今回の授業は、先週のサカナLOCKS!で発表になったサカナクション3作品連続リリースについて。このリリースの経緯、そしてサカナクションのこれからについて、一郎先生が詳しく話していきます。
★3作連続
サカナクションのベスト盤・私が観に行った幕張公演のLive Blu-ray・待望のニューアルバムのリリースが同時に発表されて、遂に来た…!という感慨でいっぱいです笑
もはや自分の生活に根付いているようなアーティストがアルバムを出すとなると、曲と一緒に自分が感じてきた感情もまとめて振り返ることが出来るようで、期待が高まります!お金貯めないと…
女性/19歳/宮城県
山口「そうなんです。3作連続でドン、ドン、ドンと出るわけですよ。」
改めて、今回発表された3作品は……
・サカナクション10周年の活動を総括する、バンド初のBEST ALBUM『魚図鑑』
・2017年9月30日 に幕張メッセで開催された、6.1チャンネル・サラウンドライブ『SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around』のLIVE Blu-ray、DVD
・前作『sakanaction』以来、約5年ぶりとなるニューアルバム
詳しい情報は[→コチラ] (サカナクションオフィシャルサイト)
山口「まずは初のベストアルバムなんですけど、ベストアルバムっていうよりは……最近サカナLOCKS!でも話をしましたけど、サブスクリプションって出始めていますよね。ストリーミングで月額でいくらか払うと好きな曲が聴けるっていう。(『ストリーミング配信サービスとは?』の授業はコチラ→[2018年1月18日の授業]」
これからはそれが主流になってくると思うんですけど、あれは「自分で好きな曲を選んでどんどん聴いていく」というやり方なんだけど、僕らはアルバムという単位でリリースをしているから、アルバム毎に聴いてもらうことに重心を置いているわけです。サブスクリプションってそれとは違うところにあると思っていて。だったら、自分たちで今まで出してきた曲を、こういう順番で聴いてもらうのはどうかなってキュレーションし直すことをやってもよいかなと思ったのと、(デビューから) 10年経って自分たちってこんな曲を出したんだっていうのを、自分がやってみたかったんですよね。」
「聴き直すと、シングルを意識していなかった時代だったり、多くて1000人くらいのキャパシティに対して作っている曲と、今みたいに何万人……テレビに出たりすると、何十万、何百万の人に対して作る曲の差異みたいなものを感じ取れたんですよ。それもやりたかったことのひとつの要因ですよ。」
「『魚図鑑』の図鑑の意味は、実は自分たちが作ってきた曲には階層があって……何ていうかな……釣り用語でいうと"棚"だよ。シャロー(浅瀬)にいる魚、中層を泳いでいる魚、深海魚……みたいな。その3つに曲を振り分けていったりするわけ。例えば(みんなが知っているような曲……)「新宝島」とかは、どちらかというと浅瀬を泳ぐ魚ですよ。みんなが知らない「ティーンエイジ」っていう曲とかは、どちらかというと深海を泳ぐ魚です。で、「三日月サンセット」とか初期の頃に作っていた曲は、中層を泳ぐ青魚に近いかな。止まると死ぬ……みたいな(笑)。それを図解にしてみたりしたいなって。」
「あと、CDって、みんなCDを買っても最初に取り込んであとは飾っておくっていう人たちもいるから、物としての価値の付加要素になっていて、いろいろ考え尽くされているとは思うんだけど、僕たちはちょっとそこに物としてのおもしろさをこれから出していこうかと思っているんです。いろいろ説明しすぎるとおもしろくなくなるから、今後いろんな情報が出るのを楽しみにしてほしいんだけど。デザイナーも、平林奈緒美さんっていう……THREEっていう化粧品って分かるかな。僕もハンドソープとかを使っているんだけど。そのデザインをやられていたり、皆さんが見たことあるものや本をデザインしている方が、今回、僕たちの装丁をやってくれているんですね。だからテイストとしてはアーティスティックなものになっていると思うし、物として欲しい、手に入れておきたいものになっていると思う。それもサカナクションとしての新しい提案になるかなと思う。このベスト盤以降、サカナクションとしてのイメージを統一化していこうかなと思っていて……ロゴもいくつもあるのよ。アーティスト写真も変わらずにあったり、WEBも見にくかったり……。ファンサイトとかも、日本人に即した、ロックバンドに即した新しい形にぐっとシフトしていこうかなと思っています。だからベスト盤を出して新しく踏み出していこうって……それがベスト盤を出すことの意味。」
「選曲もいろいろあったのよ。新しいアルバムを出すにあたって、シングルが6曲あるの。だから本当はこのベストアルバムにシングルを6曲入れちゃって、まっさらな気持ちでニューアルバムを作ろうと思ったんだけど、5年間で作ってきたシングルをなかったことにするのは自分的には無しだなと思って。そのシングルの中からベスト盤にはもちろん何曲か入れるんだけど、新しいアルバムには、そのシングルにプラスした新しい曲で構成して、その次のアルバムから、ファーストアルバムやセカンドアルバムを作るような気持ちでいけたらなと思っています。」
「ここで、サカナLOCKS!を使って、今後の自分たちの考えを発表させていただきたいんですが……もう、たくさん売れようとすることはやめる。もちろん売れたら嬉しいけど、積極的に人から受け入れられるものを作ろうとするのはやめようと思う。それよりも、自分が好きなものと、10年後や20年後に残るものをちゃんと作っていきたい。そこを考えるように制作していきたいなって改めて思いました。それは、今回ベスト盤『魚図鑑』を作るにあたって、自分の曲を聴き直していって、自分の中で外に向かっていく意識がなく作った曲たちの美しさみたいなものはずっと残るだろうと思ったし、僕らは最前線で……フェスで盛り上げなきゃとか、CDを売って会社を潤わせなきゃとか、関わっている人たちにちゃんと恩恵を与えなきゃっていうことを意識していたけど、もうそれはやったかなって思うんですよ。」
「ひとつ思い出したことがあるんです。これはメンバーとかスタッフとか覚えているか分からないんですけど、サカナクションの『sakanaction』を作ったときに、20万枚売るっていう目標を立てたんですね。20万枚売って、テレビも全部やるって言ったんですよ。やりたくないこともやるだけやって、売れたいって。1回売れてみたら、売れるものを作るのが嫌だとか、外に出ていくことが嫌だとか言ってもいいよねって。1回それができたら言っても許されるし、その良さも悪さもわかって、次の世代に伝承できるよねって。……その当時、話をしていたのを思い出したんです。でも僕らはそれを出してからシングルも続いていたし、これを維持しなきゃとか、さらにその上に行かなきゃっていう気負いがあってずっとやっていたんですね。でも……そもそもそうじゃないから僕ら。このサカナLOCKS!も、他にやっていることも全部含めて、みんなに音楽のおもしろさを伝えたいっていうところがベースにあるんです。本当のことを知ってもらいたいとか。そこにシフトしていくのが大事かなと改めて思っています。」
「次の新しいアルバムはシングルもいっぱい入っているし、新しく作っている曲もすごく地味だから、みんなが聴いた時にどう思うかはわからないけど、次に出るアルバムを愛してくれる人たちはきっと今後もずっと自分たちを応援してくれる人なんじゃないかと思う。キャパシティも、今は幕張とかアリーナでやれるけど、それを続けるのは大変なことだから、続けられるかはわからないけど……いいスタンスで、幸せに、みんなに音楽を届けていくっていうことをやれたらいいなって思う。長くね。」
「この間、NUMBER GIRLのラストライブの映像を見ていて、バンドの最後の曲……バンドの最後の瞬間をみていたわけ。それを見ていてすごく美しいなって思ったんだけど、自分らがもし解散するとして、解散ライブで最後の曲に何をやるかなって考えたときに、「まだ出来てないな」って思ったんですよ。それを作るまでは辞められないなと思ったし、今この時代に自分の立場でやれることってめちゃくちゃあるなって思うんですよね。」
「この3作連続リリースでひとつけじめがつくなって思うし、なかなかアルバムを作れなかったのってそこを諦めきれなかったからかなって。意外と自分は負けず嫌いだし……それこそ、[Alexandros]先生とか、ゲスの極み乙女。とか、自分たちの後輩がどんどんステップアップしていっているわけじゃないですか。その感じを悔しいって思ったりしていたけど、今はそう思わないんです。1000人とか2000人のキャパシティでもいいライブができたらいいなって思うし、CDも1万枚とか売れたらいいなって。その代わり、もっと違う方法がたくさんあるなって思います。だから、売れなきゃだめっていうシステムからちょっとドロップアウトしたい。ただ、影響力は持っていきたいなと思う。ご意見番みたいなことじゃなくて、ちゃんとシーンの中に関わっていきたいと思います。できればインディーズになりたい……これはビクターの中にそういう新しいシステムが作れたらいいなと思う。レーベルの未来もいっしょに考えていきたいなと思っています。だから、今までのサカナクションは次のアルバムで終わりだと思う。これは、解散するとかっていう意味ではなくてね。」
「新しいことを始めるときはどんなことも批判があるし、失敗も繰り返すけど、早くトライして早く失敗して早くやり直したい。ふふふ(笑)。それを頑張って試行錯誤していくので、サカナクションに興味がある人も興味がない人も、その動向を見ていろいろ言って欲しいんだよね。そして一緒に考えていけたら、今の時代っぽいと思います。与えるだけじゃなくて一緒に作っていく感覚にしたいなって。SNSは僕らからするとプロモーションツールでしかないし、ファンとの交流って危ういから使い方って怪しいんだけど、もっといい使い方やいい関わり方があると思います。いろいろと実験していくので見ていてください。」