相談『ミュージシャンになるために上京すべきですか?』

SCHOOL OF LOCK!


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聴取期限 2021年3月12日(金)PM 10:00まで




山口「はい、授業を始めますから席についてください。Twitterを開いている人はTwitterを閉じなさい。Instagramを開いている人は、 サカナLOCKS!のインスタアカウント(@sakanalocks_official)をフォローしなさい。授業が始まりますよ。サカナLOCKS!は今回もリモートでお送りしております。山口家は窓全開で花粉もいっぱい入ってきております。ですが、(山口先生は花粉症ではないので)全然大丈夫です!(笑)」

今回は、生徒から届いた相談に一郎先生が答えていきます。新しい生活が始まる季節、上京について悩んでいる生徒からの書き込みです。


北海道から上京した時、どのような気持ちでした?

ドキコ
女性/19歳/宮城県


山口「先生が上京したのは30歳手前とかだったから、ある程度社会人経験というか……就職したことはないけど、ある程度大人の中で動き回った時に上京したので、ドキコが19歳で上京したいと思っているのと気持ちは違うのかもしれないけど……でもね、それでもやっぱり不安でしたけどね。ただ、だめだったら帰ってくればいいやっていう気持ちだったかな。あと、音楽で自分が生きていけるかどうかのラストチャンスというか……そういう気持ちもあったかな。それでは、直接お話ししていきましょう。」

山口「こんばんは。初めまして、サカナクションの山口です。」

ドキコ「こんばんは、ドキコです。」

山口「19歳っていうことは今大学生?授業はどんな感じ?学校行けてるの?」

ドキコ「はい、大学生です。今は、週に2〜3回、1コマしか(対面の授業は)行けていなくて、それ以外は全部オンライン授業でした。」

山口「じゃあ、ほぼオンラインなんだ。大学の中で新しい友達ができたりとかはまだ?これから?」

ドキコ「その、週に1回の授業でやっと親しい友達が1人できたくらいです。」

山口「じゃあまだ普通の大学生のような学生生活は送れていないってことなんだ。」

ドキコ「はい。」

山口「学校ではどんな勉強をしているんですか?」

ドキコ「学校では、マーケティングやICTについて勉強しています。」

山口「おー。通信技術のことを学んでいるってことか、マーケティングで。」

ドキコ「はい、そうです。」

山口「上京した時の気持ちを知りたいっていうことなんだけど、今宮城なの?」
ドキコ「はい、今宮城にいて、その質問をしたのは、私もミュージシャンになりたいので、一郎先生もミュージシャンになるために上京した時……未来の自分に重ね合わせて質問しました。」

山口「ミュージシャンになりたいんだ。バンドをやっているの?」

ドキコ「はい、バンドを組んでいます。」

山口「どういうメンバー編成なの?」

ドキコ「年上の違う大学の人と、ボーカルとベースとドラムの3ピースです。」

山口「ドキコはパートはどこをやっているの?」

ドキコ「私はドラムをやっています。」

山口「お、ドラムをやっているんだ。その、将来ミュージシャンになりたいっていうのは、バンドのメンバーで話をしているわけ?」

ドキコ「そうですね。私が最初にミュージシャンになりたいって言い出して、そしたら、なれるものならなりたいから、大学4年間でがんばれることはしようっていう話になって、この前ミュージックビデオも完成して。いろいろ頑張っています。」

山口「お、じゃあ、結構メンバー一丸となって、大学4年間はプロのミュージシャンになるために努力しようって頑張っている最中なんだ。」

ドキコ「はい。」

山口「じゃあ、将来ミュージシャンとして活動するためとか、ミュージシャンになるために努力していく中で、いつか上京することになるかもしれないなって思っているってこと?」

ドキコ「はい、そうです。」

山口「ほー。ドキコ自身は、音楽をやるためには上京したほうがいいって考えているの?」

ドキコ「やっぱりそうなのかなーって考えていました。レコーディングとか、事務所とかにも入るとしたら東京にたくさん行かなくてはならないから、上京した方がいいのかなって思ったからです。」

山口「そうか。ちなみにさ、バンドでやっている音楽っていうのはどういうジャンルというか、どういう音楽なのかな?」

ドキコ「オルタナティブロックとかなんですかね……よく分かんないんですけど。」

山口「いいじゃん、いいじゃん。今、ライブとかはコロナで出来ないと思うんだけど、今までそのバンドでライブはしたことある?」

ドキコ「はい、1回やったことがあります。それは大学の定期演奏会に出させてもらって。でもやっぱりコロナが流行っているので、お客さんは来れなくて、部員だけで見る感じでした。」

山口「じゃあ、大学のサークルのメンバーでバンドをやっているって感じなんだ?」

ドキコ「はい。」

山口「同じようにプロを目指している先輩とか仲間とかはいるわけ?大学に。」

ドキコ「いないですね。」

山口「じゃあ、プロになるためにはどうしたらいいんだろうっていうことを話したり相談したり出来る人は周りにいないってことか。」

ドキコ「はい。」

山口「なるほどね。」

山口「先生たちがドキコくらいの年齢の時に、先生たちが感じていたミュージシャンっていうのは、『ミュージックステーション』に出て、オリコンランキング何位で、大きいキャパシティのコンサートをして、街を歩く時もサングラスをかけたりして変装して歩かなきゃだめとか、女優さんとスキャンダルとか(笑)。わかんないけど(笑)。そういうポジションにいる人をミュージシャンっていう風に感じていたんだけど、ドキコが今思い描いている、自分が思うミュージシャンってどんな人たちのことをいうの?」

ドキコ「うーん……ミュージックステーションに出たり、SCHOOL OF LOCK!に出たり、あとは、大きなライブハウスで演奏する人ですかね……」

山口「あー、じゃあ、大衆的に自分の音楽を聴いてもらいたいっていう気持ちが強いんだ。」

ドキコ「はい。」

山口「なるほどね。今の時代って、いろんなミュージシャンがいると思うんですよ。分かっていることかもしれないけど、改めて説明すると、CDを出すっていうのはレーベルからリリースするんだけど、マネージメントっていって、ミュージシャンと契約するのは事務所なのよ。例えば、ドキコが知っているので言ったら……ジャニーズとか、アミューズとか、音楽じゃないけど、吉本興行とか。そういうのをマネジメントっていって。ソニーとかビクターとかユニバーサルとか、そういうのはレーベルっていうんだよね。そこは別々なの。
サカナクションの場合は、HIP LAND MUSICっていうマネジメントに所属していて、CDを出すのは、ビクターっていうレーベルから出している。今って、事務所と契約しないでレーベルとだけ契約を結んでリリースする人もいっぱいいるんだよね。あと、事務所と契約しているけど、メジャーレーベルからは出さずに、事務所のレーベルからインディーズで配信したりする人もいるわけ。あと、レーベルも事務所もどっちも契約しないで全部自分でやっている人たちもいるんだよね。
僕らの時代は、メジャーとインディーズって2極化していたんだけど、今はメジャーもインディーズもあんまり関係なくなってきているんだよね。それは、CDが売れなくなってきて、サブスクリプションっていって、配信だったりストリーミングで音楽を聴いてもらうっていう時代がきたから、例えば、ドキコのバンドがすごく良い曲ができたって思ったら、レーベルを介したりマネジメントと契約をしなくても、自分で配信に出せちゃったりするの。それを世界中の人が聴いてめちゃくちゃ良い曲だねってなれば、それが直接自分の収入になったりする。そうやって、人を介さない形でやっている人もたくさんいるのね。
でもそれって、ドキコが言う、ミュージックステーションに出たりとか、SCHOOL OF LOCK!で講師をやったりとか、大きい会場……東京ドームでコンサートをやるとか、そういったミュージシャンとはちょっと違う種類のミュージシャンというか……結構細分化されていると思うんだよね。」

ドキコ「へー……」

山口「やっぱり今、大手のレーベルとかマネジメントと契約するのってすごく難しくなっていると思うんだよね。よっぽどないと契約っていうのがないんだよね。なんでかっていうと、マネジメントがドキコのバンドと契約したいっていう時に、契約料っていうのをまず払うんだよ。それが年間1000万円投資するので、うちと契約を結んで他とは契約を結ばないでって、ドキコと契約するよってなると、1000万円をメンバー3人で12ヶ月分割ったのを給料としてもらうようになるわけ。それが月々のお給料になるんだよね。で、CDを出してその売り上げの著作権印税とアーティスト印税がドキコの元に入ってくるわけ。CDの著作権印税って3%で、アーティスト印税も、人によるけど、最初は5%くらいだと思う。だから、例えば2500円の8%がドキコの収入になるってことなんだよね。
だけどそれが、自分でCDを作ったり配信して、どことも契約をしていなかったら、給料は入ってこないけど全部が自分のお金になるわけじゃん。その代わり、レコーディングにかかる費用とかは自分で出さなきゃいけないけど。そうすると、大手と契約を結んだら100万枚売らないと入ってこない収入が、例えば、5万枚売れたら自分のところに入ってきたりするわけよ。
だから、自分が思い描いているミュージシャン像があって、それになりたいって思うことが強いのか、それとも、音楽をたくさんの人に聴いてもらいたいとか、自分の作った音楽を好きっていう人がどれくらいいるのか確かめたいっていう気持ち……どっちが先なのかっていうのが結構重要かなって気がするかな。」

ドキコ「あー……」

山口「うん。だから、上京するってすごく大変なことだと思うの。例えば、家族の意見もあるだろうし、メンバーの気持ちもあるだろうし、メンバーの家族だったり恋人のこともあるだろうし。すごくハードなことだと思うのね。だからやっぱり、自分たちがなんで音楽をやりたいのか……それを、自分の中で整理するともう少しどうしたらいいのかが見えてくるんじゃないかなって気はするかな。」

ドキコ「あー……分かりました。」

山口「ごめんね、わーって話して。」

ドキコ「いや、全然!勉強になりました。」

山口「おじさんってよくしゃべるから(笑)。」

ドキコ「ふふふ(笑)」

山口「せっかくこんな風に話しているから、何か聞きたいこととかがあったら、遠慮なく。なんでも答えるよ。滅多にない機会だから。」

ドキコ「えっと……ミュージシャンになるために、どのような戦略で今まで頑張ってきたか教えていただきたいです。」

山口「あのね、先生たちは本当に……東京に来てから戦略を知ったの。音楽のマーケティングを。プロモーションとは何なのかとか、ドラマがここから始まるからリリースをここにしているんだとか、あのラジオ局のパワープレイをするとこういう伸び方をするんだとか、そういうのを知ったのは東京に出てきてからだったの。それまではもう自分が作った曲がどういう風に売られるかなんて関係ないみたいな……。で、SNSが大事だなとか、YouTubeにミュージックビデオをアップするのとかもそこからだったんだけど。あと、フェスが出てきたりとか……その中で、どのタイミングでリリースするとかを勉強していったんだよね。」

ドキコ「へー……!」

山口「そういう意味では、僕らは東京に出てきたことが良かったっていうケースのミュージシャンだと思う。要するに、何も分からないまま周りがプロモーションして、わーって売り出して、アニメのタイアップとかそういうのを持ち出してデビューして売れても、結局地力がないから、ブームとともに……同じ曲しか作れなかったり、同じ雰囲気のものしか作れなかったり、人間力みたいなものがなかなかないから続かなかったりするのよ。
だから、早くデビューすることがいいわけでもないし、僕はさっきドキコに言った、自分たちでなんとかしていこうっていう地力がないとデビューしてから長くやれないんだよね。だからすごく難しいなって……本当に僕らはラッキーなミュージシャンだな、人に恵まれているなって思っているね。」

山口「他にも何かある?何でも良いよ。」

ドキコ「よく、TwitterのDMでライブハウスからノルマ有りのライブのお誘いがくるんですけど、何でもかんでも出演するのはまた違うのかなって思っていて……どのくらいの頻度で、どのようなライブに出れば良いんだろうって悩んでいます。」

山口「なんかね、最初はいろんなライブハウスで、いろんなところでライブしてもいいかなって思う。バンドによって合う箱と合わない箱ってあるのよ。なんていうの……お客さんのテンションとか、そういうのじゃなくて。例えば、従業員の雰囲気とか、音の鳴り。自分たちの演奏がすごくしっくりくるなとかってあるんだよね。あと、PAの人とか照明の人の上手い下手もあるしさ。
だから、いろんなところでライブをやってみて、この箱好きだなっていうところがあったら、そこでやっていくっていうのも大事。あとね、対バンってすっごく大事なのよ。自分が良いっていう音楽を見つけていくっていうのでも、対バンってすごく大事だったりする。」

ドキコ「へー……」

山口「あとね、ライブをすることで大事なことって、ライブに向けて練習することなんだよね。ライブが多すぎるとセットリストを変えられないとか、新曲を作る暇がないとか……ライブに向けて、こんなセットリストにしよう、こんな曲順にしよう、ここはまだ甘いからもっと練習しようとか、曲の間奏はこのくらいにしよう、MCでこんなこと話そうって、そういう物語を作ってライブをしました……そこで反省会をして、次のライブに向けてどういう新曲が必要なのかなとか、どんなことをやろうかなとか、Twitterにコメントをくれた人がこんなにいるからこの人たちは新しい曲を求めているんだなとか、あの曲をやってほしいって思っているんだなとか、そういうリサーチをしたりして、さらにアップデートする時間があってライブをするっていうタームが一番良いなって思う。
けど、とにかく今はライブをして経験を積むっていう時も必要だったりするんだよね。ライブをするとモチベーションは上がるじゃん。けど、お金もかかるじゃん。だから、切迫するのはだめだから……いろんな良い方法を探す必要はあるけどね。」

ドキコ「そうですね。」

山口「だから、いっぱいライブをやる時期、アップデートする時期っていうのを持っていた方がいいと思う。でも、メンバー全員がそういうテンションになるかどうかは分からない。だから、ドキコがバンマスになるのかな?」

ドキコ「いや、バンマスはボーカルですね。」

山口「なんか、バンマスのふりをさせておいて(笑)、ドキコがいろいろコントロールをするのは良いと思うよ。」

ドキコ「ふふふ(笑)。」

山口「うちのバンマスは僕だけど、裏バンマスはベースの(草刈)愛美ちゃんだから。」

ドキコ「へー、そうなんですね。」

山口「そうそう。そういうバンドのバランスみたいなものを俯瞰で見れる人が一人いるとすごくよかったりすると思うよ。」

ドキコ「はい、ありがとうございます。」

山口「……大丈夫かな?」

ドキコ「はい。」

山口「じゃあ、いろいろ……仕事っぽくならないように。自分の今の人生の中でバンドで得た思い出とかさ、そういうのって例えばバンドを諦めたとしても、バンドでうまくいったとしても絶対に自分にとって良い経験になるはずだから。中途半端じゃなければね。だから、楽しんでください。」

ドキコ「はい、ありがとうございます。」

山口「じゃあ、ありがとね。」

ドキコ「ありがとうございました。勉強になりました。」

山口「バンド頑張ってください。僕も頑張ります。さよなら。」

ドキコ「応援しています。さよなら。」


今回の授業も終了の時間になりました。

山口「ドキコからすれば、本当に真剣に考えていることですし、僕が中途半端に話せないなって思って、ちょっと真剣に……当たり前のことですけど、真剣に質問に答えさせていただきました。でもね、そういう風に悩んでいる人もたくさんいると思うんだけど、最初にドキコに言った通りで、今の時代で先生たちとはちょっと違うから分からないところもあるんだけど……自分たちで何でも出来ちゃう時代だと思うんですよ。そこで膨らんでくると注目も浴びるし、そうするとミュージシャンとしての道も勝手に開いていくと思うんですよね。だから、恐れず、自分が今表現できることを今の時代に合った形で発表していくと、自ずと道は開けていくと思います。」


引き続き、サカナLOCKS!では、山口先生に相談したいこと、聞いてみたいこと、話したいことなどお待ちしています。 [サカナLOCKS! 掲示板]への書き込み、もしくは他の生徒に見られたくない生徒は[メール] で送ってください。お待ちしています!


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