええじゃないかって言ったので……「多分、ええじゃないか。」(笑)。」
江島「おー(笑)。」
山口「ディスコ・バージョン、聴いてみましょう。」
♪ demo 5 「多分、ええじゃないか。」(2016年8月6日 ver.)
山口「これ結構好きなんだけどね、俺。かっこいいよね。で、このパターンだったらメロディを変えちゃったらいいんじゃない?みたいな。「多分、風。」のメロディじゃなくてもいいんじゃないか説(笑)。」
江島「よくあるんですけどね、僕らは。」
山口「あるある。今回は、歌のノリがリズムに合っていないっていう説がサカナクション内であって。」
江島「ありました。」
山口「気持ちよければいいんじゃね?っていうのと、いや、気持ちよくはない。みたいな大議論ね。」
江島「ベランダでね(笑)。」
山口「だったら違うメロディでいこうよってところで、おじさんが歌詞部屋に潜り込んだんだよな。ドアに鍵をかけて、ガチャ!って。」
江島「で、夜中にポッと上に上がってきて、ちょっと曲流してって言って歌い始めたのが全然違うパターンだったっていう。」
山口「そうだったねー。じゃあその、「多分、風。」の別メロディを聴いてみましょう。」
♪ demo 6 「多分、風。」(※別メロディー) (2016年8月29日 ver.)
江島「もう、全然違う。」
山口「なんかねー、あんまりメロディはいらないと思ったんだよね。カルチャー感で押して。で、和の要素が欲しいって思ったんですよ。日本の民謡感とインディーズ感っていうか。日本の民謡感って、80年代のテクノポップとかでよくあったんだよね。こういう音階ね。」
江島「日本っぽいよね。」
山口「歌詞書いてたんだよねー。何だったかなー。"爪、爪、爪 爪でかいた"……みたいな。忘れちゃったなー。」
江島「え、俺聞いてないよ、それ(笑)。」
山口「で、サビでベースがボーンと鳴って広がる……みたいな。実は今の「多分、風。」のラスサビ前の感じが、このバージョンで生まれているんだね。これが別メロディーver.ね。」
山口「で、僕たちのこの長い旅を終わらせる衝撃的な一言がPAのサニーさんから放たれるわけですよ。」
"一郎、なんかいろいろぐるぐる回りすぎて訳分かんなくなってるから、最初に戻れば?初期衝動が大事だよ。"
山口「……って言われて、僕はシュンとするわけですよ(笑)。そっかーって。じゃあ最初のパターンでいっちゃおう!って。みんな集合!それでは元に戻りましょうー!って。」
江島「うん、でも、ごもっともでしたよ。サニーさんの判断は。」
山口「そして元に戻って、一番最初のパターンに戻る訳ですけど、今まで雪だるまみたいに「渚のアップビート(※「多分、風。」の仮タイトル)」って曲がいろんなアレンジを辿って大きく雪を絡めて玉が大きくなっていったわけですよ。いろんなものを付加して、スタートの位置に戻ったんです。」
江島「そうだね。」
山口「いろいろ決まってね。キックはこうだよね。シンセの役割ってこうだよねって、ルールが出来上がったんだよね。だから結構パッといけたかな。」
江島「やりつくした感はあったよ。このシンセとこのシンセの音色とか。」
山口「で、「できたー!!!」って言ってから、おじさん、また始まるんですよ。あれ……これBPM上げたほうが良くね?って。」
江島「あー!あったね。」
山口「だから、今までやったことがない奇数BPMね。BPM139っていう、「ルーキー」より1遅いっていう。」
江島「ないんだよね、今まで奇数のやつが。」
山口「で、最後のあがきをしたわけですね、おじさんは。」
江島「そうですね(笑)。」
山口「みんなはもう、何も言わずに、はい。みたいな感じで。(笑)
江島「結構面倒臭いんですよ、あれ。録り直さなきゃいけないんで(笑)。」
山口「そして完成版の「多分、風。」に辿り着くわけですね。で、歌詞に入るんですよ。ここでね。」
江島「うん。」
山口「「渚のアップビート」から蓋を開けると「多分、風。」に。」
江島「「多分、風。」になってた。」
山口「びっくりした?」
江島「2パターンあったじゃん。どっちがいい?ってなった。歌詞も2パターン。」
山口「うわー(笑)。そうだっけ?」
江島「そうそう。「できた!集合!」って言ってスタジオに来たら、歌詞が2パターンあるんだけどどっちがいい?って。まだ出来上がってないぞ……って(笑)。」
山口「(笑)……まあ、こんな形で「多分、風。」は皆さんの元に届いたわけでした。」
■ サカナクション「多分、風。」MV
今回の授業も終了の時間になりました。
山口「どうですか?江島選手。振り返ってみて。」
江島「いやー、忘れようとしてる。脳みそが。……辛すぎて(笑)。」
山口「でもさ、今回はそんなに長い旅じゃなかったよね?」
江島「いや、述べで言ったら長いですよ。去年からやっているから。」
山口「俺からすると結構早かったなと思ったけどね。もっと苦しい時いっぱいあったもん。」
江島「……あらそうですか。大分こもってましたよ、僕はスタジオに。」
山口「あー……でも……まあ、知れてんな。」
江島「……おそろし(笑)。おそろしやー、この現場(笑)。」
山口「また次のアルバムもよろしくお願いします。」
江島「よろしくお願いします。」
山口「ということで、今回の授業はここまで。サカナクションの山口一郎と、」
江島「江島啓一でした。」
山口「やっぱりdemo 5のあのアレンジ好きなんだよねー。アルバムに入れたいのよ。メロディは1つ別のをつけるからさ。ディスコね。もっち(ギターの岩寺基晴先生)が偶然弾いたギターが良いんだよね。それが良いって気づいてなくて、俺が「それそれ!」って。いいねー。これを次のアルバムに入れたいね。採用!」
江島「お!はい。」
山口「メロディーとコードは変えるよ。」
江島「ありがとうございまーす。」
山口「あと、demo 3もいこうぜ。次のアルバムに入れよう。」
江島「はい(笑)」