サカナクションと音楽の共有
2013.02.04
サカナクション
■ サカナ掲示板
サカナ掲示板に人が増えた気がします♪嬉しい!
ryoko
女/15/広島県
「それは先生も思っていました!嬉しい。去年の12月くらいからサカナ掲示板への書き込みが増えています。ようやく、先生の熱血指導が生徒に響き始めたのかな(笑)。授業始めた当初は、「真面目すぎる。」「堅い授業でつまらない。」「もっとくだけて欲しい。」なんて声がたくさんありました……。でも、真面目に続けて行くと、真面目な生徒が集まってくるね。みんなに響けばいいな。先生、嬉しいです。これからも頑張ろう。」
授業のオープニング、山口先生が黒板に書いた文字は、ミュージック。これは、サカナクションの新曲のことでは、ありません。今回の授業は、ミュージック……つまり『選曲』の授業です。サカナクション先生が普段、どんな音楽を聴いているのかを紹介していく、選曲の授業です。
「今日は、君たちが普段、あまり聴いたことがないような音楽をたくさん紹介することになると思うのですが、サカナクションは、普段こんな音楽を聴いている……というのを知った上で、改めて、僕らの曲を聴いてもらえると面白いかなと思いまして、今日はそういう音楽たちを紹介したいと思います。」
現在、山口一郎先生の自宅にサカナクションのメンバーが集まって行なわれている、通称 "自宅レコーディング"。これは、3月にリリースされるアルバムの制作の一環として行なわれている訳ですが、この自宅レコーディングを始めるにあたり、バンドのメンバーが、普段、どんな音楽を聞いているのかを持ち寄ったそうで、今回はそこで共有された音楽たちを、山口先生が紹介してくれます。
「まずは、ディスコ・ミュージックの名門中の名門、カサブランカ・レコード (Casablanca Records)っていうのがあるんですけど、そこに残された名曲の数々を、いろんな人がカバーしたんですね。その中で一曲、映画の主題歌にもなっていた曲を、 Moullinexっていう人がカバーした、「Maniac」って曲を聴いてもらいたいと思います。」
「これの原曲はマイケル・センベロっていうアーチストで、『フラッシュダンス(Flashdance)』という、1983年の映画の主題歌です。メロディーを聴くと、昔懐かしい日本の昭和歌謡曲の感じがしませんか?そういう曲を現代の人がリアレンジすると、面白い音楽になって、さすがだなと思うわけです。現代にこういう曲を作っている人がいると、「あれっ、いいな。」と思うんじゃないでしょうか。」
「続きましては、ロバート・グラスパー(Robert Glasper)っていう方の曲を紹介します。みんな、ニルヴァーナ(Nirvana)って知ってるかな?グランジというロックのジャンルの大巨匠ですよ。そのバンドに、「Smells Like Teen Spirit」っていう、ものすごく有名な曲があって、いろんな人がリミックスしています。この曲をリミックスする人は、大抵ガチガチのハウスや、ロックのリアレンジなんですけど、ロバート・グラスパーさんは、なんと、ジャズ・リアレンジをしたんですね!僕は、これを初めて聞いた時は衝撃的でしたね。どう聞いていいのか分かんなくなってしまいました。でも、この曲は、最後にご褒美があるんですよ。分かりやすいご褒美じゃないので説明しにくいんですけど、原曲を知っている人も知らない人も、ものすごく面白いので聞いて欲しいです。まず、冒頭に、ドラムのキックを「ドンドンドン」と連発して踏んでいるのが分かると思います。それがなくなったときに、「あれ、なくなった!」って、フワッとするあの感じがかっこいいんですね。楽器をやっているひとは、自分のパートを追いかけながら聞いてもらうと面白いかもしれないです。」
「面白いでしょ?この曲、後半に向けてボリュームが上がって行くんですよ。ボーカルも、ラジオのモノラルラジオのような音で録音されていて、遠く聞こえるんだけど、美しく聞こえる。後半に入ってくるクリアなステレオの歌のところでウネるんですね。かっこいいなぁ〜……。何の音を追いかけるかによって感覚が変わるんですよ。ドラムを追いかけるのか、歌を追いかけるのか、ピアノを追いかけるかによって聞き方が全然変わる。ちょっと意識して聞いてもらいたいと思います。この曲は、斬新なロックとジャズの融合なんですけど、ロバート・グラスパーさんは、他にも、ヒップホップとジャズを融合させたりしていて、僕らサカナクションが、J-popとクラブ・ミュージックの融合というものに挑戦している上で、すごく刺激を受けるミュージシャンですね。こういう曲を聞きながら通学して欲しい(笑)。そういう高校生がいたら最高にいい時代が来るなと思います。」
ちなみに、この曲をサカナクションに教えてくれたのは、山口先生が尊敬している日本人ミュージシャン、AOKI takamasaさんなのだそうです。
「さて、次に紹介するのは、ミゲル・キャンベル(Miguel Campbell)っていう、マンチェスターの方ですね。皆さんは、テンポがゆっくりした曲だと、バラードをイメージしますよね。そして、クラブ・ミュージックっていうと、速くて踊れるっていう印象があると思うんですけど、ミゲル・キャンベルさんの曲は、BPMが120前後で遅い方なんですけど、踊れるんです。ファンクとかディスコはそういう傾向の曲が多いんですけど、ものすごくかっこ良いので、みんなに聴いてもらいたいです。リズムを追いかけて、そのグルーヴで体を動かしてもらうと良いと思います。」
「これを聴いていて面白いのは、サイドチェイン・コンプレッサーがかかっていて、キックが鳴っているときに、他の音が引っ込んでいるんです。だから曲に波が生まれるんですね。テレビCMなんかで、よく、ナレーションが始まった瞬間に曲の音量が小さくなることがありませんか?あれは、コンプがかかっていて、声が出る時に後ろの音楽が下がっているんですね。この曲の場合は、キックが「ドンドンドン」ってなっている間に、オケ(=バックトラック)が下がることで、強弱がついて、それがグルーヴになるんです。この曲は、キックもベースも全体的に打ち込みの曲なんですけど、ベースが一番、歪(ひず)んでいて、耳に残りますね。だから、マイケル・ジャクソンなどの曲を聴いているような、80's感が出ていて、それを感じさせながらグルーヴは、ものすごくファンキーなところがかっこいいんです。そして、歌はバカウマですね(笑)。この曲で皆さんに感じて欲しいのは、テンポが速い曲じゃなくても踊れるっていうことです。ライブで首にタオルを巻いて、速い曲でジャンプして踊ることも気持ちいいんですけど、こういうテンポの遅い曲で、じっとり汗をかいて、気づいたら汗びっしょりっていう感じもすごくいいですよ。それも音楽なんです。歌を聴くのが好きな人は、歌がない音楽を聴くことも絶対に理解できるはずなので、それをこのサカナLOCKS!の授業で伝えていけたら良いなって思います。」
ということで、今回の授業はそろそろ終了です。
「今夜の放送はちょっと難しかったかな?でも、先生はこういうことをチャレンジしていきたいんですよ。音楽の仕組みっていうものを、皆さんと共有していきながら、皆さんが普段聴かない曲を聞いてもらって、「あれ、いつもと聞き方が変わってる!」って思ってもらえたら、この授業の成果が出ているんじゃないかと思います。そして、僕らはこんな音楽を聞いて、アルバムのレコーディングへと向かって行きました。特に今回のアルバムで意識したのは、"グルーヴ"です。みなさん、「4ツ打ち」って言葉は知っていると思うけど、その4ツ打ちのリズムをただ並べるだけじゃなくて、それに対してギターとか、ドラムのハイハットとか、ベースが、どう絡むとどういうグルーヴが生まれるのか?そんな事を先生たちは考えて、研究してアルバムを作っていますので、楽しみにしてもらいたいと思います。」
M Maniac / Moullinex & Peaches
M Smells Like Teen Spirit / Robert Glasper
M Not That Kind Of Girl / Miguel Campbell