駅伝での挫折からトレイルランニングへ…鏑木毅さんの挑戦(2018/10/27 放送)
今週は、プロ トレイルランナーの鏑木 毅(かぶらぎ・つよし)さんをお迎えしました。
トレイルランニングというのは自然の野山を走るスポーツ。半世紀ぐらい前の北米で誕生し、日本では20年ぐらい前から行われているそうです。
「普通に登山するような山を走るスポーツなんですね」「四つん這いにならないといけないような山は避けて、基本は走れる山なんですけども、けっこう険しい山なんかもコースになってたり、ホントにいろいろですね。」
走る距離は「ビギナーの方だと5km、10kmから」とのことですが、中でも一番の花形は100マイル、約160kmのコースなんだとか。
「アメリカが発祥の地なので、マイルなんですね。100マイルを完走すると“100マイラー”って言われて、尊敬の眼差しで見られるような対象になるんです。トレイルランニングの世界では“100マイラー”っていうのはホントに憧れの言葉ですね。」
そんな100マイルを完走するのにどのぐらいの時間がかかるかと言うと…
「コースにもよりますけど、速い選手だと20時間とかですね」「ただ、ホントに山なんで、160キロの間に日本アルプスを10回ぐらい上り下りするようなコースです。」
「もちろん僕はプロなんで争うんですけど…100マイルのレースなんて、さすがに9割5分の方は争うっていうよりは完走がターゲットなんで、そこはプロと一般の方でだいぶ考え方が違うところはありますね。」
鏑木さんに「なぜトレイルランニングが競技になったんだと思いますか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「たぶん、いかに長い山道を短時間で抜けられるか、っていうことに対して、昔から、修験道の時代から、そういうカルチャーっていうのがあるんじゃないかなって思うんですよね。それが競技化したというような形で、人間が持ってる欲望の中にはそういうものがあるような…僕はやりながらずっとそう思っています。」
「山を登って降りて、長い時間をかけて自分を試す、時には人と競争する、みたいな。そういう気持ちっていうのがどっかにあるような気がしますね。」
また、鏑木さんはトレイルランニングという競技についてこんなことも話してくれました。
「100マイルレースなんかの長い競技になると、“エイドステーション”っていう仮眠施設みたいなのがあるんですよね。で、仮眠して栄養とってすぐに出ていくっていう。F1のピットインと同じで、そこもレース中の時間に換算されるんですよね。」
「山のスポーツなので、基本的には(食事も)自分で持っていかなきゃならないんですね。エイドステーションにある時もあるんですけど。なるべく軽いもので、しかも高カロリーですぐにエネルギーになる、ジェルって言われているようなものなんです。」
鏑木 毅さんは、1968年10月15日生まれの現在50才。群馬県出身で、中学3年生ぐらいから陸上を始めたそうです。その後、大学では箱根駅伝を目指したそうですが、スポーツ推薦ではなく、二浪して一般入試で早稲田大学に入ったんだとか。
「僕の力だと早稲田ぐらいでしか走れなかったんですよね。早稲田だとスポーツ推薦の他にも一般推薦で入る方も若干、走れたんですね。枠があった。」
「1年生の時は2年もブランクがあったんで全然ダメだったんですけど、2年生になった時にいわゆるAチーム、箱根駅伝に出られるトップ選手のカテゴリーに入れたんです。でも腰を痛めて、坐骨神経痛になってしまって。もう練習についていけなくなって、結局、3年になる時には走れなくなって辞めざるをえないっていう…。好きだったんで走ってはいましたけど、目標を見失っちゃいましたね。」
大学を卒業した鏑木さんは地元の群馬県庁に就職しますが、走ることに対する未練はあったそうです。
「なんで俺、こんな感じになっちゃったんだろう?みたいな。だからホントに無気力公務員で、体重も80kg代に増えちゃって…今は60kgぐらいですけども。ひどかったのは毎晩のように仕事終わったら飲みに行って、カラオケボックスに行ったり…。」
「箱根駅伝に代わって情熱を燃やすものが何もなかったですね。目標がなくて生きているっていうのがホントに苦痛で…。でも何もないっていう」「仕事にも情熱が向かなくて、本当に死んだような日々でしたね。辛かったです。」
そんな鏑木さんがトレイルランニングに出会ったのは28才の頃だったとか。
「ある朝見た新聞に泥だらけになって山を走ってる写真があって、なんだこれ?みたいな感じでググって引き寄せられて。それがトレイルランニングの写真だったんですね。」
そして、トレイルランニングの大会に出ることを目標に再び走り始めた鏑木さん。1年間精進して、2000m級の山を縦走する20kmぐらいの大会に挑戦したそうです。
「だいたい最初は上りで苦しいんですけど、トレイルランニングって最初は登ってゴールに近づくにつれて下っていくっていうスタイルが多いんですね。で、下りになった時にすごく気持ちよくて、ホントにサーフィンとかスノボで下るような感じで。これ楽しいなぁ!みたいな感じでそのままゴールしたら、優勝しちゃったんです。」
「優勝したことよりも、今までの苦しいやさぐれた生活から、ようやく箱根駅伝に代わる新しい自分の夢が今見つかった!っていうのが嬉しくて嬉しくて。ホントにそれまでは世の中がグレーみたいな色だったのが、いきなりビビッドな世界が広がったみたいな感じでした。」「やっと自分も人間らしく生きられるなぁっていう。」
↓こちらは鏑木さんの著書の1つ『トレイルランニング』(エイ出版社)