今回の授業は、宿題『音楽の未来はテクノロジーでどう変わるか。140字以内で答えなさい。』に提出された、皆さんの回答をチェックしていきます。テクノロジーの進化によって音楽の作られ方や聴き方、ライブの演出などは、日々、変化しています。これからの音楽はどのように変わっていくのでしょうか。生徒の皆さんの回答を紹介しながら、いっしょに考えていきましょう。
山口「音楽の未来はテクノロジーでどう変わるか。先生たちの時代なんてな、パソコンで音楽を作るなんてなかったからね。カセットテープMTRっていって、カセットテープに自分たちの演奏を録音していた時代ですから……今じゃもうパソコンさえあれば簡単に音楽を作れる時代になっちゃいましたね。ヘッドホンやイヤホンの性能もどんどん上がっているね。だから、聴き方も変わっているし、ライブの演出も、昔の照明はLEDじゃなかったから熱くなるの。だから、ステージにいるプレイヤーはその熱い照明の中で演奏をしていたけど、LEDっていうものが生まれて、熱さがなくなったり電気が長持ちするようになって、演出がどんどん変わっていったというのもあります。」
「これからの音楽はテクノロジーによってどのように変化していくのか、これを、生徒の皆さんに140字以内にまとめて答えてもらいました。僕は、かつてのインタビューでこんなことを答えています──
"テクノロジーは感動の種類を増やすもの"
──これがどういうことかっていうと、例えばロボットが人間のようにしゃべったら「すごい」って思うけど「怖い」とも思ったりすると思うのね。すごいと怖いっていう感情が同時に起きることってそんなにないじゃないですか。だから、テクノロジーっていうのは「感動」と「感動」のミクスチャーです。今まで混ざり合わなかった感動や感情をミックスするツールになっていくんじゃないかなと……先生はそういう話をしました。音楽はテクノロジーで進化していったジャンルとも言えますよね。例えば、パソコンで音楽を作る時代になったっていうのもありますけど、80年代では急にシンセサイザーっていうものができて、電子音楽っていうものが飛躍的に進化しました。それによって、ポップスっていうものができたり、エレクトロニカ、テクノ、ダンス・ミュージックっていうものが進化していったんですね。なので、テクノロジーっていうものが音楽の進化に直接的に影響しているのは確実だと思います。」
「サカナクションは、NHKの『NEXT WORLD 私たちの未来』で、30年後の音楽をテーマにLIVEを披露したことがあります。Rhizomatiks Researchや、ANREALAGEの森永さんと共にその番組を作りました。あとね、この間のツアーは、8Kで撮影しましたし、過去には、8K☓3D☓22.2ch立体音響の『Aoi ─碧─ サカナクション』を展示したこともあります。8Kで3Dだから、もう目の前に僕がいるような感覚で映像が見られるんですね。行かれた方も何人かいたと思います。そういったものに関わってきた、テクノロジー音楽担当、山口一郎が生徒の宿題を見ていきたいと思う!」
機材がなくても、テレビで違和感なくライブそのものを楽しめる。(全てのライブと同じ音質、画質は4K以上で人間の目に近い画質で対応。) 建物や照明が機材の操作なしで、音楽だけでリアルタイムで連動して演出できる。そんな未来。(107字)
男性/20歳/岩手県
山口「ほー。つまり、LIVEが家でも体験できるようになる……そういう時代が来るってことだね。確かに、VRとかLIVEを疑似体験できるっていうのは出てきているよね。ただ、LIVEっていうものを、家にいる環境で楽しむためには、音の振動を体で感じられるようにならないとリアルさが出てこないのよね。視覚的にはある程度リアルさは出るけど、音圧っていうのを体で感じるっていうのは今まだ研究中かなー。ボディソニックっていう低音で振動するベストみたいなのがあって、低音で震えるスピーカーとかもあるんだけど、そういうのを着るとよりリアルに体験できるようになるかもしれない。でもやっぱりまだ本当のLIVEには届かないかな。ひょっとしたらそういう時代がくるかもしれない。4Kとハイレゾ、ありがとう。」
インターネットの発達で、集まらないバンドができると思います。世界中から能力(作曲・作詞・演奏能力など)の高い演奏者がネット上で協力して楽曲を作るバンドができるということです。能力が高い=万人受けするのだとは思いますが、より洗練された音楽になるのではないかと思います。(133字)
男性/17歳/愛知県
「なるほどね。僕は、テクノロジーの進化によって、ネット上……オンライン上で音楽が作曲されたりセッションされたりする時代はもう来ていると思う。それは実現可能だと思う。だけど難しいのが、オンラインでセッションするのと、実際にその場で楽器を触ってセッションするのはちょっと違うんだよね。それはプレイヤーだと分かると思うんだけど。FaceTimeで(映像で相手の顔を見ながら)話をするのと、実際に会って話をするのって違うじゃん。だから、感情の伝わり方が、オンライン上だとまだあんまり伝えられないことが音楽の中にはあるんじゃないかと思うし、オンライン上っていうのは、ポップスを作るっていう万人受けするものを作るっていうよりも、もっとマイノリティで、美しいけど難しいものを作ろうとする人が集う場所になっていくような気はしますね。だから、自分たちだけで楽しむものであったり、一部の人に向けて提供したいと思うものがオンライン上で作られていって、それが最終的にマジョリティになっていくっていう時代は来るかもしれない。だからこれは、テクノロジーの進化でオンライン上でセッションできる時代は来るかもしれない……もう来ているけど、それがよりリアルになっていく未来はあるかもしれないね。これが出来るようになったら面白いと思う。言語も自由になると思うしね。AIが勝手に通訳してくれる時代は来ると思うし。ドラえもんでいう「ほんやくコンニャク」だよ。それも生まれると思うぞ…•っていうか、もう生まれているんだよね。」
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デジタルの進化は音楽にとっていい影響もあると思いますが悪い影響を与える可能性もあると思います。今は音楽の違法なアプリなどが出回っているようで、今の時代でもデジタルの進化によって悪影響を受けていると考えられます。でも私はもっとデジタルが進化し音楽がより身近になってほしいと思います。(140字)
女性/17歳/埼玉県
「確かに、一時期、音楽の違法ダウンロードみたいなものが盛んにあって、YouTubeにアップされるのも問題だってなっていましたけど、実は今はそれは仕方ないよねっていう風潮が音楽業界の中にありますよね。だから、ストリーミングサービスやサブスクリプションが出てきて、定額で支払っていれば好きなだけ音楽が聴けるっていう状況になって、違法アプリっていうものの先進性も失われてきているし、音楽の価値っていうのが「CDを手に入れて」、「ダウンロードして」聴くっていうよりは、音楽を「借りながら」聴くっていう…•クラウドで聴くっていうことが主流になってきているので、形が変わってきているかなとは思う。でも、先生がちょっと思うのは……音楽や作られた音源は無料でいいと思う、音だけは。音だけで聴きたい人は無料で聴けるようになる時代が来るんじゃないかなと。みんな水を家で大量に飲むだろう?料理をするときやお茶碗を洗うとき、洗濯をする時は自然に水を使っているよね。それと同じように、みんなも自然と音楽を使う時代が来るんじゃないかなと思います。それが公共料金としての水道代であったり電気代であったり、自分が使った分を定期的に支払ってはいるんだけど、自分がどれだけ使ったかは分からないっていう……月にこれくらい払っているっていうのが自然に組み込まれるようになるんじゃないかと思います。マンションとかも、スピーカーが埋め込まれる部屋が当たり前になると思うんですね。みんなは知らないと思うけど、先生たちの時代にはバブル(景気)の時代があって、バブル時代に作られたマンションには、有線が付いていたんですよ。有線って知っているか?ラーメン屋とかに行ったらJ-POPとかがひたすら流れているお店があるだろ、あれは有線の契約をしているんですけど。家で有線を聴けるっていうのがバブルの一つのステータスだったんですよ。なので、みんなは部屋を決めるときに条件をいろいろ指定するときが来ると思うんだけど、オートロックがいいとか、そういうオプションのひとつにサウンド環境が付いている部屋が出てくる気がするね。自分の聴きたい音楽がそこから聴けるって時代が来たら、より公共料金化していくと思うし、音楽自体に対して、1曲単位に対して、リスナーが支払っていくっていう時代は、多分ここ10年以内に終わるんじゃないかなと思う。だから、音楽っていうものをどう物質化していくか……そこが、次のミュージシャンやレーベルが生き残っていく…•この日本にあるCDっていう産業を残していくには、物質としての価値をどう高めていくかっていうのが次の舵取りになっているんじゃないかなと思いますね。」
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これからのデジタルの発達は音楽に2つの形となって登場すると思います!1つ目は、現在もう出てきて人気となっているボーカロイドという形です
デジタルの音声が曲を歌うということは何年か前では考えらませんでした
これからはさらに音声が発達し、デジタル独特の世界ができると思います
2つ目は、一郎先生と同じく、デジタルの発達で、よりアナログに近づける
最終的にはアナログと99%等しいような技術ができると思います。(195字)
女性/15歳/北海道
「なるほどね。ボーカロイドっていう考え方は、ある種ひとつのジャンルとして確立していくんじゃないかなとは思う。要するに、ボーカリストを探してくるんじゃなくて、自分の好きな声質をリアルに作っていく。わざとピッチを外してみたり、癖をつけてみたりとか……そこも技術で工夫できるような時代が来ると、ボーカルがいないバンドとかが出てくるんじゃないかなと思うが、結局、僕はひとつのジャンルでしかないのかなと。そういうジャンルっていう位置付けになるんじゃないかなーとは思いますけどね。あとは、ひょっとしたらメーカーがそういったロボットを開発する会社になるかもしれないしね。」
「で、ふたつ目に言っていた、"デジタルの発達で、よりアナログに近づける"、"アナログと99%等しいような技術ができると思う"って言っているところは、賛成というか……先生もそう思う。例えば、レコードっていうものは物質が鳴っている音だけど、デジタルに変換することで失われているものは何なのかとか、そこで感じている生身のものを、デジタルでどのくらい再現できるかっていうのが、多分リアルになってくるし、逆に、デジタルの劣化している音がかっこいいよねっていう世代が出てくるかもしれない。今、カセットテープでわざと音楽を聴く人が出てきたり、ラジカセで音楽を聴く人が出てきたり、アナログレコードで敢えて音楽を聴きますっていう人が出てきています。これは、一昔前の音楽のツールだった。そのあとデジタルが出てきて、CDって音が良いよねってなって、CDが主流になって、配信になって、今度はまたアナログっていうものが見直されているように、「劣化したデジタルのシャキシャキした感じが、ナウくね?」みたいな……未来の10代とかが出てくる可能性があるなーって思いますね。」
「だから、何が正解かはわからないけど、1個だけ言えるのは、自分の好きな音が良い音だっていうことかなと思う。データ容量が多い、だから良い音……高いヘッドホンを買った、だから良い音……じゃなくて、自分の好きな音質だったり音を見つけていくっていうことも、好きな音楽を見つける、好きな歌を見つけることと同じように大事なことなんじゃないかなと先生は思っております。」
そろそろ今回の授業も終了の時間になりました。
「先生たちが今、生きているこの時代は、実は進化が激しい時代だと思うんですね。みんなは生まれたときからインターネットっていうものが存在していたわけですよね。でも、先生たちの世代っていうのは、オフラインだった時代があるんですよ。つまり、インターネットが存在しない中で音楽を探したり、カルチャーを探したり、人と出会ったり、人と話したりしていた時代があったんです。だから、携帯電話もなかったから……好きな子に電話するときは、家の電話にかけて、(誰が出るか分からない中で)お父さんが出たら切る……みたいな(笑)。そういうアナログだった時代があるんですね。それを唯一知っていて、今のテクノロジーが進化していてインターネットがあるオンラインの時代を知っている……それを跨いでいる世代なんです。ただ、それを跨いでいる世代が、インターネットやオンラインがある時代しか生きていない世代の人たちに伝えられることっていうのは多分たくさんあると思うんですね。感動の種類が違うから。先生は、それを音楽で伝えていきたいなと思っているし、それぞれのカルチャーにそういうことを伝えたいと思っている団塊の世代ジュニアたちがたくさんいるっていうことも知ってもらえたらなと思います。宿題を提出してくれた諸君、本当にありがとう!」
【 お知らせ 】来週のサカナLOCKS! は休講になります。
『2018 FIFA ワールドカップ 実況中継 日本 × ポーランド』の放送があるためSCHOOL OF LOCK! は短縮授業。サカナLOCKS! の授業は、お休みです。次回の授業は、7月5日(木)です。