山口「はい、授業をはじめますから席に着いてください。……先生は、相変わらず引きこもっております。つまり、歌詞を書いているわけですが、こうやってラジオの度に下界に降りてくるというか、深海から上がってくるというか(笑)。それを繰り返していると、自分のこの職業って一体何なんだろうなっていうことを切実に考えますね。音楽を作るっていうことが一体どういう事なのか、これを分析したいなって思いますね。それを理解し直すと、また作るものも変わるのかなとか考えていますが。」
「そういえば、ONE OK ROCKのアルバム、オリコン1位になったみたいですね。イメージ的には、もうとっくに1位になっているイメージでしたが。アイドルとかが上位にいるとなかなか1位になれないんでしょうけど。iTunesでも、先行予約みたいなのをやっていましたよね。iTunesでも予約があるって、全然知らなかったけど。……まあ、みなさん、ONE OK ROCK、聴いてみてください。わはは!(笑) ……なんでワンオクの宣伝になるのかは分かりませんが(笑)。そういえば先生、TAKA君といっしょに釣りしたことがあるんですよ。……ただの自慢になってますが(笑)」
今回は、生徒の皆さんに出していた、宿題『タイアップの効果について140字以内で答えよ!』に提出された、生徒みなさんの小論文を紹介していきたいと思います。
宿題の内容をおさらいしますと……
“ミュージシャンの楽曲が、映画やドラマの主題歌や挿入歌、CMなどに使われる事を「タイアップ」といいますが、このように楽曲が使われる際の効果について、多角的な視野で考え、140字以内でまとめなさい”というものでした。
「小論文という名の宿題は、かつて出し渋りがあったにもかかわらず(笑)、今回はたくさんの提出がありました。それでは早速紹介していきましょう。」
タイアップは依頼する側と依頼される側の利益が成立する。依頼主はミュージシャンの人気やイメージを宣伝にいかし、ミュージシャンはファンの層と数を増やすきっかけをつくり、聴き手に新たな音楽を提案する事が出来る。しかし、一定期間に集中して曲が流れるため、一時の注目となってしまうこともある。(140字)
女/21/北海道
「なるほどね。タイアップにミュージシャンが楽曲提供をすると、宣伝になると。ファンの層も増やすけど、それは一時的になるかもしれないという不安があるよってことも言ってますね。しっかりしてますねー。……でもこれ、タイアップはいろんな条件があるんですよ。テレビCMは長くて30秒でしょ?今は15秒とかですもんね。それに合わせて、15秒でサビが完結するようにとか、30秒に合わせてきっちりキリがいいように、とか。あと、CMが流れる用に歌の音量を大きくミックスするとか、いろんな工夫がされるわけです。タイアップを依頼する側の都合がいい状態に持っていかれる可能性も結構ある。そういった部分も、今回ゆっくりと話していきましょう。……愚痴にならないように(笑)。ありがとう、変態少女。」
例えばMVが無い曲にCMで映像が付けられたら、曲を目でも楽しむ事が出来ます。また、曲が映画等の主題歌になったら、これまで以上に曲を物語としても見やすくなります。なので私は、タイアップは楽曲を音楽以上のものにする効果があると思います。(116字)
女/15/北海道
「おー。歌だけじゃなく、音だけじゃなく、視覚的要素も踏まえる効果があると。なんか、この曲を聴くと昔のCMを思い出す……とかありますもんね。だから、ミュージックビデオ(MV)だけではなく、曲の印象を植え付けるっていう効果があるんじゃないかと言っていますね。確かにそれはあります。未だにどうでもいいローカルのCMとか覚えていたりしますもんね(笑)。北海道では、やっぱり広瀬香美さんなんですよ、僕の世代。スキー場のCMで、広瀬香美さんの曲がバンバン流れていて、ゲレンデに行っても流れていますからね。僕らは「アルクアラウンド」っていう曲が "kissmark" (アパレルブランド)のCMソングになって、スキー場でもすごい流れたらしくて、それが結構効果的だった……みたいなことを聞きますね。そういった意味で、スキー場で恋愛とかするとその曲は恋愛の曲ではないのに、そう聞こえてきたりするわけですもんね。なるほど、一里あり。Ruo、ありがとう。」
タイアップは、そのミュージシャンの第一印象だと思います。もし初めて聴いた曲が心に残ったらそのミュージシャンの事が気になるし、何も思わなければそれまでだし。(77字)
女/16/兵庫県
「おー。ミュージシャンの第一印象……。聞いた事ない曲を初めて聞くのがCMだったりドラマだったりすると、その曲の第一印象になるっていうのは言えていますね。ただそれは曲の第一印象であって、そのミュージシャンの第一印象っていうのはひょっとしたら断定し過ぎかもしれない。確かに、ドラマが好きで、CMに出ている女優さんが好きで、そこで流れている曲が気になり始めた……みたいなことは、全然知らなかったそのミュージシャンのことを知るきっかけにはなるかもしれないですね。好意的な意味でね。ありがとう、ちびきゅーり。」
・ドラマ…好きな俳優さんが出るから見た→サカナに出会う
・CM…たまたま見た→サカナに出会う
・映画…好きな監督の作品!→サカナに出会う
・結果として、MVの再生回数が伸びる、CDが売れるなどのメリットがあります。(108字)
男/16/広島県
「ははは(笑)。全部サカナか。これは、確かに、ドラマをきっかけでサカナクションを知ったっていう人とか、CMをきっかけで知ったっていう人が結構多いんですよ。ミュージックビデオの再生回数が伸びるっていうことは現実的によくある。それを狙ってミュージックビデオを作ることもあるしね。ただ、それがCDが売れるっていう風には繋がらないんですね、今の時代。YouTubeの再生回数がいくらあっても、ミュージックビデオを見る人たちの年齢層って、CDを買う人たちの年齢層と合致していないっていうんですね。なので、それに直結する意味ではないんです。だって、海外の人たち……テイラー・スウィフト(Taylor Swift)とかさ、(ミュージックビデオの再生回数が)1億回とかなんでしょ?だからといって1億枚もCDが売れたりしているわけではないですからね。プロモーションとして使っているとして、それが直接セールスに繋がるっていうことはあまりないかもしれないですね。だから、『CMや映画でよく使われている』=『セールスに直結する』ということではひょっとしたら今はないのかもしれないという事も言えるわけです。宣伝にはなるけどね。名前を知ってもらう事はできる。」
タイアップの楽曲がメディアで取り上げられすぎて、そうじゃない楽曲を聴く機会がすごく少ないです。むしろタイアップじゃない楽曲に何があるか分かりません。だからタイアップはいろんな音楽を知る上で重要な手段ですが、メディアはそうじゃない楽曲をもっと取り上げるべきだと思います!! (135字)
女/18/愛知県
「素晴らしい。まさに。僕もそう思います!(笑) でも、メディアの表面に流れる音楽が今の日本の音楽シーンの表層であるというのはいつの時代もそうで、その表層の下にある音楽っていうのがどの時代にもあったわけですね。音楽が好きな人たちが、その表面的な音楽たちを嫌いって、その中にある、アンダーグラウンドな部分を好むっていうのはどうやっても変わらないと思うし、いつの時代もそうだったのかなって思うけど。美しいものって難しいから。本当に興味がある人にだけしか理解されないんですね。だけど、タイアップとか、そういう意味でミュージシャンを知ったり、その音楽を知ったりすることで、もっと深く探ってみようってアルバムの曲やそうじゃない曲を知って音楽にハマっていく、と。そういう戦略をとっているミュージシャンやアーティストもたくさん居るんじゃないかと思います。」
「サカナクションを例に挙げると、それで楽曲に興味を持ってもらった人たちにはまずミュージックビデオを見てもらう。そして、そのミュージックビデオを見て、面白いって思った方はまた違う曲を聴いて行くと。そうやってどんどん聴いていって、アルバムを手にとってもらったときには、すごくマニアックな事だったり、手の込んだ音楽だったり、そういったものに辿り着けるようにする。そういうルートを作るようにする事っていうのを意識してやっています。」
「ただね、タイアップだけを目指して音楽を作っていくと、本当にその瞬間にだけしか売れなかったり、名前を知ってもらっているだけで、実際にCDは手にとってもらえなかったりする。そういったデメリットもあるんですね。それと、タイアップをとるっていうこともいろいろあるんですよ。何時からのアニメの主題歌はうちのレコード会社の方で新人を当てます、って決まっていたりするんですよ。だから、みんなが表面的に捉えられる音楽とか、みんなに表面的に入っている音楽っていうのは、実はいろんなところでコントロールされていることも分かっておくといいかもしれないですね。いろんな音楽の楽しみ方があるっていう部分も知ってもらえたらなと思います。」
そろそろ今回の授業も終了の時間になりました。
「本当に、先生、まさに今タイアップの楽曲を作っていて、書けないわけですよ。書けない理由とかも、考えに考えて、ねじれねじれて……よく分かんなくなっていますけど(笑)。でも、こうやってみんなのタイアップに対する意見を見てみると、デメリットの事はともかく、効果はあるんだっていう認識があるっていうことが分かっただけで、先生にとっての救いです(笑)。ふふふ(笑)。なので、早くこれを終わらせて、生放送教室にもね……行きたいですよ。いやー。もう……頑張ります!(笑)」
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