今回の授業は、宿題『 目指せ音楽ライター! サカナクション「アルクアラウンド」のレビューを提出せよ 』に届いた、生徒皆さんの宿題を紹介していきます。
山口「音楽ライター。ミュージシャンにとって音楽ライターとはどんな存在かというと、色んなケースがありますが、普通は、自分たちが作った歌を批評してもらう立場の人です。ただ、その批評というのは、ライターの趣味、趣向も入ってきます。「日本の音楽とは何か」「その人たちはどういう目的でその音楽を作っているのか」を理解した上で書いてくれる本格的な音楽ライターもいれば、ファッション紙や他のカルチャー誌の中の音楽ページの中で、少し文章を書くライターもいます。フリーライターにそういう人が多いんですけどね。そういういろんな人たちがいる中で、今回募集した宿題内容は、他のカルチャー誌に音楽を紹介する立場でのライターが書くレビューです。僕にとっての『 MUSICA 』の鹿野(淳)さんだったり、フリーライターの小野島大さんとかではなく、ファッション誌など他のカルチャー誌の中で、少し音楽について書いてくれている人になってもらおうというのが今回の趣旨でした。」
ということで、今回は架空の釣り雑誌『 月刊 ナイトフィッシング 』の中にある音楽ページに掲載されるという形でレビューを募集しました。生徒の皆さんは、『 月刊ナイトフィッシング 』に寄稿している音楽フリーライターという設定です。
「『 月刊 ナイトフィッシング 』は釣り好きの人が読む雑誌ですから、釣りのこともよく分かっていないとダメなんですよ。『 月刊 ナイトフィッシング 』に書いているわけですから、その人自身も釣りに興味が無いと失礼でしょ? だから、釣りのことも分かっているという部分がニュアンスとして入っていないと今回は採用されないんですね〜。」
それでは、皆さんから提出された宿題を見て行きましょう。
夜釣りのおともにどうぞ!
サカナクション「アルクアラウンド」
この曲は、人気バンドサカナクションが2010年に発売した曲です。この曲はとてもリズムがよく、釣りをしながらぼーっと聴いていても、気づけば体を揺らしてしまうような曲です。夜にぴったりの曲で、夜釣りをしながら聴くのにおすすめですよ。この曲のMVも、「歩き続ける」を強調させるため、ノーカットで歩きながら撮られています。ちなみに、サカナクションのボーカル 山口一郎さんは、大の釣り好きなんですよ。
女/11/徳島
「ふふふ(笑)。すごく語りかけてますね〜。11才の女の子ですよ。"夜釣りのおともにどうぞ!"っていう言い方は、ご年配の方も「お、なんだ? サカナクションっていう音楽をやっているやつがいるのかー……お母さん、お茶!」って感じがして(笑)、いいですね〜。優しくて良い。でも、音楽にそんなに興味が無い人からすれば、「MVってなんだ? 音楽の映像か。」という感じになるかもしれないですね。」
★山口先生の評価は……70点!
続いて……
まさに本誌『 月刊 ナイトフィッシング 』にふさわしいと言える人気バンドがいます。その名もサカナクション。実際に、ボーカルの山口一郎は釣り好きとしても知られています。今回は、そんな彼らの代表作「アルクアラウンド」について紹介します。
この曲は、サカナクションの2ndシングルとして2010年1月に発売され、オリコンのウィークリーランキングで初登場3位を獲得しました。かねてからクラブミュージックとロックを融合させたサウンドでアンダーグラウンドを中心に人気を集めていた彼らが、YMOを彷彿させるテクノポップのような曲調で世間へ向けてアプローチした曲です。
タイトルは"歩く+around"、"a look around"という意味が込められており、東京という地で、これから音楽で生きていくという覚悟が歌われています。また、ワンカットで撮影され、遠近法等で歌詞の文字をうまく配置したMVも話題となり、数々の賞を受賞し、YouTubeの再生回数は1000万回を突破しています。
独特なサウンドと文学的な歌詞でたくさんの人気曲がありますが、まずは初期の代表作とも言えるこの曲を是非聴いてみてはどうでしょうか。
男/18/大阪
「おぉ〜、雑誌イチ推し! って感じにしたんですね。これは、1コーナーじゃなく、1ページのボリュームだね。完璧じゃん!完璧ですよ。"オリコンのウィークリーランキングで初登場3位" の部分、こういう分かりやすい情報は大事ですよ。そして、釣り好きの人はアンダーグラウンドっていう言葉をよく使うからね。釣りの世界にもアンダーグラウンドって言葉があるから。「それ、アンダーグラウンドなルアーだね〜。」って使ったりするし、多分分かると思う。"YMOを彷彿させるテクノポップ" っていうのも、YMO世代の人たちには、釣り好きが多いから良いね。YMOの高橋幸宏さんは釣り大好きですからね。しかも、フライフィッシングが好きなんですよ。白身魚のフライアウェイでしょ?だからちょっと……分かっているかもしれない(笑)。そして、釣り好きな人は、"ワンカットで撮影され、遠近法等で歌詞の文字をうまく配置した" みたいな理屈っぽいことも好きだから(笑)。「朝まずめ(夜明け前)のこの時間帯に、トップ(トップウォーターというルアーの種類)で釣ることはすごく重要で、流れ込みのところが大事だ!」とか、「シャロー(水深が浅いところ)を攻めるべし!」とか、そういうところもしっかり読むタイプの人たちが多いからバッチリですよ。"YouTubeの再生回数は1000万回を突破" っていう部分も、自分のことだけど、ちょっとすごいなって思いましたもんね。1000万回も見られているんだね〜……すごいね。でも、これはちょっとしたページではないね。それに、釣りの部分に触れているのは頭の部分だけだね(笑)。……だけど、素晴らしい!」
★山口先生の評価は……85点!
こんなことは、ありませんか?仕事であまり成果が出ず、上司とうまく行かず、ずっとイライラしています。そこで気分転換に釣りを週末にする。餌を買って、自前の釣り竿を持って、バケツを持って。よし、大物を釣ってやろうと意気込むが、全く成果無し。隣のオジサンは結構良い物を釣って見せびらかして帰る。そんな時に帰り道にサカナクションの「アルクアラウンド」を聴いて嘆く。日々の失敗、不満、孤独、虚しさを忠実に嘆き悲しんで、歌ってくれる。反省する時にも過去の失敗を思い出して明日に備える。新たな一歩を踏み出し、ひたすら歩き続ける。
男/19/愛知
「ほぉ〜(笑)。結構暗い曲だって思うかもね。「サカナクションの「アルクアラウンド」って曲は、なんや、釣りして、釣れなかったときに反省する曲か……お母さん、お茶!」みたいな(笑)。でも、釣り好きな人の心を音楽に結びつけようとしているところは素晴らしいね。19才でこんなことがかけるのは素晴らしいよ。釣れなくて嘆くのと、「アルクアラウンド」のサビの歌詞をかけて、人生に置き換えているっていうことですね。」
★山口先生の評価は……75点!
回遊魚であるメジマグロの成長を歌ったような曲。止まることなく前に歩き続ける、泳ぎ続けるための応援歌。聴き終えたら夜の海岸を歩きたくなるかもしれない。
女/36/石川
「お、36才の方からですね。うわ〜……大人! 大人だね〜。この文章、良いところがいろいろありますよ。まず、文字数。これはサラッと使いやすいね。「うちはあくまでも釣り雑誌だし、音楽ページでそんなに文章いっぱい載せられないから!」って編集長に言われたりすると思うんですよ。それも分かってる。"回遊魚であるメジマグロ" って、メジマグロは出世魚ですからね!そういうことも歌っているわけですよ。サカナクションって、"サカナ"がバンド名に入っているから、釣り好きの人は、何だよって反応するんですよ。だから、そんなに釣り、釣り、釣り、って感じにせずに、こんなにあっさりしていても良いかもしれない。これは素晴らしいね。」
★山口先生の評価は……85点!
ということで、今回の授業も終わりの時間になりました。
「今回紹介できなかった文章もたくさんありますけど、みんなすごいね。普段からみんな音楽雑誌をはじめ、雑誌を読んでいるっていうことですね。これはライターの人たちもこういう文章を見るとドキドキするんじゃないですかね? 今度は音楽ライターの方を実際に呼んで、いろんな意見を聞いてみたいですね。僕が批評するのはミュージシャン目線ですから。これを、本職のライターの人たちに意見を聞く方が、書いてきてくれた人たちも嬉しいと思うのでね。次はもうちょっと音楽に特化した部分でレビューを募集して、実際に音楽ライターの人を臨時講師的な感じで呼んで、本格的にやれたらいいなと思います。来てもらうとしたらあの人しかいないかな……。鹿野さん!『 MUSICA 』の鹿野さん!!来ていただけないでしょうか。それか、『 ROCKIN'ON JAPAN 』の山崎さん。おふたりで来ていただけたりすると、歴史的な回になりますよね。生徒諸君のレビューを批評してもらいたいと思います。……これ、非公式なオファーなんで(笑)。生徒諸君、Twitter等で事を荒立てないように!(笑) 事を荒立てては、ならぬぞ……。」