末續慎吾さんが“脱・勝利至上主義”を語る(2020/12/12 放送)
今週は、陸上の末續慎吾選手にリモートでお話を伺いました。
今年10月に『自由。世界一過酷な競争の果てにたどり着いた哲学』という本を出した末續さん。1980年6月2日生まれの現在40歳です。
恵さん「40歳まで(現役で)走るって思ってらっしゃいました?」
末續さん「それ毎回聞かれるんですけど、ホントに思ってなかったですね」
子供の頃から「圧倒的に速かった」という末續さん。高校は、地元・熊本の九州学院高校に進学します。
恵さん「2校の高校の先生からうちに来てくれと誘われて。1人の先生は、僕が必ず強くすると。もう1人の先生は、僕は何もわからないけど、君と一緒に陸上をやりたい、先生もいろいろ勉強すると。普通に考えたら、この二択が来たら絶対、君を僕が強くするよ、ってとこに行きそうじゃないですか」
末續さん「行きますよね。(後者を選んだのは)子供だったんでしょうね。素直な、ストレートな気持ちというか。いや、俺もうわかんねえから、って言われた方が、じゃあ僕も…みたいな感じになったのかもしれないですね、当時は」
そして、高校時代に国体の100Mで2回優勝した末續さん。東海大学在学中の2000年にはシドニーオリンピックに出場します。
末續さん「オリンピックに出たいとは思ってましたけど、こんなに早く出るとは思ってなかったし。でもチャンスが目の前に来た時には、全身全霊でやっていったっていう記憶があるんですけど…」「今走ることが好き!っていうことに集中してたからできたのかなって気はします」
末續さんが大きな飛躍を見せたのは2003年のこと。パリでの世界選手権の200Mで3位に入り、オリンピック・世界選手権を通じて短距離種目における日本人初のメダリストに。また、同じく2003年には、日本選手権で20秒03という200Mの日本記録を樹立します。
末續さん「2003年はもう時間が速すぎて…」「自分が何をやってるかまずわかってなかったですよね、今思えば」
恵さん「記録というのはいつか人に抜かれてしまうものなのかもしれませんが、20秒03というのはまだ破られていない」
末續さん「嬉しいですね」
恵さん「そういうのって気になります?」
末續さん「絶対に気になるんですよ(笑)。でも、それがあんまりにも長くなると、え、なんで?って考えるようになりますよね。これなんで抜かれねえんだろうな?って逆に思ってくるっていうか」
恵さん「スプリンターの皆さんって何が足跡になるんですか?残すものってやっぱ記録なんですか?それともメダルなんですか?」
末續さん「自分に対して残すのはメダルでしょうね。やっぱ順位なんで。記録っていうのは数字だったりするので残らないですよね。誰かに抜かれるので」
今年10月に『自由。世界一過酷な競争の果てにたどり着いた哲学』という本を出した末續さん。1980年6月2日生まれの現在40歳です。
恵さん「40歳まで(現役で)走るって思ってらっしゃいました?」
末續さん「それ毎回聞かれるんですけど、ホントに思ってなかったですね」
子供の頃から「圧倒的に速かった」という末續さん。高校は、地元・熊本の九州学院高校に進学します。
恵さん「2校の高校の先生からうちに来てくれと誘われて。1人の先生は、僕が必ず強くすると。もう1人の先生は、僕は何もわからないけど、君と一緒に陸上をやりたい、先生もいろいろ勉強すると。普通に考えたら、この二択が来たら絶対、君を僕が強くするよ、ってとこに行きそうじゃないですか」
末續さん「行きますよね。(後者を選んだのは)子供だったんでしょうね。素直な、ストレートな気持ちというか。いや、俺もうわかんねえから、って言われた方が、じゃあ僕も…みたいな感じになったのかもしれないですね、当時は」
そして、高校時代に国体の100Mで2回優勝した末續さん。東海大学在学中の2000年にはシドニーオリンピックに出場します。
末續さん「オリンピックに出たいとは思ってましたけど、こんなに早く出るとは思ってなかったし。でもチャンスが目の前に来た時には、全身全霊でやっていったっていう記憶があるんですけど…」「今走ることが好き!っていうことに集中してたからできたのかなって気はします」
末續さんが大きな飛躍を見せたのは2003年のこと。パリでの世界選手権の200Mで3位に入り、オリンピック・世界選手権を通じて短距離種目における日本人初のメダリストに。また、同じく2003年には、日本選手権で20秒03という200Mの日本記録を樹立します。
末續さん「2003年はもう時間が速すぎて…」「自分が何をやってるかまずわかってなかったですよね、今思えば」
恵さん「記録というのはいつか人に抜かれてしまうものなのかもしれませんが、20秒03というのはまだ破られていない」
末續さん「嬉しいですね」
恵さん「そういうのって気になります?」
末續さん「絶対に気になるんですよ(笑)。でも、それがあんまりにも長くなると、え、なんで?って考えるようになりますよね。これなんで抜かれねえんだろうな?って逆に思ってくるっていうか」
恵さん「スプリンターの皆さんって何が足跡になるんですか?残すものってやっぱ記録なんですか?それともメダルなんですか?」
末續さん「自分に対して残すのはメダルでしょうね。やっぱ順位なんで。記録っていうのは数字だったりするので残らないですよね。誰かに抜かれるので」
末續さん「ただシンプルに、その時8人集まって誰が1番速かったっていうのが…」「やっぱり順番っていうのがスプリンターとしての足跡なのかなと思いますね。ま、幸せなことですよね。そういう人生を生きさせてもらってるっていう捉え方にもなってきますしね。自分だけじゃ絶対にここの状況に立てることは100%なかったんで」
さらに、2004年のアテネオリンピックでは4×100Mリレーで4位、2008年の北京オリンピックでは、同じく4×100Mリレーで銅メダルに輝いた末續さん。北京に関しては、優勝したジャマイカのドーピングが後に発覚し、日本は繰り上げで銀メダルになっています。
恵さん「僕の中では、これは今までのオリンピックと違って、これ以上出し切れないほどのエネルギーを持って臨んだ。それが北京だった。それでメダルになった。その色が銅だった。それだけのことなんだと。記録じゃなくて、タイムじゃなくてね」「色は銅だけど、俺はもうこれ出し切ったんだよっていう。銀で嬉しいでしょ?いやいやそうじゃないんですよ、っていうことでしょ、要するに」
末續さん「銅メダル取った時に、ただただ早く帰りたい、って思ったりとか。本来喜ぶべきものに対して喜べなかった自分がいて。で、そこから何年もたって銀メダルに変わった。それまで10年近くたってるんですけど、その10年なんで走ってこれたかっていうと、その時一生懸命できたから今もできるんだと。それに確信があるんで頑張ってきたから、もうそれ以上でも以下でもなくて…今自分を生かしてるものって。で、それがいきなり銀ってなっても、いやもう充分やってますから、って思ってるからこそ、そういった意味で感情が動かないというか」
恵さん「メダルを取ることが人生の目的地じゃないからこそ、メダルの色が変わったという事実に対して、嬉しくも悲しくもなかった。これからまたメダリストとしての生き方が問われるのだという覚悟をしただけだった。いやぁいい言葉だなぁ。足跡はメダルですよ、タイムじゃないですよ。でも、メダルを取ることが別に人生の目的地じゃないんですよ。ここがもうホント素晴らしい」
2008年の北京オリンピックの後、末續さんの体と心はボロボロの状態だったようです。
末續さん「まず体に力が入らないです。目が開かなくなっちゃうっていうか。燃え尽きたのもあるし、体力的にも肉体的にもそれ以上酷使するとマズいっていう状況に…脳みそがそう思ってたのかもしれないですね、無意識に。体を休ませようとか寝かせようとか。例えば、もうそれ以外のものに対してエレルギーを使わないような指令を出すんですよね。だから非常に危険な状態っちゃ危険な状態というか」
恵さん「朝は部屋を真っ暗な状態にしてゆっくり目を開けたり閉じたりしながら起きる。いきなり目が光を受けるのは刺激が強すぎて頭が痛くなるような状態だった。それから起きるという行為自体にもエネルギーを使うので、起きて立ち上がるのに2時間ぐらいかけてた…。あのアスリートがですよ」
そんな状態だった末續さんが復帰するまでには3年もかかったそうです。
恵さん「2011年6月、日本選手権を自宅のテレビで見ていた。誰か忘れたけど、ある選手が200メートルで優勝した。テレビを見ながら、俺だったらこのレースこうすんな、ってポロッと言ってた。独り言。その時に電気が走った…」
末續さん「そうなんですよ。今でも覚えてますね。それまではまず日本選手権っていう試合とか陸上競技のシーンにそこまで触れなかったんですよね。怖かったっすよね。自分を壊したところでもあるので。また壊れんじゃないかなって。また戻っちゃうんじゃないかっていう」
そして末續さんは、ご自身を壊してしまった“勝利至上主義”について話してくれました。
末續さん「スポーツとか勝負事においては、まぁ方便として持つべきなんですけど、でもそれが中心ではないんですよね、元々。それが絶対続くことなんてないし、不自然なことを美学にしてやってた時期があって。だんだん体も心も通常からおかしくなって健全ではなくなってくるんですよね。その勝利至上主義っていう思想的なものにホントどっぷり浸かって。で、それを命がけでやるとホントに死ぬんだなっていうのは思いましたね」
恵さん「人は結果を出したら救われると思ってたんですけど、結果を出してもそうならないことがあるんですね」
末續さん「あるんですよ。自分が思ってる結果を出した時に、やった!って思う場面と、俺なにやってたんだろう?って思う場面って絶対あるんで。だから、なんのためにやんの?っていうところに至らなきゃいけないんですけど。そこですよね。そこで僕の場合は、本気で人の夢を叶えようとしたので、叶えたんですよね。だけど、人の夢とホントに走りたいっていうこととは別だったりもするし」
恵さん「今はそこはもうスッキリしたんですか?」
末續さん「そうですね。まずそれが自分がやりたいことなのか、結局、自分が決めることなんで。僕が勝利至上主義で突き詰めたら、自分も自分の周りの世界も笑わなくなったんですよね。だから、これは違うんだろうなと」
来週も引き続き、末續慎吾さんをお迎えします!