原作者の池井戸潤さんが語る『下町ロケット』(2015/11/14 放送)
今週は、小説家の池井戸潤さんをお迎えしました。
池井戸さんと言えば、ドラマ『半沢直樹』の原作者としてお馴染み。今回のトークでも「直木賞作家って言われるよりも『半沢直樹』の原作者って言われることの方が多いですからね」とおっしゃっていましたが、現在はその直木賞受賞作品『下町ロケット』を原作とするドラマがTBS日曜劇場で放送中です。
池井戸さんと言えば、ドラマ『半沢直樹』の原作者としてお馴染み。今回のトークでも「直木賞作家って言われるよりも『半沢直樹』の原作者って言われることの方が多いですからね」とおっしゃっていましたが、現在はその直木賞受賞作品『下町ロケット』を原作とするドラマがTBS日曜劇場で放送中です。
今回のドラマ『下町ロケット』には、恵さんも、阿部寛さん演じる主人公の会社を大きなピンチから救う神谷弁護士役で出演しています。「あれ、事前に取材したのは2つしかなくて…」と、『下町ロケット』について話してくれた池井戸さん。1つは下町の町工場、そしてもう1つは恵さん演じる知財専門弁護士のモデルになった方だったそうです。
作品を作り上げるプロセスについて訊ねると、池井戸さんはこんなふうに話してくれました。「あんまり細かいこと考えないで、スタートのところからゴルフのロングパットするようなイメージ…大体こんな感じだろうみたいな…で書いていくんですよ。で、何か書くと、次はたぶんこうでしょう、そうなるとこれはこうだよね…って積み上げ方式で書いていくんですよね。それは800枚ぐらい書くと大体そのぐらいで物語って終わることが多いんですけど、後で読み返してみるとイマイチだったりするところもあるんで、後になって直すんですよね」
実は『下町ロケット』には同じストーリーで構成が違う2つのバージョンがあったそう。今、世の中に出ているバージョンでは神谷弁護士が物語の途中で活躍しますが、もう1つのバージョンでは神谷弁護士が最後に活躍するんだとか。
「だけど、今の書店で売られている下町ロケットとそれと読み比べてみると今の方がいいだろうということで、今のロケットになったんですよね。ただ、今のロケットは一般的なエンタメの構造からするとちょっと変わった構造になっていて、2段式になってるんですよ。ロケットみたいに。第1エンジンが神谷弁護士のところ。で、第2エンジンが点火されるっていう。2つ山がある構造になってるんで、そういう意味ではちょっと変わった小説だなと思いますね」
直木賞にも輝いた『下町ロケット』ですが、意外にも、作者の池井戸さんにとっては「全然自信がなかった。これはヤバイなと思ってた」んだとか。「素直に面白いものってほとんどなくて、これ、あそここうすれば良かったんじゃないか?とか、こういうふうに書いたらどうだったか?とかいろいろ思ってるわけですよ。ただまぁ、おそらくこれがベストであろうと。ただ小説としてのベストでじゃないだろうと。だけど、値段を付けて読んで頂くぐらいの品質というか中身にはなってるんじゃないかなというところで出しますけども…仕事なので」
池井戸さんはまずパソコンで原稿を書き、一度プリントアウトしたものに赤ペンで直しを入れて書き直すそうです。「やっぱりモニタで見るのとプリントアウトして見るのではちょっと見え方が違うんですよね。大体それで5回ぐらい書き直しますよね」
「作家の力ってただ書けるだけではダメだと思うんですよね。直すことも書くことと同じくらい大事な力で、もう1つ言うと評価するっていうのもすっごい大事だと思うんですよ。書いたものがどうなんだっていうこと。で、自分が書いたものがすべてベストだって思ってしまうっていうのはちょっと危ないというか。ここはいいけど、ここはちょっとダメだとか、もう少しこうなるはずだとか、批評的な観点が常にあるっていうのも凄く大事」
小説家には客観性が必要だという池井戸さん。それについてこう話してくれました。「いちばん客観性が重要なのは、登場人物の台詞。この立場にいて、こういうキャラクターで、この状況で、はい何言いますか?っていった時に、プロットはこうなっていくはずだっていう頭はちらっとはあるんですよね。でも、それに合わせて台詞を選んじゃうと凄く意図的な展開になってしまうんですよ。そうじゃなくて、この人だったら、きっとこの状況だったらこう言うはずだと思うことを語らせるっていうことが凄く大事なんですよね」
プロットや書き手の都合を反映させてしまうのが一番いけないことなんだとか。「作品の登場人物っていうのはみんな生きてる人なんですよ。僕が書いてますけど、読んでる人は生きてる人だと思って読んでるじゃないですか。だから、書き手としてはこれは生きてる人だと思って書かなきゃいけないんですよ」
「小説って600枚から800枚書くケースが多いんですけど、事実が間違ってることってちょこちょこあるんですよ。ちょっと取材が至らなかったりとか、なんらかの誤解があったりとか、だけど、事実の間違いっていうのは傷は傷なんですけど、実はたいした傷じゃないというふうに僕は思っていて、一番の傷は、こいつがこんなこと言うわけないじゃないか!って読者に思われることですよ」
池井戸さんが小説の題材として選ぶテーマには3つの条件がいくつかあるそうです。「テーマが新しいっていうか小説として新しいっていうこと」「あと、豊穣な物語ができる…ああなってこうなって…どんどんどんどん転がっていく、レ・ミゼラブルみたいな小説になりうるってこと」「オリジナリティがあるってこと。僕しか書けない小説」「その3つの条件が合わさったテーマであればいいなと。あと、もう1つ付け加えるとすれば、僕自身が面白いと思えること」
でも、さすがにそういった条件を兼ね備えたテーマはなかなかあるものではないようです。「60点とか70点ぐらいの小説だったらいくらでも書けるんですけど、今みんな1500円の小説とか高いって思ってらっしゃるし、やっぱりそれなりに厳しいものを要求されているので。そういう60点70点でいいぐらいの話だと即座に読者がいなくなってしまうので…」
「自分としてはこれがベストじゃないにしてもこのテーマで今まで取り組んできて、これ以上はできないっていうところまではまずやると。で、それで世の中に投入して読者に恵まれるかどうかっていうのは、これはもうわからないですね」
来週も引き続き、池井戸潤さんをお迎えして最新作『下町ロケット2 ガウディ計画』のお話などを伺います。お楽しみに!