『生徒が山口一郎にインタビュー "人生に音楽は必要なのか?"(後編)』
2018.08.30
サカナクション
今回の授業は、卒業研究で『人生に音楽は必要なのか?』という、ものすごく大きなテーマを研究することにしたという、東京都 15歳 びー子に電話をつないで、山口一郎先生が直接インタビューを受けて、卒業研究に協力したいと思います。前回のつづきです。
前回の授業の様子は → [2018年8月23日の授業]
山口「もしもし!」
びー子「はい、もしもし。」
山口「びー子、先週はどう?ためになった?」
びー子「はい!ためになりました。」
山口「卒業研究にいかせそう?」
びー子「それは、すごい……生かせそう。」
山口「じゃあよかった(笑)。結果とか教えてくれよ、どうだったかとか。反応とか。」
びー子「はい!本当に、こんなにちゃんとやってくれて…‥すごい嬉しいです。」
山口「先週に引き続き、真面目に、真剣に答えていくからな、先生。」
びー子「はい、わかりました。」
山口「じゃあ、どうぞ。」
びー子「音楽を嫌いっていう人を全然周りで聞いたことがなくて、もし音楽が嫌いとか必要ないって思っている人がいたとしたら、どういった理由で嫌いなのかなって。」
山口「あー……そうねー……」
びー子「っていうか、いるんですかね?」
山口「いるでしょ。嫌いっていうか、聴かないっていう人はいっぱいいると思うよ。でもね、僕も音楽嫌いっちゃあ嫌いだよ(笑)。」
びー子「んー?(笑)」
山口「それは、自分が(音楽を)作っているからだけど。なんていうのかな……先生ちょうど今レコーディング中だから、自分と向き合って、どうしたらいい音楽が作れるかなって必死に考えているのね。だから、他の人の曲を聴くと、どういう風に作られたんだろうって思って聴いちゃうわけよ。」
びー子「へー……!」
山口「だから、全然適当だなっていうのもわかるし、その……本音じゃなくて、みんなが求めていることをただ言うっていう風にしているんだな……とか……体の良いことを言うって感じ?……音楽を使って。そういうのを聴くと、しかもそれがものすごくヒットしているとか、みんなが大好きって言っているのを聞くと、もう音楽大嫌いって思っちゃうけど、自分が作るものに対しては大好きでいたいなって思うのね。総合的に言うと、音楽大好きなんだけど、大好きが故に、嫌いだな………嫌いになりそう……って思うときはあるよね。やっぱり仕事になったりとか、人生かけてやってると分かっちゃうから、いろいろ。」
びー子「あー……なんか、家族みたいな感じ?」
山口「そうそう。家族に近いね。」
山口「僕、音楽を好きになったのって結構遅くてさ。小学校4年生……6年生のときかな?そのくらいだったんだけど。最初、僕は本が好きだったのよ。で、こんなに感動する美しい言葉を作る人がいるんだと。こんな言葉を自分で書きたいなってずっと思ってたの。で、クラスの一人が、授業終わって10分休みに、いきなりジャニーズの歌を歌い始めたのよ、歌詞も見ず。『走れメロス』をあんなにつっかかって読んでいて、意味も全く分かっていなかったやつが、歌になった瞬間にアカペラですらすら言葉を歌ってるのね……僕ね、それを聴いたときに、自分が愛している素晴らしいと思う、みんなが理解できない言葉も、音楽にしたら理解してもらえるかもっていうところで音楽に興味を持ったのよ。」
びー子「へー……そうなんだ……!」
山口「そうすると、音楽の魔法だったり、魔力っていうかさ。仕組みだったり、作り方とか……素晴らしい言葉を素晴らしいメロディーに乗せている人とか、素晴らしすぎると売れないとか(苦笑)。……なんかいろんなことがわかってきて、どんどん音楽にのめり込んでいったんだけど。」
びー子「うん。」
山口「だから、音楽っていうものを嫌いっていう人は、知らないだけっていうこともあるだろうし、ただ単に好きだっていうだけがいいことでもないとも思うね。」
びー子「なるほど。」
山口「ちゃんと表現している人を見極める……聴きわけるっていう力が絶対必要なのよ。それはリテラシーっていうんだけど、メディアでもそうじゃん。なんかこう……ゴシップで変なことが……嘘みたいなことがぼんぼん流れて、みんな信じてありえないって言うけど、後で嘘でしたってわかったら、何そんなこと言っていたんだ、みたいに騒ぐわけじゃん。でも、それが本当のニュースなのかどうかって、確かめようとしないっていうかさ。自分の中で噛み砕かないじゃん。判断しないっていうか……」
びー子「あー、確かに……」
山口「だから、そういうメディアリテラシーもそうだし、ちゃんとした自分の中の判断力っていうものをつけるっていうことも、10代のうちでは大事なことだろうし、海外ではメディアリテラシーの授業があったりするのよ。」
びー子「へー……!」
山口「……まあ、いいか。そろそろ次!(笑)。」
びー子「はい。次の質問は、一郎先生が音楽に救われたことと、逆に苦しめられたことは何ですか?」
山口「音楽に救われたことは……多分僕、音楽をやっていなかったら……もう何も……していないと思う。」
びー子「え……」
山口「1回僕ね、就職をしようと思った時があったの。そのときに、社会の人と初めてちゃんと向き合って話したんだけど、明らかに自分と違う人種だなって思ったんだよね。人種っていうのは……なんていうか……生活基準が違うというか、生活の感覚が違うというかね。」
びー子「そういうのってどうやって分かるんですか?」
山口「なんだろう……感覚だけど、やっぱり、社会に出ていくには、感情を殺していかなきゃいけないじゃん。押し殺していかなきゃいけないっていうかさ……僕はね、それができない人だったんだよね。その時に初めてわかったけど。なんかこう……どうでもいい人に、「そうなんですか!素晴らしいですね!」って言ったりとか、人に合わせること……自分に嘘つくこととか。それができないタイプの人なんだなって。それができないと、たぶん社会に出ていけないんだろうなっていうのがその時、初めてわかったの。」
びー子「うん。」
山口「こういう自分が生きていくには、音楽やら何やらで自分を表現していかないと生きていけないんだなって思ったんだよね。自分には音楽しかなかったから。僕はこれで、音楽で生きていくしかないなって腹をくくったのがその時だったけど。」
びー子「はー。」
山口「だから、今音楽をやっていなかったら、自給自足とかで生きていたんじゃないかな(笑)、誰とも接することもなく。少なくとも東京には来ていないなと思う。」
びー子「えー……じゃあ、あってよかった……。」
山口「それゆえに苦しい時はいっぱいあったけどね。その……音楽を作るっていうことがライフワークっていうか……生活の一部だった時は、別にそれが人に届くなんてことを意識もしなかったし、自分の気持ちをただ吐き出して、それを人がどう受け取ろうが関係ないって思っていたけど、それを共感してもらわなきゃいけないって状況になっていくと、人に理解してもらうってところに美学が生まれてくるから。そこにはすごい苦しんだね。しかも、それで生活しなきゃいけないとかさ。チームのみんなもそれでご飯食べたりするわけだから。サカナクションは5人いて、女の子2人いたから……北海道から東京に連れてきちゃったからね。ある程度は成功しないといけないし、自分が納得するものを同時に作らなきゃいけないっていう……その時にすごい苦しかったけど。」
びー子「うーん……」
山口「あと、結果が出てからも苦しかった。紅白に出たんだよ、僕ら。そしたらもう、みんなが知ってるじゃん。急に街で声をかけられたりとか、親戚がざわついたり、全然連絡を取ってなかった同級生とかから連絡が来たりとか、周りからちやほやされたりするわけじゃん。すると、本来、自分が作りたかったものとは違うものを作らなきゃいけない時が来たりするのよ。売れなきゃいけないっていう宿命みたいなものを背負った時には……すごい苦しくて、「グッドバイ」っていう曲を作ってドロップアウトしたの、そこから。売れることからグッドバイしようっていう歌だから、あれは。」
びー子「へー……」
山口「それを決断するっていうこと……それに至るまではすごい苦しかった。だから、音楽を聴いているだけじゃなくて、自分で作って、それがたくさんの人に聴かれるようになったときの苦しみっていうのは特別だとは思うけどね……全然苦しまない人もいるし、逆にね。それが楽しいって思う……有名になりたいっていう風に思う人とかね。僕らはそうじゃなかったから苦しかったのかもしれないけど。」
びー子「うーん。」
山口「有名になりたいと思って、有名になっちゃった後にも、別の苦しみがあるのかもしれないけど……その人なりのね。音楽っていうものについてくる苦しみっていうのは、多分どの時代にもあったと思うよ。」
びー子「うん。」
山口「「今まで好きだったけど嫌いになりました」って言われたらね……知っていたけど忘れられても悲しいじゃん。そういう苦しみはあると思う。」
びー子「あー……確かに。あー……なるほど。」
山口「……どうやろ?参考になったでしょうか?」
びー子「はい!とてもなりました。」
山口「また何かあったら、いつでも。サカナLOCKS!は音楽のことを学ぶ生徒の味方だから。」
びー子「おー!」
山口「先生も楽しかったわ。」
びー子「え、本当ですか?」
山口「うん。15歳の音楽好きな子と話すチャンスなんてないから。」
びー子「すごい嬉しいです。」
山口「じゃあ、おやすみ。」
びー子「はい、おやすみなさい。ありがとうございました。」
山口「ばいばい。」
今回の授業も終了の時間になりました。
山口「びー子は本当に真面目だね。先生は、卒業論文みたいなことはやったことがないからどういったものかわからないけど、よく調べていたし、自分なりに考えて答えを出そうとしていたなっていうのが分かりました。先生が中学生の頃、そんな風に音楽のことを考えたりとかしなかったけど、そんな風に考えるくらい音楽が好きだっていうことはすごい嬉しいし、ミュージシャンとしてすごい責任を感じます。で、びー子がいつか親になるわけでしょう。で、親になって子供に音楽を聴かせるわけじゃん。子供が音楽を好きになって、一緒にライブに行ったりするのかもしれない。その時にも、自分たちの音楽が、びー子の子供たちが聴く音楽の中のひとつのDNAになっていたりするといいなって思いました。……まあ、頑張ります。ふふふ(笑)。」